乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その九十九
優花が仁戸の名前を「伊戸」と呼んだことで、竜二と真央が優花の間違いを訂正しようとしたものの、優花はゆっくりと首を横に振った。
「いや、これで合ってるはずだ。ですよね? 伊戸さん?」
「うっ……は、はい……」
仁戸が優花の言葉を肯定すると、その場に動揺が走った。
「ま、まさか本当に双子のトリックなんすか! 兄貴!」
「ええと、入れ替わってたってことかな?」
「本当か? まあたしかに髪型と髪留めさえ変えてしまえば、自分には見分けは付かないが……」
「おいおい、漫画じゃないんだから……」
竜二が目を輝かせ、真央が理解を見せ、深雪が難しい顔で伊戸と仁戸の顔を見比べ、翡翠が呆れを見せるなか、楓と奈央は違う意味で盛り上がった。
「なんでそんなことをする必要があったんですかね! これはやっぱり……」
「怪しいな! 普通はそんなことをする必要は無いよな!」
「ま、待ってください……これには……」
楓と奈央の追及に、これはまずいと思ったのか、仁戸改め伊戸が慌てて説明をしようとしたところ、優花が制止する。
「伊戸さん。落ち着いてください。俺は別に伊戸さんが犯人だと言っているわけではないんです。ただ、どうして入れ替わる必要があったのかだけははっきりさせておこうと思っただけなんです。話してもらえますよね?」
「…………わかりました」
少しの沈黙の後、伊戸が明かしたのは、昨夜の出来事。
深夜に起きたら誰の物かわからないスマホが自分の机の上にあったという話だった。
今回スマホがなくなったのは優花だけなので、伊戸が見つけたのは優花のスマホだったのだろう。もちろん優花は昨日、伊戸の部屋には行っていない。
伊戸の話を信じるならば、優花からスマホをとった犯人が、そこに置いたとしか考えられない。
「はあ? そんなの信じられるわけありませんよね!」
伊戸が嘘をついているとか、誤魔化しているとでも思ったのか、楓が攻撃的な態度を取ると、伊戸が申し訳なさそうな顔になっていた。
「そうですね……私も信じてもらえないと思いまして……こっそりと持ち主の部屋に戻しておこうと思ったのです」
なるほど……それで知らないうちにスマホが戻ってきてたのか……。
「ちなみに、どうやって俺のスマホだって特定したんですか?」
「あまり特徴も無かったので、仕方ありませんから皆さんの部屋に伺った際にスマートフォンを持っているかどうか確認させてもらいました。大抵机の上か、ベッドの上に置いているものですから……」
たしかに皆を起こしたり、朝食に呼びに来たのは仁戸――――つまりは伊戸なので、この証言に嘘は無さそうだ。
「スマホの件はわかりましたけど……それじゃあ、どうして入れ替わりなんかしたんですか?」
犯人がわかった今でも、いまいちよくわからないのがそこだった。
どうして伊戸と仁戸が入れ替わっていたのか。
それをはっきりさせようと優花が伊戸に質問すると、伊戸は質問には答えず、黙って顔を伏せてしまった。何か言いづらい事情でもあったのだろうか。
伊戸が口をつぐんでしまった代わりに今まで黙っていた仁戸が前に出た。
「それは私から説明しますね。まあ、簡単な話なのですが……私達の入れ替わりと灰島様のスマートフォンの件はほとんど無関係なのです」
「……無関係とは?」
仁戸の説明に疑問を感じたのは優花だけではなかったらしい、話を聞いていた深雪が眼鏡を直しながら仁戸に問い掛けると、仁戸はにっこりと笑いながら説明を続けた。
「伊戸が私に入れ替わってくれと言ってきた理由は……そもそも灰島様に原因があるのです」
「……俺ですか?」
いや、なんで俺なんだ? 俺が伊戸にしたことと言えば……。
「伊戸は灰島様に『美人だ』と言われて照れてしまったのです。伊戸はこの通り表情も堅い根っからの堅物なので、容姿を褒められることもなかなかありませんので……」
「そ、そうなんですか?」
優花が確認すると、伊戸は恥ずかしそうにこくりと黙ったまま頷いた。
「灰島様に褒められて、照れてしまった伊戸は灰島様と顔を合わせるのが恥ずかしくなってしまったのです」
「ええと……それで入れ替わりを?」
別に入れ替わったところで顔は合わせることになるのだが、それは良いのだろうか?
「ええ。……ただ、皆さんが思っているよりも、私達は入れ替わりを気軽に行っているので、あまり気になさらなくても大丈夫ですよ?」
……なるほど。普段から何かあると二人が入れ替わって、別人として過ごす癖があったので、今回も入れ替わりを行っていたということになるらしい。
結局めいに話を聞いた時に出た答えで合っていたようだ。
拍子抜けしてしまう双子の入れ替わりの真実に、優花が何とも言えない気分になっていると、まだ納得していないらしい楓が伊戸と仁戸にじろじろと犯人だと疑っている気をまるで隠していない視線をぶつけていた。
まあ、楓が信じきれないのも仕方がない部分もある。
皆の物が盗まれるという事件が起きたこの状況で、双子が入れ替わっていたとなれば、犯人だからじゃないのかと疑ってしまうのが普通だろう。
「あの……」
楓が出すむき出しの敵意に場の空気もなんとなく悪くなってきた中、真央が恐る恐るといった感じで手を挙げた。
「真央? 何か気が付いたことでもあったのか?」
「気が付いたことと言うか……ええと……スマートフォンの話なんだけど……落ちてましたじゃだめだったのかなって? 朝食の前なら物がなくなったって皆が騒ぐ前だったよね?」
「あー……それな……」
真央の言う通り、盗みが発覚する前だったら「落ちてました」と皆の前で言えば、こっそりと優花の部屋にスマホを戻すなんて必要もなく、優花の捜査が余計に混乱することはなかった。
真央の指摘に、伊戸は「あっ……」と言ったあと、耳まで真っ赤になりさっきより深くうつむいてしまった。
「伊戸さんって天然系だったんですね……」
「うぅ……」
更に顔を真っ赤にして恥じ入る伊戸に、場の空気が弛緩したところで、優花はようやく本題に入ることにした。
「今はっきりさせた伊戸さんと仁戸さんの入れ替わりの件だけど……まあ初めから今回の事件と直接関係ないのは実はわかってたんだ」
「初めからわかってたってどういうことですか? まだこのメイド二人が怪しい……容疑者だというのは変わらないと思いますけど!」
相変わらず敵意むき出しの楓に、優花はにやりと笑ってみせた。
「どうしてかって? 簡単な話だ。証拠があるからだ」
優花が取り出したのは自分のスマホ。優花が自信満々にスマホを取り出すと、凛香が首を傾げた。
「そのスマートフォンが証拠何ですの? 犯人の手掛かりでもそのスマートフォンに残されていたんですの?」
「いや、手掛かりというか……」
優花が答えを言おうとした瞬間、翡翠がぱちんと指を鳴らした。
「わかったぜ! 指紋だな! そのスマホに指紋が残っていたんだな! 違うか? 同士!」
「いや……違うけど……」
自信があったらしい翡翠の推理を否定すると、がーんというショックを受けた感じのリアクションのあと翡翠の首ががくりと落ちた。
「ふむ、ならば……そのスマホに指紋ではなく、犯人の匂いがついていたのではないか?」
「いや、違いますね……」
翡翠に続き今度は深雪が推理を披露しまた撃沈すると、楓や凛香、真央まで何故かスマホに残っていた証拠がなんだったのかという予想を披露し始めことごとく間違えて撃沈していった。
「兄貴……そろそろ答えを教えた方が良いと思うっす……」
「ああ、そうだな……」
ぽりぽりと頬を掻きながら、優花はスマホを操作すると、スマホを皆に見えるようにテーブルに置いた。
「答えは、犯行の瞬間を動画で撮影していたからでした」
『…………』
優花のあまりにも簡単な答えに、真央一人だけ「そっか!」と言って感心し、凛香や翡翠、深雪と楓はがっかりした感じを全く隠さずに沈黙していた。
「…………いや、何この空気! そりゃあ普通の答えだけど!」
「いえ、あまりに普通の答えすぎて逆に盲点だっただけですわ……」
「ああ、あまりにも普通すぎてな……」
「……普通すぎてな」
「普通ですね……」
「あはは……まあ、普通だよね、ゆうかくんは」
読んでいただきありがとうございます。三日ぶりの更新となります。
誤字報告のお礼や、更新頻度等については活動報告の方に書かせてもらっていますので、よろしくお願いいたします。




