47 微笑みの人形という二つ名
「おめでとうございます、フラジスト様。つい先日ではあの魔神を倒されたそうで。フラジスト様ほどの方が公爵家当主、並びに魔法師団長など、この国も将来安定でございますね」
「ありがとう」
「そうそう、そういえば私の娘がフラジスト様と同じ歳なのですが、よければ……」
「結構。それでは」
ガクリとあからさまに肩を落として帰る。
さっきからずっとこの繰り返しだ。
流石は公爵子息兼魔法師団長の誕生日パーティーだ。人の数がありえないくらい多い。ウィスダリア家の庭で開かれているのだが(庭の広さも尋常じゃない)埋め尽くす勢いで人、人、人。
特に今回は真冬くんが成人になる誕生日パーティーでもあるため、いつもよりもより人が多いのだとか。
真冬くんの父、クレオール様と、母、メリア様が真冬くんがなかなか婚約しないのを心配して特に真冬くんと同じ年代の令嬢がいる家に招待状を出したそう。
そしたら見事に全員来ちゃってクレオール様、メリア様ももうびっくり。
てか息子の顔と肩書の良さで何故ダメ元だと思って送った? そりゃあ招待状なんかもらったら、もしかして自分に気があるのかもとか思って喜んで全員来るわ。
さっきもちらっと挨拶に行ったけど、思っていた以上に気さくな人たちだった。公爵家ともなると余裕が違うのかな? クリス様だって話しやすい人だし。
初対面でいきなり自分の息子と対のドレス着て、エスコートされて入ってきちゃったから何か言われるかなーとか思ってたけど何もなく。むしろメリア様からは後日一緒にお茶しましょ!! と食い気味に誘われた。
このグイグイ感は……そうだ、ラスニア様だ。
確かラスニア様とメリア様って仲いいって言ってた気がするが……あんまり覚えてない。
「エリー、大丈夫? もうすぐ終わるから少し待ってねね。辛くなったらいつでも言うんだよ。無理矢理にでもこの場を抜け出すから」
もう何人目かもわからない挨拶を終え、真冬くんが心配そうに尋ねてくる。
まあ、別に私は横で立ってただ笑っているだけだから辛くはないのだけれど……。強いて言うならご令嬢達が時々飛ばしてくる熱い視線かなあ。
もうそりゃあ……歓迎されてるね♡
立って笑っているだけっていうのは慣れてるからね。
パーティーのときなんかはいつもお父様かウィルの横でただ笑って過ごしてたからこの経験値だけはずば抜けて高い。
セリナいわく、私は社交界での"微笑みの人形"らしい。
まず初めにネーミングセンスから疑った案件だったよね。
なんじゃい、微笑みの人形て!! 厨二病ネームとも呼べないような微妙な二つ名……。
何でも昔、一言も話さずにただ微笑んでいた(まだ幼かったためダンスもしていない)私を等身大の人形と思っていた結構やばい貴族のおっさんがいて、お父様にその人形はどこで買えるのですか? と聞いたのが始まりだ。
いや、普通にやばいよね。まず誰がパーティーに人形なんか連れて行くかって話だし、どこで売っているのかって聞くのも凄い。おっさんもおっさんだけど見事に人形のように擬態してた私も私よね。
そのおっさんはもう歳だったから今は社交界には出ていないけど、この話は有名だ。おもしろおかしく語られている。
まだ私が幼い事をいいことに、どうせ本人は覚えていないだろうとのこと。その時の精神年齢はとうに成人してますんでちゃっかり覚えてますよー。
おっと、だいぶ話がそれてしまった。
まあ、てなわけでこういうことにはなれている私です。
でも真冬くん、心配してくれるのはとても嬉しいんだけど、結局の話、私が真冬くんの隣にいるからこういうことになるのであって、私だけこの場を離れても全然いいのだ。たださっきの言葉、"無理矢理にでも抜け出すから"。……絶対私を一人にさせないという強い意思が感じられた。
……うん。まあこの前のアナスタシア様御一行事件もあったし大人しくしておくが。
◇◇◇
頭の中で色々どうでもいいことを考えていると、いつの間にか終わっていたらしい。
後片付けを使用人一同がし始めて、私は真冬くんの部屋に通された。ほんとはこのまま帰るつもりだったんだけど、真冬くんがどうしてもということでカーラの許可を得て居残ることに。まだ個人的な誕生日プレゼンは渡せていないから丁度良かったといえば丁度良かった。
そういえば、いつの間にかクレオール様とメリア様にはエリーナちゃん呼びになってて知らぬ間に打ち解けていたようだ。ガッチガチよりかはいいかなと思っている。
にしても……相変わらず生活感の感じられない部屋だな。
今日はちゃんと椅子に進められ、真冬くんの正面に座る。
「誕生日おめでとう!! これ少ないんだけど良かったら……」
そう言って試行錯誤を重ねてようやく完成したココナッツクッキーと万年筆を渡す。
真冬くんは目を大きく見開いてびっくりしていた。
あら、そんなに私が誕生日プレゼント贈るの意外だったのかな……?
前世では毎年贈っていたと思うのだが……。
「あ、ありがとう。まさかこっちでもエリーのココナッツクッキーを貰えるとは思ってなくて……」
大切そうにしまい込んだ。あ、今は食べないのね。
一応魔法はかけてもらってるけど早めに食べてもらいたい。
そのことを伝えると、一瞬眉を潜めたが、すぐに笑顔で分かったと返事をした。
「その……公爵令息、ましてや魔法師団長に贈るものではないと思ってたんだけどやっぱりこれしか思い浮かばなくて……。クッキーと万年筆だけだったら少ないと思うから何かやってほしいことがあったら言ってね!!」
クッキーと万年筆だけというのはやはり少なすぎると今更ながらに思ってしまったため、自分にできることなら何でもするというおまけをつけた。
今回のドレス一式だって真冬くんからのプレゼントだし、それでも足りないのだが……。
しかし、私の言葉に予想の斜め上をいく返事が返ってきた。
「何でも……? そう、だね……。じゃあ、僕の婚約者になって」
……………………え…………?
なんて言った……?
婚約者……?
まさか、冗談と言おうとしたが、真冬くんの顔は本気で、冗談を言っているようではなかった。
「何で……私? もっと、真冬くんにふさわしい人は沢山いるよ? それに私伯爵令嬢だし……」
「伯爵令嬢だったら問題ない。それに僕はエリー意外とは婚約、ましてや結婚なんてしないつもりだ」
それは私が断ると一生独身でいると。
まだ返事はできない、と曖昧な返事を残して今日はウィスダリア家を去った。
その後のことは……ウィルのときと同じで、よく覚えていない。




