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怪異予知レストラン 〜ギャルソン「橘」が恐怖体験を予知したメニューをお出しするレストランへようこそ〜  作者: 路明(ロア)


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Menu5:春の花々をしのばせたホワイトチョコのドーム 完熟いちごの温かいソースとともに

 あんまり時間あるわけじゃないんだけど、と友永 結衣(ともなが ゆい)は思った。

 さきほど高校の卒業式を終え、このあと友だちの彩香(あやか)の家で遊ぶ予定だったのだ。


 帰るまえに所属していたコーラス部の後輩たちにあいさつをしようと音楽室に寄ったら、思ったよりも長く引きとめられてほかの部員とともに話しこんでしまった。


 少し遅れたくらいで彩香は怒る子じゃないけど、そのあとバス停の手前でギャルソン姿の男性の客引きに遭い、「無料の試作ドルチェ」という言葉に惹かれてレストランについて来てしまったのは、ちょっと怒るかもと思う。


 

 店内は、クリーム色のとチョコレート色の巾木(はばき)を基調としたかわいい内装だ。



 テーブルが六脚ほどとカウンターテーブル。

 各テーブルの上には、ネコのかたちのメニュースタンドが置いてある。

 若い女性をターゲットにした店の開店準備中なのかなと思う。

 カウンターテーブルの向こうが厨房だろう。チョコレート色のアンティーク風のドアがある。


 ほかに客はいない。

 無料につられて一人で来たのは、ちょっと不用心だったかなと思いはじめた。



 厨房のドアが開き、バス停の手前で声をかけてきたギャルソン姿の男性が出てくる。


 

 ドルチェを運んでくるのかと思ったが違った。ほかのテーブルを拭いている。

 

 顔立ちが整いすぎているくらいの美形なので、はじめ芸能人が素人に声をかけるたぐいのバラエティでも撮影しているのかと思った。

 胸元に「(たちばな)」とネームプレートをつけている。

 バイトで食べてる新人の俳優だとかと想像してみる。

 

 

「すみませーん」



 結衣(ゆい)は学生カバンからスマホを出しつつギャルソンに呼びかけた。

 ギャルソンが洗練された動きでこちらに歩みよる。


「いかがされましたか?」


「あの、友だち呼んでもいいですか? 一人分でいいんで。いっしょに食べますから」

「かまいませんよ。お二人分ご用意いたします」

 ギャルソンがにっこりと笑いかける。

「すみません」

 結衣は笑顔を返してぺこぺこと会釈をした。

 品のよい動きで立ち去るギャルソンを見送ってから、スマホの画面をタップする。


 はじめからこうすればよかった。

 彩香の番号にかける。


 

 出ない。



 呼出音すら聞こえない。

 結衣は、店の入口のガラスドアを見つめた。

 外の歩道を行きかう人々が、おしゃれな装飾のついたテクスチャードガラスを通して見える。

 地下ってわけでもないのになと首をかしげた。


 ギャルソンがふたたびテーブルに歩みよる。

 


「お待たせいたしました。春の花々をしのばせたホワイトチョコのドーム、完熟いちごの温かいソースとともに。お運びしてもよろしいでしょうか」


 

「えと。友だち、なんか通話が通じなくて」

「ではお友だちには、のちほど同じものをお包みいたしましょう」

 ギャルソンが答える。

「え、いいんですか?」

 結衣は声を上げた。

 お店の宣伝になるからかな。そうと考えると納得はできるけど。


 いちど厨房に戻ったギャルソンが、銀色のトレーにドーム型のホワイトチョコレートとソースピッチャー、コーヒーを乗せ運んでくる。


 結衣のまえに、それぞれを置いた。

 白い皿に盛られたホワイトチョコレートのドームは、花で飾られてている。

「使われている花は、すべてエディブルフラワーでございます。安心してお召し上がりください」

「えっ、食べられるんですか? ぜんぶ?!」

 色とりどりのパンジーとビオラ。結衣はおどろいて声を上げた。


 ギャルソンが、ソースピッチャーを手にする。

 


「失礼いたします、仕上げに温かいストロベリーソースを。秘密が解ける瞬間をお楽しみください」



 ギャルソンが甘い声でそう告げ、ホワイトチョコのドームに赤いストロベリーソースをかける。


 ホワイトチョコが溶けて一部がくずれ、ドームのなかに詰めこまれたパンジーとビオラが顔をだす。

「うわ……ゎ。きれい」

 結衣は目を丸くした。





 彩香の分のホワイトチョコドームとストロベリーソースを入れたケーキボックスを手に、結衣はバスを降りた。

 

 生活道路をわたり、コンビニの駐車場にたどりつく。

 「ストロベリーソースは温めてから。お皿を少し冷やしておくのがかけるまえに溶けないコツ」とギャルソンに教えられたことを頭のなかで反芻(はんすう)する。

 彩香の感激する顔が目に浮かぶ気がしてワクワクする。

 制服のポケットからスマホを取りだし、もういちど彩香にかけようとスリープを解除した。

「……彩香の番号」

 スマホのキーパッドを表示させながら駐車場を横切り、隣接した廃ビルのそばに来る。


 ふいに脳内から、なにかがスッと抜けおちた気がした。

「彩香……あゃ」



 彩香って、だれだっけ。



 目のまえの廃ビルを見上げる。

 なんでこんなところに来てるんだろうと思った。


 こんなところに用事があるわけがない。


 気味の悪い感覚におちいりながら、結衣は廃ビルの風雨によごれたガラス窓を見た。

 ビルのなかにある太いコンクリートの柱の足もとの床。


 きれいなパンジーとビオラの花束が置かれているのが見えた。



 思い出した。

 十年以上まえ、同じ高校の女子生徒が変質者に撲殺されて遺体で見つかったビルだ。

 


 ことし十三回忌だとコーラス部を引退する少しまえに聞いた。


 頭に手をやり記憶を整理する。

 コーラス部を引退する少しまえ、被害に遭った子の親が顧問の先生にあいさつに来ていた。

 先生は当時とはちがう人になっていたが、被害者の子はコーラス部に所属していたそうだと部活仲間の子に聞いた。


 なにこれ、どうしよう。

 心音が速くなり、寒気がする。



 もらったケーキをお供えして帰ったらいいのだろうか。

 そういうのって、ついて来られちゃうんだっけ。



 頭のなかでグルグルと考えをめぐらせて立ちつくす結衣とガラス窓をはさむようにして、いつの間にかまっしろな顔をした制服姿の女子生徒がこちらを向いて立っている。


 女子生徒の顔に赤い血がどろっと流れ、端正な顔をつたう。

 顔が溶けて穴があき、やがて溶けたところから向こうの景色がのぞき見えた。



 パックリと二つに割れてくずれた顔の向こうに、さきほどのパンジーとビオラの花束が見える。



 ギャルソンがストロベリーソースをかけたホワイトチョコのドルチェ。結衣はそっくりだと思ってしまった。




 終 





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