30 運動音痴、それはダンスにも
パーティーは先程抜けたときと変わらず賑やかだ。
今は中央で国王夫妻がダンスを踊っている。
基本ルールとしてパーティーではその場の最高権力者(今回の場合は国王)がはじめに踊る。主催者とかね。その後に少しずつ人が増えていき、段々と盛り上がって来るのだ。
あ、ほら。第一王子、もとい王太子夫妻が加わった。
やはり王族、指の先からつま先まで全てに神経が通っているのか動きに無駄がなくて美しい。
お互いを信じあってるからこそできる動きなんだろうな。
私はダンス、、というか運動が全然といっていいほど駄目なのね……。これは前世からだから仕方ない。
そんな私と唯一踊れるのがウィルだ。
練習中、壊滅的だった私を助けてくれたのは何年前だったか。レッスンの先生の足何度も踏んじゃうし、体は思ったように動かないしで諦めかけてたときにウィルがパートナーとして一緒に練習してくれた。
私相手に練習してたからウィルのダンススキルもそこそこ高い。十回くらいは足ふまれてもポーカーフェイスくずさないくらいにはなってる。
それはそれでどうかと思うけどね。
そんなこんなで私は基本ダンスは踊らないのだ。厳密に言えば踊らないというか踊りたくないのが正解なのだけれど、、。
「じゃあエリー、踊ろうか」
そんな私の密かな決心を正面から破壊してくる人がここに一人。
「私踊れないもん」
間違ってはいない。それに真冬くんと踊ったら無駄に私の下手くそなところが目立ちそうで嫌だ。絶対真冬くんが踊ったら皆(特にご令嬢)達の視線はほとんど真冬くんのところに行きそうだし、私がミスすると真冬くんが悪目立ちしてしまう可能性だって十分にある。
「でも全く踊れないって言うわけじゃないんでしょう? だって踊れなかったらこの世の中やっていけないよ?」
うっ、痛いとこついてくるな。
「いや、だってさ。真冬くんも知っているでしょ? 私の壊滅的な運動音痴。前世とか散々だったよ?」
「あー、、そういえばそうだったね。体育祭とかいつも転びそうになってた覚えがある」
「そ、それは忘れてほしいなー」
体育祭……。なんて嫌な響きなのだろうか……。
高校の体育祭は参加する前に私の心が病んじゃってとてもじゃないけど参加できるような精神状態じゃなかったけど、中学校の頃の思い出が……。
それはそれは悲惨だった。リレーでくじ引き当たっちゃって、出たはいいんだけど、、。ここからは皆様の自由な想像でおまかせします。あまり思い出したくない案件でございまして。
「それに今までウィルとしか踊ったことないし」
ピタッと真冬くんの動きが止まった。
「ウィルラインとは、踊ってるの?」
「? そうだよ。私の壊滅的なダンスの練習に付き合ってくれたのもウィルだもん」
何か言ってはいけないことを言ってしまったのではないだろうか。真冬くん、何か考えるような仕草をし始めましたよ。
「ならなおさら僕と踊らなきゃ」
「えっ、だからなんでよ!?」
意味が分からん。これから先踊ることもわざわざ見せつける必要もないというのに。
恥かくのは真冬くんだぞ? 私が一人で転んで一人で赤っ恥書くだけならいいけど、ダンスで一人コケるなんてありえない。コケるなら相手も一緒だ。
「だって、エリーはウィルラインとしか踊ったことないんでしょう? 他の人とも踊っておかないといきなり違う人から指名されても踊れないよ? 僕あたりでなれておかないと」
た、確かに……。
今は真冬くんと私の仲だからこうして断ることもできるけど、仮に正式にガウラ王子とかなんかにダンスの申し込みとかされたら100%断ることは出来ない。
うううぅぅ。
「…………やるぅ」
最後の方声が小さくなってしまったが仕方ない。いくらやらなくちゃいけないものだとしても嫌なものは嫌なのだ。
そしてその言葉を待ってましたと言わんばかりに真冬くんは私の手を引いて今では誰でも気軽に入れると化したダンスの中に入っていく。
「力を抜いて、大丈夫、全部僕に合わせておいたら後は上手くいくから」
「本当?」
「忘れたの? 僕だよ?」
そうだった。真冬くんだった。
人間とは思えない超人さんだったよ。でも何も自分で言わなくても……。まあおかげで変に入っていた力は抜けたらしい。とても体が動きやすい。
しかもただ真冬くんに合わせてるだけで体が勝手に動いていくようだ。すごっ!!
「踊りやすい!!」
「でしょう? まだ新しいステップは難しいと思うから今日はやらないけどまた時間があればしようね。何なら僕と練習する?」
「新しいステップ……。あれ、私にできると思う?」
「できるできる。だって今も運動音痴なんて言われてもわからないくらい綺麗だよ? ほら、もっと体寄せてくれないとターン出来ない」
ぐっと体が引き寄せられる。
踊れたはいいものの、何が一番問題かって、パートナーとの距離が近すぎるのがダンスの良くないところだと思う。婚約者とかならまだしも、付き合いで踊らなきゃいけないときにこんなに近いとドギマギしてしまう。下手すると首元に息が掛かりそうなほどに近い。
前世とは違って結構胸板がっしりしてるんだと、良くない妄想までしてしまうじゃないか!! どうしてくれんだ!!
誰に怒っていいのか分からずに、これ以上見つめていると何か変な気持ちになってしまうと思い、真冬くんから少し目線を話す。
「あれ?」