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乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい   その五十九

 BLオンリーイベントとやらの会場へと向かう道中、電車に乗ったあたりからずっと、翡翠は自分がどのキャラが好きとか、カップリングがどうとかよくわからない話をして優花はただ相づちを打つだけという時間が続いた。


 正直あまり話さなくて済むのは助かる。


 いくら優花が元々女性っぽい顔をしていると言っても、声は少し高めなだけの男の声。


 めいの特訓の成果により、無理やり女性のような声を出す方法は会得したものの、長く使い続けられるようなものではない。


「俺様的にはこっちのキャラが攻めで、こっちのキャラが受け何ですけどね」


 今回のイベントのチラシを優花に見せながら、翡翠がキャラクターの解説を始めていた。


 正直な話、翡翠が何を言っているのか相変わらずほとんど理解はできなかったものの、男とは自分の趣味の話をするのが好きなもの。


 そしてそれを褒められるのが、何よりも嬉しいとの師匠の情報から、優花は大げさに褒めてみることにした。


「……翡翠さんはすごくBLに造詣が深いんですね」

「……ま、まあな! 俺様はBL歴長いからな!」


 優花に褒められ、さらにBL話に拍車がかかる翡翠と、それを笑いながら聞いている優花を――――見守っている人達がいたことに二人は気がついていなかった。


****


「にははっ……まさか、凛香お姉ちゃんまでお兄ちゃんの尾行に来るとは思わなかったよ」


 ゆうか達を陰から見守っているのは、深く帽子をかぶり、マスクとサングラスで顔を隠した花恋と、


「尾行ではありませんわ! たまたまゆうかさん達の後をつける形になっているだけですわ!」


 ゆうかにぜったいついて来ちゃ駄目と言われていた凛香。


 花恋は用事があるからと翡翠の誘いを断ったにも関わらずゆうか達の後をつけているらしい。


 尾行なんてエレガントではない真似をしていることを認めるわけにはいかず、つい強く花恋の言葉を否定してしまうと、花恋が慌てたように凛香の口を押さえてきた。


「大きい声出すとお兄ちゃんに聞こえちゃいますよ!」

「っ!?」


 花恋に口を押さえられたまま、凛香が慌ててゆうか達の様子を確認すると、ゆうか達には聞こえていなかったらしく、二人楽しそうに談笑していた。

 

 本当に女性のように笑うゆうかと、そんなゆうかを見て終始頬を染めている翡翠を見ながら、凛香はぎりっと歯を食いしばる。


「あんなに楽しそうに話をして……」


 凛香が女装したゆうかに笑いかけられている翡翠を睨むように見ていると、花恋が隣で苦笑いをしていた。


「……凛香お姉ちゃんはすごく嫉妬するよね」

「なっ! これは嫉妬などではありませんわ!」

「うんうん、わかったから静かにね」


 花恋になだめられ少しだけ頭が冷える。

 そして、冷静になってみると、一つおかしな点に気が付いた。


「……それにしましても、奥間さんは何故ゆうかさんだと気が付かないんですの? 骨折の位置まで一緒ですのに……」

「うーん……お兄ちゃんは立ち位置とか服の裾とか使って巧妙に骨折した手を隠してるみたいだし、しょうがないんじゃないかな?」


 凛香が花恋と話をしている内に、既にゆうか達は目的地に着いたらしく、大きい建物の中に入っていった。


「ここが目的地ですわね……これは漫画のキャラクターかしら? 男性が多いようですけれど?」


 ゆうか達が入っていった建物の入り口には、男性キャラクター達のパネルが立ち並び、そこで記念撮影をしている人も多かった。そのほとんどが女性で、凛香が困惑していると、花恋が腕を組んで難しい顔になっていた。


「んー……やっぱり凛香お姉ちゃんにはまだ早いかなあ」

「早い? 何がですの?」

「このイベントに参加するのがだよ」


 早いとか遅いなんてあるんですの? という疑問を口に出す前に、ゆうか達が視界から消えたので、とにかく建物の中に入ることにする。


「凛香お姉ちゃんはBLは知らないんだよね?」

「B……L……?」


  ……無知を晒すことは何よりの恥、例え相手が花恋であろうとも、ここで知らないと言うことは虚空院凛香としてのプライドが許さなかった。


 BとL……何かの略称でしょうか? BL……BL……ああ!


 BLとは何の略なのか考えていた凛香の脳裏にふと一つの単語が思い浮かんだ。


「もちろん知っていますわ! この虚空院凛香が知らないことなどあるわけがないでしょう?」


 BL……どこかで聞いたことがあると思いましたら『BLTサンドイッチ』の略称じゃありませんの!


 『T』と『サンドイッチ』が無いということは、きっとベーコンとレタスだけの料理ね!


 自信満々で知っていると言っているのに、花恋は全く信じていないようで、ゆうかのように頬を掻いていた。


「うーん……たぶん勘違いしてるんだろうけど、とりあえず中に入ろう。ほら、行こう!」

「ちょっと! 花恋さん! 危ないですわ!」


 花恋に手を引っ張られ、建物の中に入ると、中はとても広く、無数の机が並び本を売っているようで、人もとても多くなんだか雑多な印象を受ける。


 そのほとんどがやっぱり女性で、男性の翡翠は浮いていた。


「……ベーコンレタスはありませんわね」


 中を隅々まで見渡しての凛香の第一声に、隣で花恋が吹き出していた。


「ぶふっ……ごほっ、げほっ! ……にははっ! やっぱり凛香お姉ちゃんは勘違いしてたね?」

「勘違い? どういうことですの?」


 ベーコンとレタスは本当はどこかにあるのかと小首を傾げると、花恋は自分の鞄から一冊の本を取り出した。


「ほら、これ見て?」

「……これは?」


 渡された本を見てみると、なんだか男性同士で至近距離から見つめ合う絵が表紙に描かれていた。中も見てみると、小説らしいとわかる。


「ええとBLっていうのはね?」


 花恋が何かを解説しようとしている間に凛香は、全てのページに目を通した。


「……ええと、男性同士が愛しあっていることをBLと言うんですのね?」

「おお、もしかしてもう読んじゃったの? 速読ってやつだ! 凛香お姉ちゃんすごい!」


 ぱちぱちと拍手され、当然ですわといつもなら高笑いするところだった凛香だが、高笑いはしないままで花恋の手に本を返した。


「花恋さん……」

「ん? どうしたの凛香お姉ちゃん?」


 何を言われるのかわかっていない花恋に向けて、凛香はにっこりと笑った。


「これは花恋さんにはまだ早いようですわ。……こんなものを持っていてはいけませんわよ?」

「に……にははっ……そうなるんだ……」


 まさか凛香に所持を反対されるとは思っていなかったのか、花恋はだらだらと滝のように汗をかき始めた。


「拝見しましたら少し性的な描写がありましたわ。花恋さんはまだ中学生です。こういうのを読むのは良くないとわたくしは思いますの」

「にははっ……これは結構ライト向けの内容だったんだけど……そんなこと言ったら……持っている物全部チェックされそうだなあ……」


 花恋がぶつぶつと何かをつぶやいている中、凛香は笑顔は変えずに、一歩花恋に近づいた。


「もしかしなくてもこのイベントはそういう内容の本が販売されているというわけですわよね?」

「そ……そうだけど……」


 一歩後ずさった花恋に、また凛香が一歩、歩み寄る。


「花恋さんは外で待っていてください、すぐにゆうかさんも連れてきますわ」


 花恋を捕まえようとすっと手を伸ばすと、花恋は小さい体を利用してひょいっと躱してきた。


「花恋さん!」

「ごめんね凛香お姉ちゃん! 捕まるわけには! ここで捕まるわけにはいかないんだよ! 欲しい本もあるし! お兄ちゃんのデートを見たいし!」

「こら! お待ちなさい!」


 凛香が声を荒げると、花恋はするするっと人混みをかき分けて中に入っていってしまい、すぐに見えなくなってしまった。


「まったくもう……これは後でおしおきをしなくてはなりませんわね……」

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