乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その五十八
めいに徹底的に教育された結果、優花は女装している間は完全に女性になりきることに成功していた。
女性ものの服を着るのにも抵抗は無くなり、ウィッグを付ければもう完全に意識が切り替わるレベルにまでめいに仕込まれた優花はもう女装で外出することすら平気になってしまった。
ちなみに仕草や、言葉使いは凛香とめいの真似から入っている。
近くにお手本があるというのは、とても助かりますねと思いながら、相変わらず困り顔の凛香に微笑みかけていると、すっと横から来ためいにウィッグを外された。
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「ゆうか君……卒業試験は合格です。これであなたは一人前の女装男子です」
「はあ……そうなんですか? よくわかりませんけど、ありがとうございます」
なんとか翡翠とのイベント前日にめいのお墨付きをもらえたようで何より……って、ん? 女装?
「……うわ! いつの間に俺を女装させたんですか! やめてくださいよ!」
気がつけば優花は、ウィッグこそ付けていないものの、女性ものの服を着た女装状態になっていた。
一体いつの間に着せたのか。まったく……油断も隙も無い……。
「……ゆうかさん? ええと……ご自分が今まで何をしていたかおわかりにならないの?」
目を大きく見開き、なんだか戦慄しているような表情の凛香に、優花は頬を掻く。
「何してたって……。……何かしてましたっけ?」
なんだかぼんやりとしていて直前の記憶がない。
「もしかして俺寝てました?」
めいに聞いてみると、めいは柔らかく微笑んでいるだけ。
「……ゆうかさん、少し失礼しますわね」
「あっはい、わかりました、それじゃあ俺は着替えてますね」
凛香がめいを連れて部屋を出ていくのを見届けてから、優花は側に置いてあった自分の服に着替えていると、扉のすぐ近くから二人の声が聞こえてきた。
「……めい? これはどういうことなの?」
「……恐らく自己暗示の一種かと。ウィッグを付けている間は自分は別人の女性だったと強烈に思いこむことで女装の羞恥心を克服したのでは……」
「ウィッグを外せば女装の時の記憶がなくなるのは、別人だという自己暗示の結果というわけですわね……」
「様子を見るに、女装している間はちゃんと元々の男性としての記憶もあるみたいですし。完全に自分が女性だと思い込んでいるわけでもないようですね。内面は男性と女性が入り交じった状態でありながら、私の教育によって反応は女性のものが出るというわけですね」
「なんというか……すごく複雑ですわね……。……とにかく、ウィッグを外すと女装する前後の記憶が消えるということで良いのですわね?」
よくわからないが、なんだか難しい話をしているみたいだ。
いつの間にか着ていた女性ものの服は、めいからのプレゼントなので、丁寧にたたみウィッグと共にバッグに入れていると、すぐに二人は戻ってきた。
「……ゆうかさん、明日のイベントなのですが、やっぱりわたくしも行きますわ!」
「えっ? ……いやいや! ダメですよ! 絶対ダメです!」
「このままイベントに行けば奥間さんとな、何かあるかもしれませんわ! そんなのわたくしは許しませんわよ!」
何を心配しているのかは知らないが、絶対に凛香を連れていくわけにはいかない。
腐女子を悪く言うつもりはないが、優花の推しである凛香に腐女子属性は付いてほしくはないのだ。
絶対について来ると言う凛香と、絶対に連れていかないと言う優花が、珍しくぶつかり合い、言い争いを続けていると、それを見かねたのか、めいが凛香の横から耳元に何かを囁いていた。
「お嬢様……少しお耳を……」
「めい? ……なるほど」
二人が何をするつもりかはわからないが、優花は今のうちに帰ることにした。
「それじゃあ俺はこれで帰りますね。明日は絶対に来ちゃだめですからね! 特に凛香さんは!」
「……ええ、大丈夫ですわ。それではごきげんようゆうかさん。めい、ゆうかさんを送ってさしあげて?」
凛香はめいになんと言われたのだろうか、さっきまで頑としてついて来ると言って譲らなかった凛香が、来ちゃだめと言った優花の言葉をあっさりと了承するとは思わなかった。
めいに送ってもらい、家に帰ると時刻は既に夜。
花恋と二人で食事をしたりしていつも通りに過ごし、翌日のために早めに寝た。
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翌朝、朝早くから起きてめい直伝のメイク術で完璧に武装している最中、やっと起きてきた眠気眼をこする花恋と目が合った。
「お、お兄ちゃん……?」
「あら、花恋。どうしたの?」
小首を傾げ微笑みかけると、花恋はひくひくと頬をひきつらせた。
「お、お兄ちゃん……話には聞いてたけど……自分でそこまでできるようになったの?」
「そこまでというのがどの程度かはわかりませんけど、メイクは女性の嗜みですよ? あなたもこれくらいできるようにならないとね?」
ウィンクと共に、大事な妹に言い聞かせる優花を見て、花恋はおでこに手を当てていた。
「にははっ……これは重症だね……」
「よし! メイクもできましたし行ってきますね! 留守は頼みましたよ!」
「……言ってらっしゃい、お兄ちゃん」
花恋に送り出され、優花は家を出る。
今日の服装は、ワンピースにカーディガン、そして動きやすいサンダル。場所に合わせた服を選ぶというのも師匠の教えだ。目的地は、翡翠との待ち合わせ場所である駅前。
早すぎず、遅すぎず、なるべく優雅にゆとりをもって歩行、歩幅は小さく足は外向きにならないように注意する――――を無意識でできるようになっている優花は、歩きながら道行く人に会釈をする余裕すらあった。
到着時間は、集合時刻の少し前。
優花が集合場所に着くと、既に翡翠は集合場所で待っていた。
「……もう集合時間になるぞ? 同士は何をやってるんだ?」
ぶつぶつと言いながらスマホをいじる翡翠へと正面から近づく。
「……翡翠さん」
「ん? 俺様の名前を呼ぶのはだ……」
スマホを見ていた顔を上げ、優花の顔を見ると、翡翠の言葉は途中で止まり、目が見開かれた。
「だ、誰だ? ……じゃなくて、あなたは?」
「私は……」
さて、ここで何と言うべきかは少し考えなくてはなりませんね。師匠によれば、あけすけに何でも話すよりも、少し秘密を持っていた方が良い女になれるということでしたし……。
少し考えてから、優花は『ゆうか』と明かすのではなく、『優花』と名乗ることにした。
「……私は優花と言います」
まあ口にすれば一緒ではあるが、翡翠は勝手に良いように解釈してくれた。
「ゆ、優花さん? ええと……もしかして同士のいとことか、お姉さん?」
「まあ、そのようなものです。さあ、行きましょうか」
優花が笑いかけると、翡翠はうっすらと頬を染めたが、すぐにぶんぶんと首を横に振った。
「いや、ちょっと待ってくれ。もしかして優花さんが俺様と……イベントに行くのか?」
「ええ。大丈夫ですよ、スマホは預かってきていますし、BLにも理解はありますから。道中はBLの話をしていただいても大丈夫です」
「そっ……そうか……」
優花をゆうかと別人だと思っている翡翠にしてみれば、いきなり初対面の人にBL話が大丈夫だと言われても早々できないだろう。……という計算込みの発言であったのだが、すぐに翡翠はBL話全開で話をし始めてしまったのは優香の計算外だった。




