「神」の苦悩
「神の仕事」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。
世界の統治と思う人もいるのではないだろうか。現実社会でも、日本古来の神もいれば、亡くなった人が神に、あるいは絶対神という存在が一つあるだけなど、様々な認識の仕方がある。だが、少なくとも、この世界における神と呼ばれる存在の仕事は、別世界で死んだ者の転生であった。新しい生命として、10ある世界線のどこかに授けるというものだ。そして、ごくまれに神の気分次第で、その転生者に特別な力を与えた。目を向けられないような死に方をした者、現実世界で功績を残した者、単純に面白い生き方をしていた者、神の気分次第で選ばれたものは、まず、「神の間」に呼ばれ、神と対話をする。その中で、次はどんな人生を歩みたいかなどを話し合い、世界線に転生させる。過去には、勇者になりたいと申したものには、大地を割る剣を与え、商人を極めたいと言った者には、加護を与え、自由に生きたいといった者には錬成の力を与えた。そのような力が強大であればあるほど、世界の均衡を大きく覆す。そのため、力を与える者には、50年間という期限がついた転生を行ってきた。
普通であれば、どれほど才能や力が強くても寿命を迎えるため、神もその範囲において多少の力を与えても大丈夫であると考えていた。しかし、ここ最近、力を与えた弊害が出てきた神を悩ませていた。それは、力を与えた転生者が戻ってこないということである。さっきも言ったが、力を与えていた者には、50年間という期限を設け、もし期限を過ぎても寿命で近いうちに死ぬと考えてきたが、転生者は与えられた力を使い、寿命を延ばすということに成功した。これにより、神も予想しない期間異世界に残り続け、世界の均衡を崩している。いくら神といえども、一度異世界に行ってしまった者に干渉することはこの世界では許されていない。なぜ期限を制約にしなかったのかと神は何度も後悔した。近年では、50年後に力を失うという制約付きで力を与えた転生者を送り出しているが、条件設置前の転生者たちに狩られてしまい、悩みの種となっていた。
「どうしたものか」
そんな時、ふと目に入った若者。名前を達成というらしい。日本という国で、達成とはすなわち成し遂げることであり、名前の響きが神の直観を誘った。こやつならこの状況を変えてくれるかもしれない。そんな単純な理由で、達成を神の間に、招いたのであった。
「この老人は誰だ。そう思ったじゃろ」
青年は突如背後から現れた老人に目を丸くし驚いたようにも見えるが、警戒をしているように見えたため、現状を説明することにした。
「君は、自分の足で駅のホームに向かい、自分の意志で生きることを諦めた。そして、今おるのは死後と生誕のちょうど間の世界。神の間なんてよばれておる」
「ということは、あなたは神なんですか」
「いかにも。わしが神じゃ」
「これって、まさか。神が俺に力を与えて、異世界を救ってくれ的な。」
この間に呼ばれた者の多くは、自分が今どういう状況なのかを理解するまでに時間を要し、黙っている者、会話にならない者が多い。しかし、この青年、意気揚々と話した。最初は、何を話し出したのかこちらが理解できなかったが、むしろこれからの流れを理解したうえでの発言であるとすぐにわかった。青年の体が硬直から解け、少々警戒気味だったのが、ときめくようなそんな感じにも見えた。この青年が元居た世界では、転生ものの創作物が流行っているとは聞いていたが、たまたま目を付けた青年が、異世界の転生について詳しいとは。話が早い。
「そうじゃな。お主のいう通りじゃ。異世界を救ってほしい。」
いつもなら無駄な説明をしないといけないのだが。
「よっしゃぁぁ。これぞ夢にまでみた展開。ガチャに成功だぁぁ」
この部分はどういう意味なのか理解できなかったが、とりあえずは喜んでもらえたようだ。警戒も解けてきただろう。
「それで、俺にどんな力を与えてくれるんだ。世界を救ってくれってことだから、敵をなぎ倒す武力か。はたまた、とんでも魔法でそれまでの常識を覆す的な展開か。」
「ず、ずいぶん詳しいようじゃな」
最初は、異世界転生になじみがあることで喜んだが、この青年の話を聞けば聞くほど、自分が今からお願いしようとしていることが、青年の考えから離れている気がしてきて、なかなか言い出しにくい状況になってきた。困ったなぁ。
「あ、でも。周りからあてにされていなかった能力が実は最強だったみたいな展開もいいな。なぁ、神よ。そんなもったいぶらずに早く教えてくれよ。どんな能力をくれるんだ。」
まっすぐな若者の目をまぶしく感じながらも告げるしかなかった。
「達成よ。よく聞いてくれ」
「うん」
「君に与える能力は……不法滞在者を天界に戻す魔法じゃ」
──────────は?




