第八話
人を探すと言っても、そもそも本当に人がいるのか、分からない。
ケイがここに来て3日、人間はおろか、建物なんかの人造物も全く目にしていない。あるのは不自然なほどに広大な自然だけだ。
それと、さっきから何やらそわそわしている、不思議なケモノ。そのウェラの存在自体が、ケイにここは自分がいた世界ではないと思わせていた。
改めてケイはウェラを観察する。
おとぎ話なんかで、動物が人間のようにふるまうのはよくある話だが、そもそも、ウェラの元となるような生き物をケイは知らない。
全体的に見れば、狐か狼に近い姿をしているとも言える。しかし耳は長く、垂れ下がっていて兎のようだ。手のひらにはまんまるの肉球があり、まだ半乾きの毛がその周囲を覆っている。指はあるのかないのか分からないが、長くて太い棒のような黒爪が四本、並んでいる。
見れば見るほど、不思議な生き物だ。
ただ、ここまで言葉を交わしてみて、ウェラが悪いやつじゃないということだけは、よく分かった。
好奇心旺盛で、感情の波が激しく、後先考えずに、とんでもない勢いで突っ込んできたりもするが、それは自分の気持ちに対して素直なだけ。言ってしまえば、無邪気な子供そのものなのだ。
それに、他人を思い遣る優しさも持っている。
「ねぇねえ。ウェラが一緒に探してあげよっか?」
「へ?探す?一緒に?」
「うん!」
嬉しそうに大きく頷くウェラに、ケイは自分が人を探しに行くと話していたことを思い出した。
「それは、助かるけど……いいの?」
確かウェラも群れからはぐれてしまって、迷子なんだと言っていたはず。他人の人探しに付き合っていていいのだろうか?
加えて、ウェラは人に会ったことがないそうだ。お互い、人を探すのに手掛かりの一つもないことになる。探索にどれだけかかるのか、そもそも本当に見つかるのか、見当もつかない。
そんなケイの心配をよそに、ウェラはしっぽをぶん、ぶんと、強く振っている。見るからにご満悦な様子だ。今更やっぱりいいと断われる雰囲気ではない。
「んふふ〜。ケイの仲間に会えるの、楽しみだなぁ〜!」
ウェラは完全に興味本意で、自身のことなど全く考えていないようだった。ついでに、どこをどう、探してゆくのかも考えているようには見えない。
「ひとまず、どこか見晴らしのいいところに行って、周りの様子を確認しよう。それで何か見つかるといいんだけど……」
二人して傍らの崖を見上げる。確かにこの崖の上からなら遠くまで見渡せそうだが、とても登れるようなものではなかった。
「ふぁ、っくしゅん!」
冷たい風がケイの鼻をくすぐり、クシャミが出てしまう。それに驚いたウェラが、小さく跳ね上がった。




