乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その四十三
「ばかっ! そんなわけないだろ! この人は凛香さんの家のメイドだ!」
あまりにバカなことをいう翡翠に熱が上がった気がした優花がめいを紹介すると、めいは自分のスカートをふわりと少し持ちあげて礼をした。
「虚空院家のメイド、四宝めいと申します。皆さま、お嬢様と仲良くしてあげてくださいね?」
「めい! 余計なことを言わないで頂戴!」
余計なことじゃないと思うのは優花だけだろうか?
めいのおかげで少し場の雰囲気も和らぎ、全員でリビングへ。食べきれないからと優花への見舞いの品のフルーツやらプリンやら、ミニお菓子やらをみんなに食べてもらうことにした。
「あら、これはなかなかいけますね」
「あっ! わかりますか! このプリン私大好きなんですよ!」
「……まあまあですわね。庶民にしては頑張ったというところでしょうか?」
「……りゅう……バナナ食べ過ぎ」
「なんなんだこのバナナ……うますぎだろ……」
「ふむ……この菓子の甘さは糖分補給に良さそうだ。さすがは三日月先生と言ったところか」
「俺様的にはこの小さい肉だな、手が止まらないぜ!」
めいと真央と凛香がプリンを食べ、竜二と淀がフルーツを食べたかと思えば、翡翠と深雪がミニお菓子を口に入れる。
凛香のメガ盛りおかゆを食べたせいでお腹がいっぱいで何も食べられない優花の目の前で、みるみるうちに見舞いの品はなくなっていき、結局優花が一つも食べることなく全て消えた。
「……兄貴食べなくてよかったんすか?」
「あー……いまちょうどお腹いっぱいだったから……」
この場には優花以外に七人もいるので、それはすぐになくなりもする。
正直メロンくらいは食いたかったけど……。
残念に思いながら、優花は一人でリビングを出て自室に戻ろうとすると、今日何度目かのインターホンの呼び出し。
「……今度は誰だ?」
あと家に来そうな人物に心当たりがない。強いて言うなら、凛香に鍵を渡したせいで鍵を持っていない花恋が帰って来た可能性が高いだろうか?
「兄貴! おれが出るっすよ!」
また玄関に行くのも億劫だなと思いながら玄関に向かうと、竜二が優花を追い抜いて様子を見に玄関の扉を少し開けた。
「失礼しまーす!」
開いたわずかな扉の隙間にすぐに足を差し入れ、閉められないようにして無理やり入ってきたのは楓だった。
「……あん? なんでお前が兄貴の家に来るんだ?」
竜二がぎろりと睨みながら威圧しても楓はどこ吹く風。平然と靴を脱いで優花の家に上がり込んできた。
「ああ、灰島先輩風邪ひいたみたいですね! ご愁傷さまです!」
「いや、死んではいないから……」
相変わらず若干いらっとさせてくる楓に頬を引きつらせていると、楓の声が聞こえたのか真央がリビングから出てきた。
「あれ? 楓ちゃん? どうしたの?」
「あっ! 真央先輩!」
すたたたと優花の横を抜けて真央の腕に抱き着く楓。
「真央先輩に会いたかったので来ちゃいました! ご迷惑でしたか?」
「迷惑じゃないけど、よくゆうかくんの家がわかったね?」
そう言えばそうだ。
花恋と連絡先を交換したらしい真央はともかく、楓はどうやって優花の家の場所を知ったのだろうか。
「それは……」
上手い言い訳が思い浮かばないのか、楓は目を泳がせた。
「まあ……色々と……」
色々ってなんだ……。
攻略情報を知っているだけではなく、楓はもしかしたら全員の住所まで知っているのかもしれない。
「そっか、色々かあ」
真央はこの楓のあまりにもひどい言い訳をそのまま受け入れてしまっていた。
優花としては詳しく聞き出しておきたかったが、これ以上追及できる雰囲気でもなくなってしまった。
「それにしても……全員灰島先輩のお見舞いですか? ちょっと来すぎじゃないですか?」
楓も含めればこれで九人。それほど小さい家でもないのだが、さすがに手狭に感じるぐらいの人数ではある。
楓にはさっさと帰ってもらいたかったのだが、楓は真央の腕を引っ張り、リビングへと入っていってしまった。
「兄貴? あいつ本当になにしに来たんすかね?」
「さあな……」
お見舞いというわけでもなければ、看病に来たわけでもなさそうな楓の狙いがわからないので、このまま放っておくことはできず、結局優花もリビングに戻ることにした。
楓が新たに来たものの、もうフルーツもプリンもミニお菓子も残ってはいない。優花の家で特にすることはもうないし、皆すぐに帰るだろう。もう少しの辛抱だ。
「せっかくこんなに人がいますしゲームでもしませんか! 楓ボードゲームを持ってるんです!」
……お前は本気で何を持ってきてるんだ。
「ゲ、ゲーム? うーんと……」
困ったようにこの中で唯一楓の友達の真央が優花を見てきた。
ゲームするより帰った方が良いんじゃない? と言おうとした優花の元に楓がやってきた。
「良いですよね、灰島先輩。もしもダメって言ったら楓、灰島先輩のことばらしちゃうかもしれませんよ?」
優花の耳元で、内緒話でもするように楓が囁き、優花も小声になった。
「……ばらすってなにをだ?」
別にやましいことなんて……。
「灰島先輩池袋で何か買ったらしいじゃないですか……」
池袋で何か買った? 一体何の……。
楓が何のことを言っているかわからず、質問しようとした優花の脳裏に最早思い出したくはない黒歴史が蘇ってきた。池袋で買った物と言えば…………花恋の十八禁BL本しかない。
……どうして楓が知ってるんだ?
青い顔で楓を見ると、楓はにやりと笑った。
「楓の調査力を舐めないでくださいよ、せ・ん・ぱ・い」
う、うざい……。
かつてここまで年下の女の子をうざいと思ったことはない。さすがにこの場で十八禁BL本のことをばらされるのは色々まずい。この場には凛香もいるのだ。
「こほん、俺のことは放っておいてみんなで遊んだら良いんじゃないか? せっかくの休日だし、少しくらい遊んでも問題ないだろ?」
優花にしか見えないようにいやらしく笑う楓の援護をすると「じゃあ……」という感じで楓が持ってきたボードゲームが始まった。
……こいつに弱みを握られている状況はまずいな。
ゲームの準備をする楓を見ながら優花がどうしたものかと思っていると、優花が座るソファの横に凛香がやって来た。
「ゆうかさん。部屋で休んでいた方が良いのではなくて?」
「あー……まあそうなんですけどね」
このまま自室に帰ってしまうと、楓を野放しにすることになるのでそれはできない。あの小悪魔は絶対何か企んでいるからだ。
「それより凛香さんは参加しなくて良いんですか? まだ入れると思いますけど?」
楓が持ってきたのは『マジ恋』という名前のゲームで、最大プレイヤー数は六人。めいと淀は不参加、楓と真央、竜二と翡翠、そして深雪が参加するので、今のところあと一枠が空いている。
「ゆうかさんがやらないならわたくしもやりませんわ」
「はあ……そうですか」
なんで優花がやらないと凛香もやらなくなるのかわからず、生返事を返すと、凛香はその理由を教えてくれた。
「……あれは恋愛を題材にしたゲームなのでしょう? わたくし、仮であってもわたくしを慕う人を悲しませたくはないのですわ」
「慕う人……ですか?」
そんな人いるっけという思いが顔に出ていたのか、微笑んでいたはずの凛香の顔がみるみるうちに怒りに染まっていく。どうやらまた怒らせてしまったらしい。
怒るってことは、凛香さんを慕う人が俺以外に誰かいるってことか? ……めいさんとか?
リビング周りの細かい掃除をしているめいの方を見ると、めいは優花達の話を聞いていたらしく何故か困ったような、呆れたような複雑な顔でこっちを見ていた。
「準備できましたよ! それでは始めましょう!」
「あっ、ゲームが始まるみたいですよ! ほら!」
「露骨に話をそらしましたわね……」
……ばれてる。
冷や汗を流しながら凛香の刺すような視線に耐えていると、楓がくるりとこちらに振り向いた。
「せっかくですし灰島先輩もやりましょう!」
……断ったらまた脅されるんだろうなあ。




