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怪異予知レストラン 〜ギャルソン「橘」が恐怖体験を予知したメニューをお出しするレストランへようこそ〜  作者: 路明(ロア)


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Menu9:鱧のローズカルパッチョ ~深紅の彩り、白い花束の誘い~

 レストランのガラス戸の向こうを、車が通りすぎる。

 さきほどすこし降った雨の水をタイヤがはじく音がした。

 

 江花 莉子(えばな りこ)は、その音をイヤな気分で聞いた。


 レストランの入口まえは、幅がせまく歩道も整備されていない。

 そのわりに交通量は多いという道だ。

 さいきんは乱暴な運転の車も多く、会社帰りにいつもヒヤヒヤする。



 でも、こんなお店があったの知らなかったなと思い店内を見まわす。

 

 テーブルは十ほどあるだろうか。

 そのうちの一つ、白い花束を持った男性の絵がかけてあるテーブルに通された。

 木目調の落ちついた内装に、やはり落ちついた木製のカウンターテーブル。

 カウンターテーブルに沿ったかたちで設置されているベンチ型のイス。


 レトロなカフェといった雰囲気の店だ。



 会社帰りに駅へと歩いていたところ、ギャルソン姿の男性に声をかけられ無料で試作料理はいかがと誘われた。


 会社の制服にスプリングコートをはおっただけの格好だったのでいいのかなと思ったが、それを知って声をかけているのだ。

 ギャルソンはおしゃれな感じだが、たぶんお店のほうは会社帰りの人がほとんどという感じの気さくなお店なのだろうと思った。


 入ってみてから、すこし気おくれする。


 ほかに客がいないからいいようなものの、どちらかといえば(つう)好みの隠れ家的なお店という感じだ。

 場違いじゃないのかなとそわそわと店内を見まわす。


 

 ガチャッと音がして、カウンター奥の厨房のドアが開く。


 

 帰り道で声をかけてきたギャルソン姿の男性があらわれた。

 胸もとのネームプレートに「(たちばな)」と表記されているのに気づく。


 橘さんか。


 芸能人にいそうなくらいのイケメンだけど、会社の友だちにここ教えたらどんな反応するだろと想像してみる。

 「うわ、すごイケメン」と目を丸くされそう。

 ここを隠れ家みたいに使ってる人には、そういう客が増えるのは迷惑かなと考えてみる。


 コツ、コツ、と木製の床の音を立ててギャルソンがこちらに歩みよる。

 胸に手をあて、きれいなしぐさで礼をした。



「本日のメニューは(はも)のローズカルパッチョ ~深紅の彩り、白い花束の誘い~となっております。魚介類、乳成分、卵、ごま等がふくまれておりますが、アレルギー等はございませんでしょうか」



「えと……ないです」

 莉子(りこ)は答えた。

「あの、ほんとうに無料ですよね?」

「試作なので無料でございます。お代はいっさいいただきません」

 ギャルソンが感じよく微笑する。

「少々おまたせしてしまい申しわけありません」

「いえ、いいんです」

 莉子は両手をぶんぶんと左右に振った。


「あの……じつはここのところ、まえの道で変な男の人に遭うことがあって。正直、ここで時間つぶして避けられるからちょうどいいなってのもあって」


 莉子は苦笑いした。

 ギャルソンが、わずかに目を見開いて莉子を見る。

「あ、なんかされたってわけじゃないんです。ただいつも遭うし、じっと見てる気がするっていうか。格好もふつうにスーツの人なんですけど」



「そうですか。では道中はお気をつけて」



 ギャルソンがもういちど礼をする。

「あ、はい」

 莉子はそう返事をした。

 ギャルソンが厨房へと戻り、ややしてから銀色のトレーを格好よく持ってあらわれる。

 

「おまたせいたしました。鱧のローズカルパッチョ ~深紅の彩り、白い花束の誘い~でございます」


 深紅の皿に盛られた白い花束のような料理をテーブルに置く。

 よく見ると、うすく切った白身魚をまるめてバラの花のようにしてならべている。

「きれい……」

 莉子は声を上げた。

 ギャルソンが、ソースボートを持ちゆっくりとソースをかける。

 オリーブオイルとレモン汁をベースにしたソースなのだろうか。さわやかでコクのある香りが鼻腔をついた。




 

 おいしいカルパッチョを食べて、莉子は満足した気持ちで帰途についた。


 駅までの道はあいかわらず交通量が多く、歩行者には怖い。

 駅のすぐまえの交差点にさしかかり、莉子は信号が青になるのを待った。

 青になる。

 横断歩道へと踏みだそうとしたとき、黒いトレンチコートに黒いスーツの長身の男性がスッとまえに立ちふさがった。

 

 目を見開く。


 いつもの人だ。

 莉子は全身を固まらせた。


 その場で立ち止まる。

 いままで近づいては来なかったのに、どうして。

 横断歩道を渡って行く大勢の人のうちのだれかに助けを求めようかと思ったが、みながこちらには見向きもせずにまっすぐに横断歩道を渡って行く。

 男性が、莉子を見下ろした。

 

 

「最後の晩餐(ばんさん)は満足できましたか?」



 どこか甘いが低い響きの声で問う。

 男性が、莉子に白い花束を差しだした。

 受けとらずに莉子はわずかに後ずさった。

 さきほどのレストランの料理のように、あざやかできれいで、一枚一枚の花びらがつやめいたバラの花束。


 だがこうして見ると、お葬式の祭壇に添える花に思える。



「もう行きましょう。お送りしますので、道中はお気をつけて」



 男性が告げる。

 とたんに莉子の脳裏に、ひどい衝撃を受けてアスファルトにたたきつけられた記憶がよみがえった。

 交差点のまんなかに、変な方向に体をねじ曲げて横たわる自身の幻影が見える。

 


 一年ほどまえだ。


 横断歩道の手前で、信号無視でつっこんできた乗用車にはねられた。



 そうだった。

 死んだのだった。


 それからいつもじっと見ていたこの男性は、死神だろうか。



 交差点のまんなか。即死状態でピクリとも動かない自身の体のまわりに、血がじわじわと広がる。

 さきほどのレストランの深紅の皿のようだと莉子は思った。




 終





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