乙女ゲー異世界転生者(♂)は悪役令嬢を救いたい その九十七
楓と奈央が使っている部屋は二度調べたので、そんな跡があればさすがにわかると思った優花だが、よくよく話を聞いてみれば、シーツのことは結局後から部屋に来た仁戸にばれてしまったものの、新しいシーツと交換してもらって事なきを得たらしい。
「仁戸ったら、変わったことあるじゃありませんか……」
たしかにさっき仁戸に会った時は、変わったことは無かったと仁戸は言っていたはずだ。
「『お気になさらずに』って言ってきびきびと変えてくれたんですよ。まあその間に猫ちゃんはどこかに行っちゃったんですけどね……」
「なるほど……」
仁戸が猫とシーツのことを後で報告するつもりだったのか、それとも単に楓達に気を使って伏せていたのかはわからないが、とりあえず翡翠の本の件は猫にアリバイがあるのは確かみたいだった。
「それじゃあやっぱり犯人がいるってことか……」
猫が犯人……いや、犯猫だったら、誰も悪くないので良いと思ったのだが、そう上手くはいかないらしい。
じゃあ誰が犯人なんだ? と振り出しに戻りそうになった所で、優花の部屋をめいが訪ねてきた。
「ゆうか君、ちょっと……」
めいは扉から顔をのぞかせ何故か優花だけをちょいちょいと手招きして呼んでいる。
「はい? めいさん? どうかしました?」
何か新しいことでもわかったのかと、優花がめいに誘われるまま部屋のドアに近づくと、めいの手がすっと伸びてきて、腕をつかまれた。
「め、めいさん?」
「お嬢様、少しゆうか君を借りますね?」
にっこりと有無を言わさぬ口調でそう言っためいに、凛香が気圧されていた。
「え、ええ……わかりましたわ……」
腕をつかまれたまま、部屋から連れ出された優花が連行されたのはめいが使っている部屋。
荷物や服が散らばっているようなことはなく、綺麗すぎるくらい綺麗な部屋に改めて感心していると、ようやくめいが腕を放してくれた。
「ゆうか君。どうして呼ばれたかわかりますか?」
「いや、わからないですけど……」
今のめいの雰囲気は、犯人がわかったとかそういう感じではなく、お説教モードの時のそれだ。
一体何について怒られるのか不明なまま、姿勢を正して審判の時を待つと、めいはにっこりと笑いながらお説教を開始した。
「良いですか、ゆうか君。女性に軽々しく美人とか言うのはだめですよ」
ああ……またか……。
凛香に続いてめいにも同じ内容でお説教を受けていると、めいが気になることを口にした。
「――――仁戸に直接二回も美人と言ったそうじゃないですか」
……二回?
優花が直接美人と言った回数は、伊戸に一回、仁戸に一回の合計二回なはずだ。
「えっと……直接は一回しか言ってないですけど……」
「私は二回言われたと仁戸にはっきり言われましたよ?」
「そんなはずは……」
ないと言おうとして、優花はぴたりと止まった。
いや、待てよ……。
初日の伊戸が本当は仁戸だったのか、あるいは、今日の仁戸が本当は伊戸なのだとすれば、優花が美人だと直接言った回数は二回になるか。
……竜二がここに最初に来た時に言ってた双子のトリックの入れ替わりみたいだ。
入れ替わっていたということは、そこには入れ替わる必要性があったというわけで。つまり、皆の物を盗んだ犯人は入れ替わったうちのどちらかである可能性は高くなったのではないだろうか。
伊戸や仁戸を疑いたくない気持ちはあるが、はっきり言って怪しすぎる……。
「ゆうか君。聞いてますか?」
「ああ、はいはい。聞いてます聞いてます」
「『はい』は一回でと教えたはずですが?」
「……すいません」
めいのお説教はその後しばらく続き、ようやく終わった所で、優花は入れ替わりの件をめいに聞いてみることにした。
「入れ替わりですか。まあ、あの二人なら可能でしょうね。髪型と髪留めさえ変えてしまえば、どちらがどちらかは本人達にしか基本的にはわかりません」
「基本的にってことは、何か見分ける方法とかあるんですか?」
「そうですね……ほくろの位置は流石に違うかと、あとは落ち着いて二人と話してみると、実は少し受ける印象が違ったりますね」
「ほくろですか……顔とかのわかりやすいところには無さそうですね。あとは受ける印象ですか……」
受ける印象で言えば、伊戸は淡々としていて真面目な感じ、そして今朝あった伊戸は仁戸だったはずなので、少し柔和な印象ということだろうか。
まあ伊戸と仁戸を見分ける方法はあまり重要ではないのでどうでも良い。重要なのはなんで入れ替わっていたかだ。
伊戸と仁戸がたぶん入れ替わっていたことを改めてめいに説明し、どうして入れ替わっていたのかめいの考えを聞いてみると、めいは少し困った顔になった。
「そうですね……仁戸が……いや、あれは今思えば伊戸ですね。伊戸は二回も美人と言われて恥ずかしくてゆうか君の顔が見れずに接客ができないと言ってましたけれど……」
「ええと、じゃあ俺を避けるために入れ替わってたってことですか?」
「どうなのでしょう……あまり意味は無さそうですが……」
二人で少し悩んだものの、結局答えが出ないまま、優花はめいの部屋を出ると、そこに竜二が一度捕まえて逃げられた黒い猫が居た。
にゃ~お
甘えるような鳴き声を出した猫は、優花の足元にゆっくりと近づいてくる。体をすりすりと擦りつけてきた猫に思わず顔が緩んだ。
「意外に甘えん坊なんだなお前……」
魚を取っていたときや、竜二から逃げていた時は、警戒心が高そうだと思ったが、そんなこともなかったらしい。
今回の盗難事件と、伊戸と仁戸の入れ替わりを考えながら、足元に来た猫の頭や顎を撫でてやっていると、猫は満足したのか一声『にゃあ』と短く鳴いて優花の元から去っていこうと優花に背を見せた。
去っていく猫の背を見送っていた優花の頭に不意に、竜二から逃げる猫の背中が重なり――――優花の脳裏に閃きが訪れた。
「あっ! ……あー……もしかして」
*****
「なんなんですか、灰島先輩! お昼ご飯を食べたばっかりの楓達を呼び止めて!」
相変わらず髪留めが一つ無いせいなのか、いらいらとした様子の楓に、まあ落ち着けと手でジェスチャーをしてから、改めてこの場に居る全員の顔をゆっくりと見回し一言だけ告げる。
「今回の事件の犯人……わかりました」
「っ!」
優花の言葉に、その場の全員に緊張感が走る。
「あっ、あの……優花さん。ほ、本当なんですの? 冗談ではなく?」
「ええ、本当です。凛香さん」
一番信じられない様子でいるのは他でもない優花と一緒に調査をしていた凛香だった。
「新たに証拠が見つかったとかですの?」
「いや、証拠は正直まだなんですけどね……たぶんすぐに証拠が出てくると思います」
「それは一体どういう……」
優花の曖昧な答えに、凛香が更に問いを投げかけようとしたところで、一人だけ優花の部屋に行ってもらっていた竜二が三階から戻ってきた。
「兄貴! ばっちり映ってたっすよ!」
「そうか! よし、それじゃあ証拠もバッチリだな!」




