乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その四十四
「楓ちゃん、さすがにそれは……」
真央が楓を止めようとしてくれていたが、優花は渋々ソファから立ち上がった。
「……一回だけな」
床に広げられたボードゲームの周りにはクッションで六つの席が設けられている。
優花が既に座っていた真央と竜二の間に座ると、すぐ後ろに凛香が座った。
「……わたくしは参加しないって言いましたのに」
優花が参加するのが不満なのか凛香が少し頬を膨らませていた。不機嫌になったというよりは、優花が参加するのが不満という感じだろうか。
「大丈夫ですよ虚空院先輩。灰島先輩には女子枠をお願いしますから」
「……女子枠?」
「はい、このゲーム男女同数でやるのが基本なんですよ。楓と真央先輩だけだと女子枠が足りませんから灰島先輩もお願いしますね?」
楓の笑みに強制力を感じ、仕方なく優花は小さいピンクの棒人形を取った。
「この棒人形をそれぞれの車に刺してゲームスタートです。一番恋愛ポイントを稼いだ人が勝利です。さあゲームを始めましょう」
恋愛ポイントって何? というツッコミはさせてもらえず、楓の宣言通りゲームがスタート。
この『マジ恋』というゲーム、基本的にはルーレットを回して出た数の分だけコマを進め、止まったマスのイベントをするだけのまあ普通のボードゲーム。
特徴的なのは恋愛関係のイベントが多いことと、楓が言ったように勝利条件が恋愛ポイントというゲーム独自のポイントを一番多く稼ぐことのようだ。
順番は最初に楓で次に翡翠、真央の後に竜二と優花、最後に深雪と言う感じで、男子枠と女子枠が交互になるようになっていた。
「なんか嫌な予感がするんだよなあ……」
楓が持ってきたゲームというだけで既に警戒心を抱いてしまう優花のつぶやきを聞いて、真央が首を傾げていた。
「ゆうかくん? 何か言った?」
「いや、別に……」
とにかく楓にだけは注意しようと決め、いよいよゲームが始まった。
マジ恋は最初は中学生時代から始まるらしく、中央に大きく中学生と書かれたマップが広がっていた。
「それじゃあ楓から! 『男子1に告白して振られた、恋愛ポイントマイナス10点』ですか、男子1は翡翠先輩ですね! ひどいですよ」
「ふっ、悪いな俺様はそう簡単には落とせないぜ?」
かわいこぶりっこしながら言う楓にも、髪を掻き上げ格好をつけながらそう言う翡翠にも、軽くいらっとしつつ見ていると、次は翡翠の番。
「『趣味に散財してしまう。お金マイナス500円』か……」
しょんぼりしながら翡翠が初期の手持ち千円札五枚の内一枚を銀行に戻し五百円玉に交換。
このゲーム恋愛ポイントの他に所持金の概念もあるらしく、所持金を一定額持っていないと止まったマスのイベントを行うことができないらしい。
中学生時代のマスは恋愛ポイントも所持金の増減も小さいが、ゲームが進むにつれてその増減は大きくなっていくらしく、恋愛ポイントが尽きた場合はその場でゲームオーバーだ。
「それじゃあ次は私の番だね!」
真央がルーレットを回し、止まったマスはお小遣いマスで所持金増加。マイナスにならなかっただけ前二人よりはましな結果だと言えるだろう。
「うし、それじゃあ次はおれっすね」
腕まくりをして竜二がルーレットを勢いよく回し、止まったマスは、
「『中学デビューに失敗した恋愛ポイントと所持金が半分に』か。序盤にこれはなかなかきついな」
「そうっすね……」
四人中三人がいきなりマイナスから始まったので優花がマスを改めて確認すると、一番最初のルーレットの回転で止まることになる十個のマスの内、六個が恋愛ポイントか所持金のどちらかをマイナスにする内容で、三個が所持金増加、最後の一個だけが恋愛ポイントプラスだった。
「よく見たら最初はほとんどマイナスなのな……」
さっそくクソゲー臭がしていて、やめたくなった。
竜二の次は優花の番なので回してみると、内容は『一目惚れした相手と同じクラスになった恋愛ポイントプラス50』だった。
「おっ、兄貴運が良いっすね」
「おー、おめでとう!」
ぱちぱちと竜二と真央の二人が拍手してくれる中、何故か後ろで凛香が「おーほっほっ!」と高飛車な感じで笑っていた。
凛香も優花と一緒にゲームをしているつもりなのだろうか?
「それでは、次は自分だな……」
一巡目の最後の深雪は……『入試結果が発表され一位だった。お小遣い2000円もらえた』という所持金の大幅プラスマス。
「勉学で金をもらうのは好かんが……」
「まあまあ六道先輩! ゲームなんですから細かいことは言わないようにしましょうよ!」
二個上の学年の先輩である深雪にも楓は特に委縮することなく、ぽんぽんと肩を叩いていた。
「う、うむ……」
困惑する深雪には構わず楓が二回目のルーレットを回した。
ゲーム開始から十五分経過。
ようやく中学生マップを全員が抜けたところの結果は……惨憺たる有様になっていた。
まずルーレットの数字だけは良くてどんどん前に進んでいった楓は次々恋愛ポイントマイナスのマスを踏み抜き、一番最初に高校生マップに入ったもののそこで最後の恋愛ポイントを削り取られゲームオーバー。最初の脱落者となった。
「なんなんですかこのクソゲー! 二度とやりません!」
めちゃくちゃ激怒する楓をまあまあと真央がなだめていた。
楓の次に悲惨だったのは翡翠で、既に恋愛ポイントは風前の灯。竜二と優花は恋愛ポイントと所持金を初期から微増させた程度、深雪は所持金ばかり増え、恋愛ポイントは少しずつ減っている状況だ。
さすがと言うべきか、真央だけはどんどん恋愛ポイントを貯め込み現在トップ。所持金の額も初期から微増していて悪くはない感じだった。
「中学生マップは特に厳しくされているみたいですわね」
「……高校生からは……カップルが成立する……って書いてます」
マスを確認していたらしい凛香と、ルールブックを確認していたらしい淀の言葉に気を取り直しゲームを再開する。
「それじゃあ俺様の番だな!」
恋愛ポイント最下位で、脱落寸前の翡翠が若干涙目のままルーレットを回すと、止まったマスは淀の説明にもあったカップル成立マス。
ルーレットの結果次第で、プレイヤー同士のカップルが成立し、その時点での互いの恋愛ポイントを合わせて合計ポイントをそれぞれの恋愛ポイントにするらしい。
「えーっと……『1から3が女性プレイヤー1、4から6が女性プレイヤー2、7から9が女性プレイヤー3で、10がでたらカップル不成立で恋愛ポイントマイナス10点』か」
楓が脱落したことを考えると半分ぐらい外れなわけだが、翡翠はそんなことを知ってか知らずか自信満々に笑っていた。
「さあ……回すぜ!」
翡翠がルーレットを回し、止まったのは……『6』で女性プレイヤー2。
プレイヤー2は真央なので、真央と翡翠でカップル成立したことになる。
「あっ……私とだね! よろしく翡翠くん!」
「ふっ、まあ当然の結果だな!」
トップの真央とカップルが成立した翡翠の恋愛ポイントは一気に回復し現在トップの真央の恋愛ポイントと合わせて『310点』で真央と同じトップになった。
「真央さんが……」
「さすがは真央先輩ですね! ええ! 楓はお二人が中々お似合いだと思いますよ!」
露骨に真央と翡翠をくっつけようとしているな……。
ゲームを通じて良い雰囲気を作り真央と翡翠や深雪、竜二との関係をより良くするのが楓の作戦なんだろうか。
 




