乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その九十四
少し考えている様子の凛香を固唾をのんで見守っていると、凛香は不意に胸の前でぱんと手を打った。
「ふふっわかりましたわ!」
「えっ! もう犯人がわかったんですか?」
自信満々に微笑んだ凛香に優花が期待の目を向けると、凛香はゆっくりと首を横に振った。
「いえ、犯人がわかったわけではありませんの。わたくしがわかったのは犯人を見つける方法ですわ!」
さすがにこの段階で犯人まで特定するのは無理か……。
「犯人を見つける方法ってどういうことですか凛香さん?」
真央が興味深々な感じで凛香に尋ねると、凛香はくすりと笑った。
「簡単な話ですわ! 犯行時刻が絞られているのならば、その時の全員のアリバイを調べれば良いのですわ!」
凛香の出した答えは……至って普通の推理で、皆それはそうでしょうねという顔をしていたが、凛香はそれに気づかなかったようで、早速アリバイの聴取を始めた。
朝食前後何をしていたかを調べてみると、朝食が用意されていたリビングダイニングに来た順番が判明した。
朝食に参加したメンバーの中で一番最初に来たのは翡翠で、次が深雪、その次が竜二と優花で、最後に凛香と真央とめい。楓と奈央は起きてきていなかったし、伊戸と仁戸はそれぞれ朝食の準備と、各人を起こすために別荘内を動き回っていたという証言があった。
「……なるほど」
「ふむ……」
全員の朝食前後の状況を聞いた凛香と、そして自分の状況の説明以外は今までほとんど発言せず聞き役に回っていた深雪が同時に神妙な顔で頷き結論は――――――――。
「迷宮入りですわね」
「迷宮入りだな」
ずこーっとテレビでひな壇に座る芸人のようなリアクションをしたのは優花と竜二だけ。真央はいつものごとく困ったように笑い、残りのメンバーは白けた目を凛香と深雪に向けていた。
「いやいやいやいや! あきめるのが早すぎませんか!」
「そうっすよ! それに、犯人は嘘をつくもんなんすから、全員が本当のことを喋っているとも限らないっすよ!」
優花と竜二が、早々にあきらめかけていた凛香に抗議するようにそう言うと、凛香はぶすっとふてくされたように頬を膨らませた。どうやらへそを曲げてしまったらしい。
「……そこまで言うのでしたら、ゆうかさんがこの事件を解決してくださるのかしら?」
「いや、俺は……」
「おお! 兄貴ならきっと犯人を見つけてくれるっすね!」
犯人捜しなんて向いてないと思い、すぐに辞退しようとしたのだが、凛香の言葉を聞いた竜二が勝手に盛り上がり始めてしまった。
「いや、だから俺は……」
「そうだな! 同士ならきっと俺様の大事なものを見つけてくれるはずだぜ!」
「……たしかに灰島は自分と違って柔軟な思考ができるからな、適役かもしれん」
翡翠と深雪が、何故か竜二に賛同しそのまま場の流れ的に優花が犯人を見つけることになってしまった。
……どうしてそうなるんだよ。
それならこの世界の主人公たる真央こその役に相応しいと思うのだが、真央はいつも通り困ったように笑っているだけ。
「そうですわね……期間はこの別荘から帰るまで。それまでに皆さんが盗られた物を見つけて、犯人を特定するのが優花さんの仕事ですわ! いいですわね!」
「………………はい」
結局優花が凛香に逆らえるはずもなく、渋々犯人捜しを引き受けると凛香は優花を安心させようとでもしている感じで微笑んだ。
「安心なさいゆうかさん。特別にわたくしも手伝って差し上げますわ!」
「ええと……」
普通ならありがたい申し出なのだが、今さっきろくに推理もせず諦めたところを見ているし、そもそも凛香には細かな調査など向いていないだろうと思った動揺を隠せずにいると、凛香が半目になって睨んできた。
「ゆうかさん。今ちょっと嫌そうな顔していませんでした?」
「いやいや、してないですよ! はは、ははは……」
とりあえず笑って誤魔化し、自分の中で意識を切り替える。
まずは皆にこれ以上物が盗られないように貴重品等を持って過ごすように指示を出すと、竜二が首を傾げた。
「あれ? 今推理するんじゃないんすか?」
推理小説を読むらしいのに、竜二はまったく何もわかっちゃいないらしい。
「わかってないな竜二は……推理小説とか推理ドラマだと事件が起こった後どうする?」
「事件が起こった後っすか? その後は大体主人公が現場を調査するっすよね、それで重要な手掛かりとかを見つけることが多いと思うっす」
「そうだろ? 推理の前にまずは現場検証、そして証拠集め! これがお約束だ。わかったな?」
「……おお……さすが兄貴だ!」
……まあ本当は、単に考える時間が欲しかっただけだけど。
にやりと無駄に自信満々に笑うと、竜二が尊敬の目を向けてきていた。何も知らない子供を騙したようで胸が痛い。
犯人が物を盗む隙を作らないように、なるべく複数人で行動するように言い含めると、凛香とそして翡翠と共にまずは翡翠が使っていた部屋に向かった。
「……特に変わったものはありませんわね」
ちらっとだけ部屋の中を見回して、すぐにそう言った凛香に優花はやっぱり凛香には助手は向いていないなと確信を深めていると、翡翠が「あれ?」っと小首を傾げた。
「どうした? 何か変なものでもあったのか?」
「あっ、いや、単に窓が開いてるなと思っただけだぜ」
「……窓か」
言われてみればレースのカーテンに隠れているが確かに机のところにある小さめの窓が少しだけ開いていた。
「これいつから開いていたかわかるか?」
「んー……いや、わからないぜ。夜も気にせずそのまま寝たからな!」
普通開いていたら気が付くと思うけど……まあいいか。
「窓が開いていたから何だと言うんですの? ここは二階ですし、人が出入りできるサイズでもありませんわよ?」
「まあ、そうなんですけどね……」
凛香の指摘はもっともだが、それでも何か手掛かりが残っていないかと、とりあえず見てみたが、傷跡等の誰かが侵入してきたようなわかりやすい形跡はなかった。
「まあ……今回は別に窓から侵入する必要も無いか……」
「どういうことですの?」
ゆうかのつぶやきを耳聡く聞いていた凛香の問いに、優花は少し自分の考えをまとめてから答える。
「ええと……そもそもの話なんですけど、翡翠が朝食に向かった後って別に全員にちゃんとしたアリバイがあるわけじゃないんですよ」
「アリバイが無い? ええと……まずゆうかさんは獅道さんが朝食に誘ったんですわよね? そしてわたくしは真央さんとめいと一緒に移動しましたし、八手さんは鬼島先生と一緒に寝てたんですのよね? それなら全員アリバイが……」
そこまで言いかけて、凛香は口をつぐんでしまった。凛香にもアリバイの穴がようやく見えたのだろう。
「まず竜二は俺の部屋に来る前に翡翠の部屋に来れば、犯行は可能でしたよね? 翡翠が盗まれたのはBL……こほん、それほど大きくない本らしいですし。普通に部屋に入ったあと盗んで隠すのにもそう時間は盗られません。次にアリバイが無いのは楓と鬼島先生です。二人は朝食の席にいませんでしたし、本当に寝ていたもう一人を置いて誰にもばれず部屋を出ることは可能だったはずです。あとは伊戸さんと仁戸さんは朝食中ずっと俺達と一緒にいたわけじゃないので、犯行は可能なはずです」
そこまで一気に言いきると、凛香と翡翠が優花を見て目を丸くしていた。
「ゆうかさん……」
「同士……」
「ええと……何か間違ってました?」
二人の微妙な反応を聞いて、急に自身がなくなってきた優花が恐る恐るそう聞くと、二人はぶんぶんと首を横に振った。
「いえいえ、ゆうかさんがあまりにも――――」
「同士があまりにも――――」
あまりにも?
「本当の探偵みたいでびっくりしただけですわ!」
「本当の探偵みたいでびっくりしただけだぜ!」
「あっ……そう……」




