38 所見チート、羨ましい
フランくんは出発の2日前に帰りました。書くの忘れていたので一応ここで報告です。
「おおー! 空気が気持ちいい!!」
長旅が終わり、無事避暑地へ着く。
うちの両親は一応自分の別荘の使用人たちに顔を出さないといけないからといい、カルミア家の別送に荷物をおいてそのまま行ってしまった。私はというとおいていかれましてね……。
「エリーナちゃん、まだ夕食準備に時間がかかるみたいだからウィルとどこか遊びに行ってきたら? 3時間位は大丈夫よ」
まだお昼を少し回ったくらいの時間で、太陽は一番高いところに登っている。流石避暑地というべきか、王都に比べればとても涼しい。
ラスニア様は私達にそれだけ言い残してすぐに別荘の中に入っていってしまった。クリス様はついたすぐに別荘から出てこなくなったから何か仕事でもしているのだろうか。クリス様には真冬くんが来ることも言ってあるから真冬くんがいきなり来ても大丈夫。
とりあえずうちの両親もいなくなってしまったし、皆自由行動に入ったみたいだ。
「……どうする? 久しぶりにボートにでも乗りに行くか?」
「行く!」
ここから少し歩いた場所にある湖は他の貴族たちもよく来る場所で、綺麗に整っている。
整っているっていっても最小限しかいじってないから、自然が残っててとても過ごしやすい。私はどうも人工物の中にいるよりも天然物の中にいたほうが安心できるみたいだ。
この季節になるとその湖でボートを貸し出している。
馬車で向かってもいいが、時間があるということなので、二人で歩くことにした。
◇◇◇
目の前に広がる壮大な湖は、光を反射してキラキラと光っていた。その水は澄み切っていて、そこの砂利までよく見える。
「まだ誰もいないな」
「私達が一番だ!!」
湖と言っても端が見えず、海みたいだ。
誰もいないのはまだシーズンよりも少し早いからだろう。明後日くらいからはこの湖も多くの人で賑わい出す。
「これでいいか?」
「大丈夫ー」
ウィルがいつも間にか持ってきていたボートは二人のり用の少し小さめの物だ。ただやはり貴族の方々が利用するものということで、きらびやかなことこの上ない。
前世とかボートでこんな彫刻施してんのとか見たことないよね……。
うーん、と微妙な面持ちでウィルの準備してくれたボートに乗り込む。
その際にギシっとボートが揺れ、思わず転けそうになるところをウィルが支えてくれた。
……体重重くなったかな……。いや、そんなことはない、はず。腰回りとか変わってないもん。
「ほら、気をつけろよ」
「ごめんごめん、ありがと」
スイーっとゆるく風をきりながら進む。
なんだかんだ言ってウィルとボートに乗るのって初めてじゃないか? 今まで人が多すぎて、この湖まで来ても涼んで帰るくらいだったし……。
でも絶対この運転は初めての人のものじゃない。この速さでこの絶妙な安定感はどうやって出せるのだろう。もはやプロの粋だと思う。
あれか? 公爵子息くらいになると所見のものでも自由自在に操ることが出来るのか? ある意味チート……。
もしかして……私もできるんじゃない?
と、絶対出来そうにもないことを思いついていることはあとになって気づく。
が、今は出来ないと微塵も思いもしないのはこの湖のせいだろう。それがちょっとした事故に繋がるのだが……。
「ウィル、私も漕いでみたい!!」
「は!? リーナができるわけないだろう!? 絶対コケるぞ」
「出来るか出来ないかなんてやってみないとわからないじゃん。ウィルだって初めてのときはどうだったのさ」
「初めてのときがどうって……今日が初めてだけど?」
な、なんだと……!?
やはり初めてだったか。これでウィルは所見チートを持ってることが発覚した。
「じゃあ私もウィルみたいに初めてだけど上手くいくかもしれないよ?」
「これ、見た目以上に結構力いるんだよ。俺は普段鍛えてるからできるけどリーナは腕つるぞ?」
「つりそうになったらすぐにウィルに変わるから!」
「なんでそんなに漕ぐことにこだわるんだよ……。はあ。どうせ断ってもお前のことだから後で一人で乗り出しそうだしな……。少しだけだぞ」
「やった!! ありがとう!」
ウィルからオールを受け取る。
あ、意外と重い……。
えーと? これをどうしてたっけん確かこうすいーっていう感じでかき出すみたいな……。
お!! 動いた!!
意外とできるじゃん! と思っていたのもつかの間、突風が私達のボートを大きく揺らした。
立っていた私は体のバランスを崩し、ボートから落ちそうになる。
落ちる!!
「危ない!!」
そう言ってウィルは私をかばい、かわりに自分が湖へ落ちていってしまった。
ドボンっと派手な音を。
たてたあと、あたりはしんと静まり返る。
だ、大丈夫かな……。ウィル死んでない……?
上がってこないが……。
どうすることも出来ずにあたふたとボートの上でウィルの無事を祈っていたら、ガシッとボートの端に手がかかった。
「あ"あ" 死ぬかと思った……」
「ウィル!! 無事!?」
「何とかな」
ギシっと重たくなった体を無理に浮かせ、ボートに再び乗り込む。
服を絞ると大量の水が絞り出てきていた。
このとき、水で湿った髪をかきあげる姿に少しどきりとしたのは秘密である。
次話、ウィル急接近です。




