乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その百
何か予想もつかない、すごい答えを期待していたらしい皆のがっかり感を全く隠していない反応に納得がいかずツッコミを入れると、凛香を皮切りに、深雪と翡翠、楓そして真央にまで『普通』であることをなんだか責められた感じになった。
こ……こいつら……。
さすがにいらっと来たものの、ぐっとこらえて優花は動画の再生ボタンを押す。
「……優花さんの部屋が映っているだけですわね」
凛香の言う通り、スマホに録画されていた動画は、机の上に置かれたティッシュ箱を利用して隠したスマホから、部屋を映しているもの。
しばらく映っている光景に動きが無かったため、早送りをすると、いきなりがちゃりと優花の部屋のドアの取っ手が回った。
「……いよいよ……犯人が映るのか!」
緊張感と共に翡翠がごくりと生唾を飲み込んだが、優花の部屋に入って来たのは、その翡翠だった。
『あれ? なんだ同士はもう下行ったのか……』
優花の部屋をきょろきょろと見た後、ぶつぶつと残念そうにつぶやいて部屋を出ていった翡翠を見て全員の視線がスマホを見ている翡翠に注がれた。
「えっ? いやいやいや! 俺様は犯人じゃないぞ! そもそも何も盗ってなかっただろ!」
皆から見られて、犯人だと思われたのかと焦り出した翡翠に、ツッコミを入れたのは深雪だった。
「いや、紛らわしいことをするなという意味の視線だが……」
「そんなことを俺様に言われても! 部屋の中撮ってるだなんて知らなかったんだからしょうがないだろ!」
また深雪と翡翠の喧嘩のような小競り合いが始まりそうな雰囲気に、優花が仲裁に入ることにした。
「落ち着け翡翠。ここからだから」
「……わかった」
翡翠が落ち着いて、動画の再生を再開すると、また優花の部屋のドアの取っ手が回った。
「今度こそ犯人が……って猫?」
優花の部屋に新たに入って来たのは……人間ではなく……一匹の黒い猫。昨日から別荘の中で姿を見ている猫で間違いないだろう。
「猫ってドア開けられるんだな……」
「持って回すタイプではないからだろうな……」
翡翠と深雪が器用にドアを開けて入って来た猫に感心していると、猫は優花の部屋をうろちょろしたあと、ひょいっとベッドに飛び乗った。
「あっ! ベッドに置いてあったゆうかくんの腕時計くわえて持ってっちゃった!」
真央の言ったように、優花のベッドに飛び乗った猫は、すぐさまベッドに優花がわざと置いておいた腕時計を見つけて口にくわえると、そのまま素早い身のこなしでベッドから降り、部屋を出ていってしまった。
昼食という皆が集まる時間は、個室に誰もいなくなる。その時間に猫の犯行が行われる可能性が高いと見込んで、わざと盗みやすいものをベッドの上に置き、その様子を録画しておいたのだが、運良くちょうど猫が犯行に来てくれたわけだ。
「……というわけで、犯人は猫でした」
猫の犯行の瞬間が録画されていた動画を止めて、スマホをポケットに戻し、皆の反応を窺うと、翡翠と深雪、そして真央は猫が犯人であることに純粋に驚いていて、伊戸と仁戸、そしてめいは何となく察していたのか、すまし顔。そして竜二は、さすがは兄貴と目を輝かせていたが、問題は残る三人だった。
「やっぱりわたくしの言った通り猫が犯人だったようですわね! さすがはわたくしですわ! おーほっほっほっ!」
見事に途中で犯人を当てていた凛香が、調子に乗って高笑いをしていると、奈央と楓が待ったをかけた。
「いやいや! それはおかしいだろ!」
「そうですよ! 猫は犯人じゃありません!」
「何を言っているんですの? 今犯行の瞬間を確認したじゃありませんの?」
猫犯人説に真っ向から否定してきた、奈央と楓に凛香が困惑した顔を見せると、楓がにやりと笑った。
「忘れてませんか? たしかに灰島先輩の腕時計を持っていった犯人は猫ちゃんでしょう。でも、翡翠先輩の本が盗まれた時、あの猫ちゃんは楓達のところにいたんですよ?」
「あっ……」
言われて気が付いたと言う感じで、はっとした凛香は、少し考える素振りをみせたが、楓に反論できずに悔し気に爪を噛んだ。そんな凛香を見て楓がふふんと胸を張り勝ち誇る。
「……ゆうかさん! どういうことなんですの!」
「あっ、はい! これから説明しますね凛香さん!」
凛香に睨まれて慌てて優花は今回の事件の最後の謎である、猫のアリバイ崩しを始める。
「楓の言う通り、翡翠の事件に関しては……現状猫にアリバイがあると言わざるをえない」
「ええ! そうでしょうね! だったら、犯人として一番怪しいのはやっぱりそこのメイドってことになりますよね!」
ふふんと更に調子に乗った楓に、凛香がすっと目を細め、伊戸はすっかり委縮してしまっている。
また場の空気が悪くなりそうな中、急に真央が楓の頭を撫で始めた。
「ちょ! 真央先輩っ! な、なにを……!」
「楓ちゃん、ゆうかくんの話はまだ終わってないみたいだから、ちゃんと最後まで聞こうね」
「は……はい……」
いつもは楓が真央を振り回しているようにも見えたが、肝心な所では真央の方が上らしい。頭を撫でられて諭され、楓はすっかり大人しくなった。
「あー……じゃあ、説明を続けるけど、今回の事件のポイントは二つ、一つ目は盗まれた物が小さいこと、そしてもう一つのポイントはずばり――――――――」
今回の事件を解く重要な場面だと、皆理解しているのだろう。場の緊張感が高まる中、優花がタメにタメていると、
「双子っすね!」
竜二に横から答えを掻っ攫われた。そして竜二が答えを言ったことで、凛香も真相に気が付いたらしい。
「小さい物と……双子? ……もしかしてあの猫も双子だったということですの?」
「そういうことっすよね兄貴!」
「うんまあ……そうだけど……」
一番盛り上がる重要な場面を台無しにされた感じに打ちのめされ、やっぱり自分は主人公などではないんだなと思い知らされる。
「ええと……つまり、俺様が朝食に行っている間に、俺様の本を奪ったのは……」
「八手が遊んでいた猫とは別の猫……ということになるな」
翡翠と深雪もこの結論で納得していたが、まだ納得していないのはやっぱり奈央と楓の二人組だった。
「ちょっと待て! それなら猫が二匹いることを証明してもらわないとな!」
「そっ、そうですよ! 二匹いることを証明できなければ、やっぱり犯人がいることになるはずです!」
まあ……そうくるよなあ……。
楓達の反論は当然予想できたこと、それに対する優花の答えは……。
「猫が二匹いることを証明すればいいんだよな?」
「そ、そうですけど……灰島先輩にできるんですか?」
「いやまあ……簡単だろ?」
「簡単? 何ですか? 魚でも焼いて猫ちゃんを釣ろうって言うんですか? そんな漫画みたいな……」
楓の案も悪くはないが、優花の案はもっと単純な案だった。
「皆で探せばいいだろ?」
「は? え? 皆でって?」
「いや、だからここにいる皆で。猫を二匹捕まえればいいだろ?」
「…………」
優花のまったくもって普通な案に楓が絶句し、竜二が勢いよく拳同士を打ちつけた。
「おっしゃあ! 猫を二匹捕まえてくればいいんすよね? 任せてください!」
猫を捕まえに早速走っていきそうな竜二を優花は慌てて引きとめた。
「あー、待て待て、皆バラバラに行動すると危ないから、伊戸さんと仁戸さんとめいさんに監督してもらって三チームで行こう。いいですよね?」
「ええ! 皆さんもそれで良いですわね?」
凛香が視線を向けると、楓と奈央を除く全員がこくりと頷き、奈央と楓も渋々といった感じで頷いていた。
ブックマーク登録に評価、感想、そして何よりも作品をお読みいただきありがとうございます。おかげさまで、モチベーションを落とさずに、おまけ抜きでようやく100話に到達しました。
しっかりと最後まで書き上げたいと思いますので、これからも読んでいただけると嬉しいです。




