39 それは唐突に
「と、とりあえずこのままじゃ風邪ひくから一旦屋敷に戻ろう!!」
誤魔化すように少し早口になってしまった。
「ああ、そうだな……。夏とはいえここは涼しすぎるから……」
私が漕ごうとしたら、また落ちそうになるかもしれないからと言ってオールを持たせてくれなかった。大丈夫と言いたいところだが前科ができてしまったため大人しく座る。いや、でもあれは仕方ないよ!! たまたま強い風が吹いて来たんだもん、私のときに限って!!
言い訳は心の中で済ませておこう。仮にもこんなにびしょびしょになってるウィルの前では言うに言えない……。
そしてこの後屋敷へ戻ると、びしょびしょになったウィルを見てラスニア様が笑い転げたことで、再び私のウィルへの罪悪感が増すのであった。
◇◇◇
……どうしよう、寝付けない。
あの後、濡れたウィルはラスニア様に笑われながらもシャワーを浴びて、なんともなかったかのように戻ってきた。
その頃にはお父様達も戻ってきていて、丁度いい時間だから夕食にしようとバーベキューの準備をし始めたのだ。
まさかのついたその日からバーベキューっていうね。
ほとんど準備は使用人がしててくれていたらしく、私達は火をつけて焼くだけという何とも簡単なもので終わってしまったが。
楽しかったからいいのだけれど。
そして何が起こるわけでもなく、普段と同じようにベッドに寝転んでいるわけだが……、今日の昼の事が気になってなかなか眠れないのだ。
基本私は場所が変わろうと枕が変わろうとどこでも寝れる体質なのだが、、。
ていうかお昼のあれは何だったんだ?
何故私はあのウィルの姿にどきっとした? いつも見慣れているはずだったのに。
確かにウィルの顔は美術品並に整ってる。そりゃあご令嬢達が群がるくらいには。でもほんとにお互い物心ついたくらい(私は前世の記憶もあったため、ほぼ生まれたときからのことを覚えている)から兄妹みたいに育ってきた。
この気持ちは何なのだろう……。
…………〜〜ああーー!!
もう分かんない!! ぐだぐだ考えててもどうせこうなってしまったら答え見つからないってわかってるから、今度セリナに聞いてみよう。
今は頭がぐるぐるしてるから気分転換だ!
前にネグリジェで外に出るとカーラに怒られたため、上にストールを羽織り外に出る。
確か少し歩いたところに星が綺麗に見えるところがあった気がする。前世のようにビルも街灯もないからこの世界は星が輝いているのが綺麗だ。でも一昨年行ったところは特別凄かった……と私の記憶の中にはある。
ここかな、と丘の上に腰掛ける。
他の所よりも高い位置にあるためか、星が近く見える。もう少しで手が届きそうだ。
あれはオリオン座かなあ。こっちの世界にも同じ様な形のものがいくつかある。じゃあ向こうに見えるのはもしかしたら夏の大三角かもしれないと、ぼーっとしながら空を見上げていると後ろから声をかけられた。
「リーナ? こんなところで何してるんだ?」
「……ウィル?」
後ろにいたのは、ウィルだった。……せっかく忘れかけていたのに物凄い勢いで昼間のことが脳裏にフラッシュバックしてきた。どうしてくれるんだい!! また寝れないじゃないか!!
が、そんなことはつゆとも知らないウィルが当たり前のように隣に座ってきた。
ううっ、なんかつらい……。
沈黙がいたたまれなくなって思わず口を開く。
「お、お昼は大丈夫だった?」
「濡れたことか? それは、なんともない。母上に笑われたことは癪にさわるが……。まあリーナが濡れなくてよかった」
「風邪ひかないようにね」
「俺は大丈夫。それよりもお前、そんな格好で出てきたのか? そっちのほうが風邪引くぞ」
そう言い、自分の羽織っていた上着を私の膝の上にかけてくれた。
確かフラン兄にも上着貸してもらった事がある気がする。あのときもネグリジェでふらふらしてたら怒られたんだ。
静かな時間が流れる。
と、急に星が流れ始めた。流星群だ!
「ウィル!! 流星群!! 何お願いする?」
「お願い?」
あ、そうだ。こっちの世界には3回願い事をするとっていう文化がないんだ。ただ流星群のときにもこれが適用されるのかは謎であるが。
「あのね、星が流れる間に3回お願い事をすると叶うんだよ。そういう言い伝えが東の方であるの」
「へえ、初めて聞いた。リーナは何願う?」
「私は……これからも健康でいられますように」
「ははっ! 何だそれ、年寄かよ!」
「健康バカにしちゃいけないんだよ? そういうウィルは何願ったのさ」
「俺? 俺は……」
ふっとウィルと目が合う。
「リーナが……俺を好きになってくれますように」
え…………??
途端に顔が赤くなるのが自分でも分かる。
私は一体何を言われた??
好き? 誰が? 誰を?
「答えは今じゃなくてもいい。突然だから驚いただろう。ゆっくり考えてくれ」
ふわっと笑い、何事もなかったかのように星を見上げている。
動揺してるのは私だけ。
それからどう帰ったのかは覚えてない。気づけばベッドの上で朝日を浴びていた。
それから、2日はウィルの顔がまともに見れなかったことだけは覚えている。




