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怪異予知レストラン 〜ギャルソン「橘」が恐怖体験を予知したメニューをお出しするレストランへようこそ〜  作者: 路明(ロア)


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Menu6:嘘つきの逆さまエスプレッソ

 境井 真也(さかい しんや)はレストランのカウンターテーブルに浅く座ると、スマホを取りだしてかたわらに置いた。

 時間は午後八時。


 場所は閉鎖したテナントビルの横の階段から降りた地下。


 ギャルソン姿の男性が地下への暗い階段を降りていくところを見かけて話しかけたところ、店内にうながされた。

 レストランの客ではないと言ったのだが、立ち話も何ですからと人あたりよく言われて、何となくいっしょに店内に入ってしまった。


 ダクトや配管がむき出しになった、いわゆるスケルトン天井のレストランだ。

 ステンレスダクトと、六つのテーブルの木の天板が独特の対比を醸しだしている。

「すいません、聞きたいことあっただけなんで」

 真也(しんや)は店内を見まわしつつ切りだした。


「通りすがりの人に “無料で試作料理を食べないか” って声をかけて、未来に起こる怪異を予知した創作料理を出すってレストランって知ってます?」


 

「さあ。存じ上げませんが」



 カウンターテーブル向こう側のギャルソンがそう答える。

 声をかけたときも思ったけど、えっらいイケメンさんだなと眉をひそめる。

 スラッと細身の長身に、スタイリッシュなギャルソンの服装がめちゃくちゃはまっている。

 正直、この男性モデルみたいなドイケメンが、都市伝説のレストランの話にピッタリのイメージに見えたので思いきって声をかけてみたのだ。



 胸元のネームプレートには「(たちばな)」と表記されていた。

 名前までかっこいいんでやんの。



 収益化もままならない初心者のホラー系ユーチューバーだが、こういうドイケメンを登場させたら女性の視聴を稼げるだろうかと考える。

「あの、橘、さん。ギャルソンさん」

 真也は気おくれしながら声をかけた。


「はい」

 ギャルソンが品のいいしぐさでふりむく。


「店内、ちょっと撮ってもいいすか? 何つうかオシャレなんで。――あ、注文ないんですぐ出ていきますから」

 真也はそう告げた。

 メニューは置かれていないのでこのレストランの値段の相場は分からないが、一人暮らしの新人製造業に予定外の外食をする余裕はない。

 ちょっとは生活の足しになるのかなとユーチューバーをめざしてみたが、収益化のハードルの高さに愕然(がくぜん)としたばかりだ。

 

「どうぞ、ご自由に」

 ギャルソンがにっこりとほほえんで答える。


「ありがとうござーす」

 “あざーす” をちょっとていねいに言ったような感じで真也は会釈をした。

 ギャルソン本人をというと個人情報がなんたらとか断られそうな気がしたので、店の内装と言ったのは正解だと思う。

 投稿したあとに何か言われるかもしれないが、そのときはそのときだ。

 サムネイルにこのドイケメンをドーンと載せて、「都市伝説のレストランを訪ねた結果w」とか、「衝撃」とか「神回」とか「保存版」とか。


 コツコツコツ、とドラマみたいにかっこよく歩くギャルソンの横顔をこっそりと撮影する。


 ギャルソンが、ふとこちらを見た。

 カメラで追ってんのバレたかなと思い、かたわらのイスに置いたリュックのベルトをにぎる。

 (とが)められたら一気に立ち上がって走って逃げるつもりで腰を浮かした。


 ギャルソンがすぐに前方を向きカウンターの奥の厨房らしき入口へと入っていく。


 バレたわけじゃないのかと真也は息をついた。

 ギャルソンが銀色のトレーにコーヒーカップをのせて厨房から出てくる。

 真也のまえに濃いコーヒーをコトリと置いた。



「よろしければどうぞ、サービスです。――本日の日替わりコーヒー “嘘つきの逆さまエスプレッソ” 」



「え……ウソつき」

 こっそり撮っていたのを回りくどく責められたのかと思い、真也は頬を引きつらせた。

「本日はエイプリルフールですので」

 ギャルソンがにっこりと笑う。

 そういうことかと真也はもういちど息を吐いた。

 

「わたくしも年にいちどのこの日を楽しみにしておりまして」

「はあ」


 どんなウソをつくか計画を練るようなタイプか。

 まさか訪ねてきた初対面の人間にまでウソはつかないと思うが。

「えっ、このコーヒーが無料ってのは」

「それはほんとうでございます。安心してどうぞ」

 ギャルソンがそう答える。


 おどかすなよと思いつつ出されたエスプレッソを口にする。

 

 濃いコーヒーだが、ミルクを入れてないのにほんのりミルクの味が混じる。

「え……何かミルクの味?」

「エスプレッソの底に、ミルクゼリーを沈めております。よろしければスプーンでそっとすくい上げてお楽しみください」

 ギャルソンが答える。


 コーヒーの皿の上にあるスプーンでいいのだろうか。


 スプーンを手にとり、コーヒーの下のほうをさぐる。

 まん丸いミルクゼリーが二つほどスプーンに乗った。





「悪い、遅れた」


 郊外にある廃屋の近くの月極駐車場。

 真也がバスから降りて小走りで向かうと、同じチャンネルを運営する友人たちがもう集まっていた。

 学生時代の友人と、同僚が一人。

 ふだんやっているのは心霊スポットめぐりだが、目玉になるものはないかと都市伝説のレストランを聞き回っていたのだが。

 

「レストランあった?」


 同僚が苦笑いしながら尋ねる。

 みんなホラーをやりつつ幽霊や怪異はあまり信じていない。真也もまあ同様だ。

 レストランの話も、誰もほんものは期待してないという感じだった。


「なかったけど、すっげーイケメンのギャルソン撮ってきた。これ使えないかな」

「ちょっ、それ許可とったの? だいじょうぶ?」


 学生時代の友人が笑う。

「こっちの廃屋、なんも撮れなかったら使う? ――てかこっちはいちおう許可とったから行こ」

 もう一人の友人が、懐中電灯をつけながら廃屋へとうながす。

「許可ってそんなかんたんに取れるもん? なかなか取れないイメージ」

「もとの持ち主は死んじゃってるんだけどさ、そこ競売で買いとった不動産業者が友だちのうちでさ」

「けっこう太いパイプじゃん」

 同僚がそう返す。


 駐車場を出て生活道路を横切り、周囲の民家に気をくばりつつ廃屋の敷地内へと入る。


 許可を取ってくれた友人が、ポケットから鍵を取りだして玄関のドアノブに差しこんだ。

 横から懐中電灯で照らしてやる。

 

 ドアをそっとあけて、玄関内を照らした。


 いまのいままで生活していたんじゃないかと思うような整然とした屋内だ。

 上がり(かまち)に沿うかたちで敷かれたシックな玄関マット、きれいにならべて置かれたスリッパ。


「おじゃましまーす」

「えと。あやしい者じゃないのでー」


 口々にそんなことを言って上がり框に上がる。

 玄関からのびたみじかい廊下のさきがたぶん台所、右手にあるのがリビングのドアだろうか。

「こっちトイレか」

 同僚が左手にあるドアをあけて中をのぞきこむ。



 ひと通り屋内を見てまわったが、とくに幽霊が出るというわけでもなく怪奇現象ひとつ起こらないことにがっかりしつつ玄関へともどる。



「んー、動画見たら変なの映ってたとかさ、ないかな。心霊動画。ちょっと何かあってバズればさあ」

 ハンディカメラを持った友人が期待をこめて言う。

「収益化とか、まじ条件ムリすぎてなあ?」

 真也はさいごの仕上げにという感じで玄関の上から下までをぐるりと照らした。



 玄関の天井に、丸い大きな穴が開いていることに気づく。



「あれなに? 天井壊れてんの?」

 真也は天井の大きな穴を指し示すように照らした。

 ほかのメンバーもそろって上を見る。

「ほんとだ」

「二階の床が抜けた感じ?」

「ここの人の死因って、なんだっけ」

 真也は許可をとった友人に尋ねた。


「んー強盗に入られて、二階まで逃げたあげくに殺されたっつか」


 友人が天井を見上げる。あらためて口にするとさすがに不快感があるのか眉をよせた。

 天井から、ゴソッ、ゴソッと衣ずれの音がする。

「なんの音?」

 友人が眉をひそめた。

 ゴソッ、ゴソッという音が、ゆっくりと等間隔で聞こえる。

 だれかが天井を這っているような音だと真也は思ったが、まさかなと思う。

「配管とかあるんじゃね? 知らんけど――」


 

「うそつき……あやしい者じゃないって言ったのにうそつき……」



 天井から絞りだすような女の声がする。

 ややしてから天井のまっ暗い穴に二つの目玉が現れ、ギョロリとこちらを見下ろした。

 その場の空気が一気に凍りつく。

 全員が、逃げることもできずに固まった。



 さきほどレストランで出されたエスプレッソコーヒーと、そこに沈んだまん丸のミルクゼリー。



 それが天井に逆さまに現れたようだと真也は思った。




 終





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