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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その九十三

 とりあえず興奮した様子の楓の肩に手をかけ、部屋にある椅子に座らせると、楓はトーンダウンし、少し落ち着いたみたいだった。


「……まあそうですけど」


 楓の話を改めて聞いてみると、髪留めがなくなっているのに気が付いたのはついさっきで、仁戸に起こされて朝食を食べに行こうと、いつものツインテールを作ろうとしている時だったらしい。


「それで何でいの一番に俺のところに来るんだよ……」


 楓は一体どれだけ優花のことを敵視しているんだろうか。


「だって灰島先輩、昨日楓達の部屋で一緒に遊んでたじゃないですか!」

「そりゃあまあ遊んだけどな? 俺以外にも人はいたし、そもそも楓は髪乾かした後はまたツインテールにしてたじゃないか。この髪型じゃないと調子が出ないって言って」

「うっ……」

「ってことは楓の髪留めがなくなったのは、楓が寝る前にツインテールを解いた後ってことだろ? 俺が帰った後じゃないか」

「そう……なりますね……」


 ようやく一応優花が盗っていないというのは納得したのか、楓は落ち込んだように肩を落としていた。


「もう一度部屋を探してみます……灰島先輩すみませんでした……」


 肩を落としながら謝った楓が優花の部屋から帰ろうとすると、またドアがばんと開かれた。


「同士! 大変だ! 俺様の……俺様の大事なものがなくなった!」


 またかよ……。


 楓同様勢いよく優花の部屋に入って来たのは翡翠。楓と違って翡翠は優花を犯人だと思って来たわけではないみたいだったが、迷惑なことには変わりない。


「それで? なんで翡翠は俺のところに来たんだ?」


 ただ、話も聞かずに追い出すこともできず、優花がまずどうして優花の部屋に来たのか問いただそうとしたが、横から楓が口を挟んできた。


「翡翠先輩も物が無くなったんですか! 何がなくなったんですか翡翠先輩?」


 楓がわざとらしく翡翠に向けてポーズを作りつつ小首を傾げるのを優花は、じとっと横目で睨む。


 まあ、それでこそ楓だな……。


 落ち込んでいたように思えたが、少し元気が出てきたのだろうか。楓のいつもの若干あざとくうざいムーブをしている様子に逆に安心していると、楓の質問を受けて翡翠が顔色を変えていた。


「ええとだな……」


 言いづらそうにしている翡翠が、ちらちらと優花に助けを求めるように視線を飛ばして来た。


 これは……あれだな……。


 翡翠が言い淀んでいる様子に、何をなくしたのか大体察しがついたので、助け舟を出してやることにした。


「まあ何をなくしたのかも大事だけど、翡翠はいつ物がなくなったんだ?」


 何がなくなったのかを聞かないまま、いつなくなったのかを尋ねることで話を進めると翡翠は状況の説明を始めた。


「朝食から戻ったらなくなってたんだ!」

「朝食から戻ったらか……。朝食の前に部屋に居た時はあったんだな?」

「ああ、そうだぜ! 俺様起きてすぐ続きが気になって読んでたからな! なんたって……」


 ぼろを出しそうになっている翡翠にこほんと咳払いをすると、翡翠は慌てて口を噤んでいた。


 楓は髪留めがなくなり、翡翠も物がなくなった。優花も昨日スマホがなくなっているので、あまり考えたくはないが、これはもう犯人がいると考えた方が良いのかもしれない。


 優花もスマホをなくしていることを二人に話すと、楓は眉をひそめた。


「それってつまり……誰かがみんなの物を盗んでるってことですか?」

「まだわかんないけどな。……とりあえず残りのみんなにも何かなくなってないか聞いてみるか」


 このままこの問題を放置しておくわけにもいかない。


 翡翠と楓を連れて、とりあえず優花の部屋と同じ階に部屋がある凛香と真央、めいに何かなくなってないか聞いてみたが、三人とも特になくなっている物はなかったらしい。


「うーん……みんなの物が見つかるといいけど……」

「この虚空院凛香の顔に泥を塗った犯人は許しませんわ! 絶対に捕まえますわよ!」


 真央は自分の物がなくなっていなかったと安堵するのではなく、優花達の物がなくなったことを自分のことのように悲しみ、凛香は、自分の別荘で起きた事件に憤慨していた。


「めいさんはどう思いますか? やっぱり物を盗った人がいるんですかね?」

「……まだ何とも言えないと思います。とりあえず六道様や獅道様、鬼島様にも話を聞いてみてはどうでしょう?」


 めいならもしかしてすぐに犯人を見つけてくれるかもと少し期待してしまったが、さすがにそれは無理だったようだ。


 めいの提案通り今度は深雪と奈央に話を聞いてみることにする。まずは二階にいる深雪と竜二だ。


 みんなで三階から二階に移動し、深雪に何かなくなっていないか聞いてみると、深雪はすぐに自分の持ち物を点検し、眼鏡のスペアがなくなっていることが判明した。


「……眼鏡など盗ってどうするつもりだ? 盗ったところで合わないだろうに」


 いつも使っている方は無事だったからか、深雪は怒ったりはせず、不思議そうに首を傾げていた。


 部屋の中でバッグは開けっ放しになっていたものの、眼鏡のスペアを取り出してはいないと言うので、どこかに置き忘れたり、落としたという線はない。誰かが明確な意図を持って盗んだということでほぼ間違いないだろう。


 次に竜二の部屋を訪ね、なにかなくなっていないか確認すると、竜二にもなくなった物があった。


「知恵の輪が無いっすね……」


 また微妙なものがなくなったなと思いつつ、竜二にこれまでの経緯を説明すると、竜二はばきぼきと拳から音を鳴らした。


「おれから物盗ろうたあ、大した度胸じゃねえか……ぜってえ見つけてやる……」


 ぎらついた狼のような目になった竜二に、久しぶりに不良っぽさを感じつつ、とりあえず一階に降りる。


最後に奈央にも話を聞いてみると、


「なくしたもの……? ちょっと待ってろ……」


 低血圧なのか、起きたばかりでテンションが異様に低い奈央が、部屋に入り、自分のバッグをごそごそと確認し始めた。


「とりあえず鬼島先生が持ち物確認している間に、皆で楓の髪留めを探してみよう、もしかしたらあるかもしれないし」

「うっす! わかったっす!」


 竜二を筆頭に優花の指示で全員協力して部屋の中の大捜索が行われたが、結局楓の髪留めは見つからなかった。


「それで、鬼島先生はなくなったものは何かありました?」

「……靴下が片方だけねえ! くそっ! 気に入ってたのに! 誰だ盗ったのは!」


 靴下が片方だけないのが判明してキレる奈央を落ち着かせ、一度伊戸と仁戸を含めた全員で集合し話し合うことにした。



「まずは盗られた物を整理することにしますわ! ゆうかさん! 全員の盗られた物をおっしゃってくださる?」


 全員で昨日の晩御飯の時に使った広い部屋に集まると、凛香が仕切り始めた。


「わかりました。まず、俺のなくなったのはスマホ、楓が髪留めで、翡翠が……本、深雪先輩が眼鏡のスペアがケースごとなくなっていて、竜二が知恵の輪、奈央先生が靴下片方って感じですね」


 全員のなくなった物を聞いて、ふむふむと頷いた凛香は、続いていつそれらがなくなったと気が付いたかを報告させた。


「ゆうかさんのスマートフォン以外は、昨晩から今朝にかけてなくなっているのがわかったんですのね?」

「そうですね……一番盗られた時間がはっきりしてるのは翡翠のものですかね。朝食から戻ったらなくなっていたらしいですし」

「そうですわね……」

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