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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい  作者: 雪ノ


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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その九十二

 風呂から上がりのれんをくぐると、ちょうど女湯の方から真央と楓、そして奈央が出てきた。当然ながら全員湯上りで、しっとりと髪の毛が濡れていて、いつもとは違った感じに見えた。


 せっかくだからと全員で少し話すことになり、一番近い一階の楓と奈央の部屋にみんなで入ると、楓がにやにやしながら優花を見てきた。


「覗けなくて残念でしたね灰島先輩!」


 ……なんで俺だけなんだ。


「ちっ、むしろあたしが覗きに行きたかった……」

「……頼むからやめてくれ」


 奈央が舌打ちをし、深雪が疲れた顔でツッコミを入れているのを苦笑しながら見ていると、真央が優花の隣に座った。


「ただお話しだけっていうのも良いけど、何かで遊ばない? 楓ちゃんが色々持ってきてるんだって」

「色々って……またあのボードゲームみたいなクソゲーじゃないだろうな……」


 優花が風邪をひいていたときにやった、あまりにもひどかったクソゲーのボードゲーム『マジ恋』を思い出しつつ楓を見ると、楓は心外そうに頬を膨らませていた。


「ちょっと灰島先輩! 楓がクソゲーしかやらないような感じで言うのやめてくれます? この前のはあれがひどかっただけですから! テーブルゲーム部をあまり舐めてもらっちゃ困りますよ!」

「あーはいはい。それで? 今日は何を持ってきたんだ?」

「ふふん! これです! 『マジ恋2』マジ恋の続編で、改良が施されてるみたいで、今回こそは……ってちょっと! 灰島先輩! 何で出したばっかりのマジ恋2をしまうんですか!」


 楓が全て言いきる前に、楓が大きな鞄から出したマジ恋2を元通りに戻そうとすると楓が抗議してきた。


「いや、だってクソゲー臭しかしないし……」

「文句はやってから言ってくださいよ!」

「いや、やらなくてもわかるだろ……」


 絶対にクソゲーなのでやりたくなかったのだが、テーブルゲーム部の顧問をしているらしい奈央もやはりテーブルゲーム好きらしく、二人の勢いに押されてやることになった。



 マジ恋2のゲームの結果は――――マジ恋1の時と同じで真央の勝利で終わった。


 マジ恋1同様、相変わらずのクソバランスで優花と真央以外の参加者が脱落したのは変わらなかったが、優花と真央は最後まで良い勝負をしていて、マジ恋1よりはましと言える程度で、結局クソゲーである点は変わらなかった。


「それにしても……鬼島先生弱すぎませんか?」

「ぐぬぬ……」


 今回のゲームの最初の脱落者は前回同様楓……ではなく奈央だった。


 マジ恋2になり、止まったマスのイベントも、恋愛ポイントを増やす代わりにお金を減らすか、お金を減らす代わりに恋愛ポイントを増やすかの選択ができるマスが多かったのだが、奈央は全てのマスを勝敗に直接関わる恋愛ポイント増加を選択した結果、結果的に所持金不足で思うように恋愛ポイントが伸びず失速、その後は恋愛ポイントマイナスマスに止まりまくってすぐに退場となっていた。


 悔しそうにしている奈央を呆れた目で見ていると、深雪も、そして楓も同じような目で奈央を見ていた。たぶん部活でも普段からこうなのだろう。


 奈央のテーブルゲーム好きは、下手の横好きというやつだったらしい。


 マジ恋2が終わった直後にお風呂上がりの凛香とめいが合流し、皆でトランプなどをして遊んで一日目はそれで終了。



 マジハイに関係するメンバーだけで旅行に来たにもかかわらず、今日あったトラブルと言えば優花のスマホがなくなったくらいで少し拍子抜けでもあった。


「もっと楓とかが何かしてくるもんだと思ってたけど……」


 元々は深雪と生徒会メンバー、あとは真央と翡翠と楓での旅行という話だったので、楓がまた何か企んでいるものと思っていたのだが、当てが外れたらしい。


 ふかふかのベッドに寝転がりながらぼんやりとそんなことを考えていると、どこからか猫の鳴き声が聞こえた気がして、そのまま眠りについた。


*****


 深夜、皆が部屋で寝静まった頃、伊戸がふと起きると、自分の机の上に誰かのスマートフォンが置いてあった。


 当然自分の物ではないし、妹の仁戸の物でもない。


 ……誰の持ち物でしょうか?


 ベッドから手を伸ばし、手に取ってしげしげと改めて眺めてみるが、やはり見覚えはない。少なくとも凛香やめいの持ち物ではないみたいだった。


 手帳型のスマホケースに入ったスマホの電源を入れて表示されたロック画面は、初期設定のままのもので、誰の物かはわからない。


 誰の物かわからなくてはこっそり返すこともできない。かといって、このまま持っていては盗んだと言われることになる。そうなれば、最悪虚空院家のメイドをやめなければいけなくなるかもしれない。


「はあ……困りましたね……本当に困りました……これはどうするべきなのでしょうか……」


 ため息をつきながら、伊戸はすやすやと隣のベッドで寝ている仁戸の方を見たが、仁戸に起きる気配は無く、伊戸はまた深くため息をつきつつ、いつの間にか開いていた窓を閉じた。


*****


 小旅行も二日目。明日帰ることを考えれば、一日中遊べるのは今日だけだったが、あいにくの雨で外には出れず、ビーチでは遊べないみたいだった。


「午後には雨がやむそうですから、午前中は室内で遊ばれると良いと思います。少しの辛抱ですよ」


 朝、優花が起きると朝食の準備ができていると言われ、一階に降りる間少し前を歩く伊戸に軽く会話を試みると、昨日とは違い少し柔らかい雰囲気のする返事が返ってきた。顔を見れば表情も少し微笑んでいる。


「そうですね……ところで、ええと伊戸さん……ですよね?」

「……ええ、そうですが? それが何か?」


 左から流したサイドテールに赤い髪留めもついているので、見分け方としては合っているはずなのだが、今の伊戸に昨日の淡々とした様子はなく、違和感があった。


「いや、昨日は笑顔を見せてくれなかったんで……」

「……昨日は忙しくて余裕が無かっただけですよ」


 まあ本人が言うならそうなのだろう。


 もしかしたら伊戸と仁戸が入れ替わっているのではなんて思ったが、そんなことをする必要も意味もあまり無いだろう。


 伊戸への違和感はそれですっかり忘れてしまい、一階でみんなと一緒に食事を済ませ、また自室へと戻る。ちなみに、奈央と楓は夜更かしでもして起きれなかったのか、朝食を食べに部屋から出てこなかった。


「あー……なにするかな……」


 結局スマホが見つかっていないので、スマホを探しに行くか、それとも伊戸に言われたように竜二達と一緒に室内で遊ぶか悩んでいると急に部屋のドアがばんと大きい音を立てて開けられた。


「灰島先輩! 楓の髪留め盗ってませんか!」

「うわっ! びっくりした! 急に入ってくるなよ……」


 優花の部屋に突然入ってきたのは楓だったが、いつもはツインテールにしている髪型が少し変わっていた。


「イメチェンでもしたのか?」


 楓の髪型は片方だけを結んだ伊戸と仁戸と同じサイドテール。ただ、伊戸や仁戸のサイドテールよりも位置は高いし、もう半分はそのまま下ろしているので、半分だけのツインテールみたいな感じだった。


「違いますよ! 楓の髪留め盗ってないかって聞いたでしょ!」

「いや、盗ってないけど……」

「本当でしょうね! 嘘ついたら許さないから!」


 一応楓は後輩で、いつも優花相手には敬語でしゃべっていたのだが、怒っているせいかため口になっているのはツッコミを入れても良いのだろうか。


「そもそもなんで俺だと思ったんだ?」

「灰島先輩は楓の敵だからに決まってるでしょ!」


 あー……なるほど?


「まあ落ち着けって、髪留めだっけ? そんなもの盗っても仕方ないだろ?」

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