5 聖女として
私はゴブリナと一緒に神殿に住むことになった。
元々ゴブリナは亡くなった祖母と二人暮らしで、亡くなった祖母の部屋を私室として使わせてくれることになった。
まあ、神殿とは名ばかりで、小さな礼拝所がある以外は普通の家と大差ないけどね。
部屋は掃除が行き届いているし、必要な家具も最低限揃っている。
足りないものと言えば、着替えくらいだろう。一応ゴブリナが服や下着を用意してくれたが、特に下着は肌荒れしそうな感じがする。
そんなことを思っていたら、赤ドラと白ドラから思いが伝わってくる。
(創造の木を植えればいいんだよ)
(魔力を込めれば、色々と作れるよ)
(服や下着なら今のレベルでも作れるよ)
そんなこともできるの?
まさにチートだ。
「水の木」と「フルーツの木」が植えてある場所に「創造の木」を植えることにした。同じ手順で作業を進める。鑑定すると「色々作れるのよ。複雑な物は魔石を使ったほうがいいかもね」という説明分が表示された。
魔石?
(服くらいなら、必要ないよ)
(作りたい物をイメージしながら、魔力を込めてね)
赤ドラと白ドラのアドバイスに従い、私は下着をイメージしながら、「創造の木」に魔力を注いだ。
3分くらいで、下着が出てきた。一体どういう原理なのだろう?
(魔力を素材に変換してるんだよ)
(レベルが上がると複雑な物も作れるよ)
出てきた下着を確認する。
ごく普通の下着だった。誰に見せる訳じゃないし、これでいいだろう。
それとできれば、替えの服も欲しいわね。
私はパンツスーツをイメージして魔力を込めた。
今度は5分程時間が掛かったが、イメージした通りのパンツスーツが出てきた。続いて、作業着と長靴も作ることにした。パンツスーツのままじゃ農業はできないからね。
しばらくして、作業着と長靴も出てきたが、私は悲しい現実を突き付けられた。
私も年頃の女性だ。三十路手前だけど・・・
普通の女性なら、これ幸いとお洒落な服を創造するのだろうけど、ここ数年外出する時は、基本的にパンツスーツか作業着の私は、お洒落な服をイメージすることができなかった。
思えば、基本的に営業職なのに現場の人員が足りないから作業着に着替えて現場で働くことが常だった。なので、基本作業着を携行していた。入社してからずっと普通だと思っていたけど、世間一般では違うと気づいたのは入社から3年経ったときに開かれた高校の同窓会だった。
そりゃあ休めないよね。一人二役三役が当たり前だもんね。
そんな感傷に浸っていたらゴブリナに声を掛けられた。
「こ、これは・・・一体・・・」
「この木は「創造の木」だよ。これに魔力を込めて・・・」
ゴブリナに説明する。
「それは凄いです!!奇跡です!!それでお願いなのですが・・・」
ゴブリナのお願いは、自分用に私が着ているパンツスーツと作業着を作ってほしいとのことだった。
「私も神官の端くれ。できるなら聖女様と同じ正装を身につけたいと思うのです」
「正装といえば、正装だけど・・・」
「やはりそうなんですね。私が着ている神官服も正規の物ではなく、祖母が人間の神官から鹵獲したものです。やはり正式な神官服でないとネフィス様に失礼ですよね?」
「そ、そうかなあ・・・」
もちろんパンツスーツは神様に仕える者が着るための服装ではない。
一応、フォーマルな場で着ることを目的にした服装だけど、神官に好ましいかと言われると疑問だ。でもゴブリナはパンツスーツを正式な神官服だと勘違いしている。
「教典で定められたりはしてないの?」
「20年前、ノーア平原を追われた際、多くの文献も消失してしまったので、私も分からないのです。神官と名乗りながら、恥ずかしいかぎりです」
「ご、ごめんね・・・辛いことを思い出させちゃって・・・」
「気にしないでください。聖女様が降臨されたことで希望が持てました。言ってみれば、聖女様が教典ですね」
どうして、そこまで発想が飛躍するのだろうか?
一応、女神ネフィスに転生はさせてもらったけど、詳しい作法なんて聞いていない。でもキラキラとした目で見つめてくるゴブリナに私は、何も言えなかった。
★★★
次の日、朝日と鳥の鳴き声で目が覚めた。
アラームなしで起きるなんて、いつぶりだろうか・・・
枕元にはプランターに入った赤ドラと白ドラがまだ寝ている。
朝日に当て、水をやると、もぞもぞと動き出した。
(気持ちいいねえ)
(水も美味しい)
朝から二匹はご機嫌なようだ。
朝食はゴブリナが用意してくれていた。まあ、「フルーツの木」のフルーツだけどね。
「おはようございます、聖女様」
「おはよう、ゴブリナ」
そういえば、のんびりと朝食を食べるのはいつぶりだろうか?
前世ではほとんどが通勤中におにぎりかサンドイッチを食べるだけだったな・・・
朝食を食べ終わるとゴブリナが真剣な表情で私に向き直った。
「実は聖女様に正しい礼拝方法を教えていただきたいのです。恥ずかしながら、私は正しい礼拝方法を知らないのです」
「そうなの!?それじゃあ、今までどうやってたのよ?」
「それは・・・大変言いにくいのですが・・・」
ゴブリナはバツが悪そうに言う。
ゴブリナは住民に「お祈りは神官の私しかできない」と言って、礼拝所に近づかせなかったそうだ。
「恥かしながら祖母も、ずっと住民を騙してきたようなのです。今更、言い出すこともできず・・・それに礼拝だけでなく、様々な行事もどうしていいか分からず、その場の思いつきで・・・」
詳しく聞いたところ、ゴブリナは簡単な回復魔法が使えるというだけで、神官にされてしまったようだった。現代日本でも、神主や住職になるにはそれなりに修行をしたり、教育を受けなければならない。こっちの世界にあるかどうか分からないが、ゴブリナは無資格の神官ということになる。
「これまでの罰はお受けします。ですので、私に正しい礼拝を教えてください。そして私たちをお導きください」
そう言われても困る。
私だって、礼拝の仕方なんて教えてもらってない。
一縷の望みを託して、赤ドラと白ドラに聞いてみる。
(知らないよ)
(水でもあげれば?)
私は途方に暮れるのだった。
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