乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その九十八
喜々として優花が竜二から受け取ったのは優花自身のスマホ。
「優花さん? ええと……受け取っているのはスマートフォンですわよね? それが証拠なんですの?」
「ふむ……スマホに犯人の指紋でも残っていたのか?」
凛香が首を傾げ、深雪が興味深そうに優花のスマホを見てくる中、優花はゆっくりと今回の事件の説明を始めた。
「こほん……では、犯人は誰か――――――――を言う前に、まずは事件の整理を……」
「いや、そういうの良いんで! 犯人を教えてくださいよ灰島先輩!」
もしこれが推理小説であったなら、ここからは探偵の推理が披露される重要な部分。優花も少し気合いを入れて、勿体ぶった感じでいこうとしたら楓に出鼻をくじかれた。
「いや、こういうのは……」
「こういうのは犯人は最後って決まってるんだよ! さあ兄貴! 続けてください!」
「お、おう……」
竜二の援護もあり、ふたたび咳払いをしてから優花は事件の説明を再開した。
「まずは事件の整理をさせてもらうと、盗難事件が発覚したのは、二日目の朝食の後。いつ盗まれたかわかっているのは翡翠の盗まれた物だけで、他の人の物はいつ盗られたかも定かじゃない」
全員の顔を見回すと、皆そこまではわかっているというように優香に頷きを返したので、話を先に進める。
「そこで、俺と凛香さんがみんなの部屋を調査させてもらったわけだけど……まあこの調査でわかったことはほとんどなかった。どの部屋を見ても特に証拠らしいものもなかったし」
「ええ、そうですわね……それで? そこからどうやって優花さんは犯人を特定したんですの? あの後はすぐにお昼ご飯になりましたし、新たに調査をする時間はなかったはずですわ」
事件の核心へと迫る凛香の質問に、優花はふっと不敵な笑みを浮かべながらさっき竜二から渡されたスマホを持ちあげ皆に見せた。
「俺が犯人が誰かに気が付いたのには、二つのポイントがあった。一つ目は皆の盗まれた物の共通点」
「共通点? 何かあったか? 俺様がB……ごほっ、ほ、本で……同士がスマホだろ?」
「楓が髪留めで、奈央先生は靴下片方ですね」
「ああ、そして自分が眼鏡のスペアで、獅道が知恵の輪だな」
翡翠、楓、深雪がそれぞれ盗まれた物を挙げると、凛香と奈央が首を捻った。
「共通点……何かありますの? 身に着ける物……ではありませんわよね。知恵の輪と本が違いますものね」
「共通点かあ……それぞれが大事にしてたもの……ってわけでも無さそうだよなあ」
あーでもない、こーでもないと凛香と奈央が頭を悩ませている様を眺めていると、答えがわかったらしい真央が「あっ!」と言って手を挙げた。
「はいはい! 小さい物とかじゃないかな!」
「小さい物ですの? それがポイントになるんですの?」
「それはええと……」
「実は真央が正解なんですよ凛香さん」
凛香に質問され、答えに詰まってしまった真央に代わり、優花が真央の答えを肯定すると、凛香はぷいっと顔を背けた。
「ふっ、ふん! 小さいなんて共通点は当たり前すぎて挙げるまでもなかっただけですわ!」
負け惜しみみたいな感じで言う凛香に、相変わらず負けず嫌いだなあと苦笑しつつ、話を続ける。
「物を盗むことを考えた時に盗る物が小さい利点は何だと思う竜二」
「小さい利点っすか……ええと、まあ普通に考えれば盗みやすいっすよね。大きいもんだと簡単には動かせませんし、あとは隠しやすいってのもあるっすよね。今回盗まれたものはポケットぐらいには入る物がほとんどですし、しっかり隠しちまえばこの広い別荘、見つけるのは難しいんじゃないっすかね」
さすがに推理小説が好きらしいだけある竜二の答えに頷くと、楓が手を挙げた。
「盗みやすいのはわかりましたけど、それが犯人の特定に繋がるんですか? だってそれって誰が犯人でも一緒ですよね?」
「まあ……たしかに八手の言う通りだな、この共通点が犯人の特定に繋がるとは自分も思えんが……」
楓の的を射た指摘に深雪が納得した素振りを見せるなか、今度は奈央が手を挙げた。
「うし! わかった! 小さい物をいっぱい隠せる奴が犯人ってことは……ずばり犯人はメイドのどちらかだろう! メイド服っていっぱい隠せそうなところがありそうだしよ!」
奈央の指が部屋の隅に黙って立っている伊戸と仁戸に向けられ、凛香が眉をひそめた。
「……わたくしの家のメイドがゲストの物を盗んだと言うおつもりですの?」
「い……いや、だって、小さい物がだな……」
凛香の鋭くなった視線に奈央がびびり、場の空気がどんどん悪くなりそうな雰囲気を感じ取り、優花はぱんぱんと手を叩いてみんなの注目を集めた。
「はい、そこまでにしましょう。俺の説明は途中ですよ凛香さん」
「ええ、そうでしたわね……」
「虚空院、こええ……」
凛香が睨むのをやめると、奈央は心底安堵したように息を吐き、凛香から逃げるように深雪の背中に隠れてしまった。奈央から頼られるのが嬉しいのか、深雪が嬉しいような、恥ずかしいような顔になっていたが、今はどうでもいい。
「犯人を特定するポイントの一つ目は小さい物という共通点でした。そして、これだけでは楓の言う通り犯人の特定には至らない」
「ですよね!」
ふふんと胸を張る楓に竜二が舌打ちでもしたそうな顔になっていた。たぶん、良い指摘をした楓に対抗心を燃やしているのだろう。
「そこでもう一つのポイントが必要になるわけだけど……その前に、翡翠の事件のアリバイをもう一度確認しておこう。竜二」
「うっす! まずおれと兄貴、虚空院の姉御と八雲の姉御、そして奥間先輩と生徒会長、そんでめいの姉御は奥間先輩の物が盗まれた時間、朝食をとっていたっすよね」
「そうだ。そして伊戸さんと仁戸さんは共に食事の準備をしたり、皆を起こしたりと色々していて、楓は部屋で猫と遊んでいて、鬼島先生は寝ていた」
「ええ、それで? それがなんなんですの?」
そんなことはわかっているというように鼻を鳴らした凛香に、優花はぽりぽりと頬を掻いた。
「だからその……この状況だけで見れば、俺達と違って自由に別荘内を移動できた伊戸さんと仁戸さんを疑うのはそれほどおかしなことでもないんです、凛香さん」
「…………」
凛香から先ほど奈央に向けていた刺すような視線を向けられ、優花は背中に冷たい汗が流れるのを感じながら、慌てて説明を続ける。
「ただ、伊戸さんと仁戸さんが犯人と言っているわけではないので……」
「当たり前ですわ! 虚空院家のメイドがゲストの物を盗むなどありえませんわ!」
心の底からめいや、伊戸や仁戸達メイド達を信じているのがわかる凛香の怒りの声に、そんな場面でもないのにめいが嬉しそうに笑っているのが見えた。
「とにかく、そこのメイドが怪しいとは灰島先輩も思ったんですよね? それで? それがなんなんですか?」
早く犯人を言えとでもいうように楓に急かされ、優花は今回の事件を解くためのポイントの二つ目につながるある疑問を解消しておくことにした。
「二人が怪しいのは、単に翡翠の物が盗まれた時間に自由に動けたからってだけじゃない」
ゆっくりと優花が歩みよった先は伊戸と仁戸の立つ部屋の隅。優花が前に立つと、伊戸は余裕たっぷりに微笑み、仁戸は頬を赤く染め、視線を落ち着かなげに彷徨わせていた。
「これで三回目になりますけど……俺はあなた達二人が本当に美人な双子だと思ってますよ、仁戸さん……いえ、伊戸さん」
「なっ! なななななな! っ! ごほっ! げほっ!」
優花がにこりと笑いながら声を掛けたのは、髪の毛を右から流し、青い髪留めをつけた仁戸の方。優花に美人と言われた仁戸は、ぼっと顔が一気に真っ赤になり、動揺しすぎてむせてしまっていた。
「あ、兄貴?」
「ゆうかくん? そっちは仁戸さんだと思うけど……」




