241.次の聖女と護衛
セイラが地球に帰還して、20日が経っていた。
第1エラルダ国の政務棟の会議室では、次の聖女の護衛を決める会議が開かれていた。
出席者は、代表のセタ、騎士団長のロイ、副騎士団長のリント、女性騎士団長のミコト、神官長のゼノマである。
ゼノマはもう70歳だが、死ぬまで現役を目指しているそうだ。
「次の聖女様の護衛は、前回のように、5〜6人で聖女護衛隊をつくろうと思う。推薦するメンバーを聞こうか」
セタはロイとミコトを見る。
「騎士団からは、ハリーとノエルを推薦するよ。引き続きだから、巡礼時の各国とのやりとりも慣れているし……」
ロイがそこまで言ったところで、リントが、「何より、聖女様に手を出す心配がありません」と言い放つ。
ミコトは、聖女に手を出したセタさんに言っちゃったよ! と目を泳がせる。
セタは微笑む。
「リントは手厳しいな。女性騎士団からは?」
「は、はい! 女性騎士団からは、私とララちゃんを推薦します!」
「却下だ!」
ミコトの推薦をリントはすぐさま却下する。
「なんでっ!? 私は異世界人だから、突然この世界に来て不安な聖女様の気持ちが分かると思うし、ララちゃんは養成所出たばっかりの14歳で聖女様と年が近くて友だちになれると思う……」
「お前は国家特別人物で通常護衛付きなんだよ! あと、ララに護衛が務まる訳がない!」
リントは頭を抱えて叫ぶ。
実は、ララはリントの年の離れた妹なのだ。
リントに似て、身のこなしが軽く、伸びしろが大きい。
ミコトのイチオシ団員である。
「統括と女性騎士団長で話を合わせてから来て欲しいなぁ……」
セタはニヤリとリントを見る。
「俺は一期生から選出しろって言いました!」
リントが叫んだその時だった。
会議室のドアが、ドンドンドンと激しくノックされた。
「ん? この場面、前にもあったような……」
ロイは呟きながら立ち上がり、ドアを開ける。
ドアの外側にいたのは、若い男性の神官で、息をハァハァと切らしている。
「せ、聖女様が、し、召喚されて……」
「何っ!? 今回も早いな!」
ゼノマはガタンと立ち上がる。
「そ、それが、大変なんです!」
若い神官の「大変」という言葉に、会議室の面々は、「まさか2人!?」と叫ぶ。
「そ、そうじゃなくて、……聖女様が、聖女様なんです!」
ミコトはロイに抱えられて、教会に滑り込んだ。
教会の祭壇の前に、白い祈祷服を着たハニーブロンドの女性が立っている。
女性はくるりと振り向くと、「やっほー! ミコちゃん!」と手を振った。
「セ、セイラ……!」
ミコトはロイから飛び降りると、その女性、セイラに飛びついた。
「うわ! もう泣いてるよ!」
「だって、だってぇ……」
ロイは、わんわん泣くミコトと冷静なセイラを見て、意味は全く分からなかったが、心から良かったと思っていた。
セイラがいなくなった後のミコトは気丈に振る舞っていたが、あきらかに気落ちしていた。
その姿は、10年前のセタを失ったロイ自身を彷彿とさせたからだ。
教会の入り口に、セタとリントが到着して、セイラを見るなり、驚愕する。
「ミコちゃん、いろいろ説明しなくちゃいけないことがあるんだ」
セイラは、ミコトの肩越しのセタとロイとリントの顔を見る。
セタは全てを察したかのように頷き、神官たちに言った。
「聖女様を先程の会議室へお連れして。あと、保育施設にいるマリーを呼んできてほしい」
セイラの説明は次の通りだった。
10年前、ミコトを間違って体ごと転移させ戻れなくしてしまったことで、地球の神様は、この「派遣聖女」をやめたいと言っていること。
急に聖女の派遣をやめると、エラルダは再び滅亡の危機を迎えてしまう。
それは待ってほしいと、地球の神様をエラルダの神様とセイラで説得し、新しい聖女の選出をしないことと、セイラを最後の「派遣聖女」とすることで同意を得たということ。
「つまり、聖女が召喚されるのは、今回の私で最後ってこと。その間に、魔物対策をとって欲しいんだよね」
セイラの説明に、会議室のセタとロイとリントとゼノマは神妙な面持ちになる。
ミコトとマリーは顔を見合わせる。
「聖女様、10年で対策を取れと……」
「あ、言いそびれたけど、私今回は帰らないから、今20歳設定だから、あと50〜60年くらいかな?」
セタの言葉を遮って、セイラは平然と「帰らない」と言う。
「ほ、本当!? セイラとずっと一緒にいられるの?」
ミコトは笑顔で身を乗り出す。
「ミコト、良かったわね」
マリーは微笑む。
「そっか、良かった……」
ロイも安堵の表情を浮かべる。
「いや、話の論点はそこじゃないでしょ……」
リントは呆れたようにミコトとロイを見る。
セタはふふっと笑う。
「まずは良かったでいいと思う。聖女様、神への説得をありがとうございます」
「腹黒兄貴は理解が早くて助かるよー。50年ならなんとかなるでしょ? 人口も増えたし、騎士団員も冒険者も増えたんだから。あとは、魔物研究者とかいるでしょ? そっちからもやるといいって神様言ってたよ」
セイラの言葉に、セタは「なるほどね」と呟く。
「あっ、第5の国家特別人物が、『魔物研究者』の3人兄弟だった! ね、ロイ」
ミコトは、2年前にあった「国家特別人物懇親会」を思い出し、ロイを見る。
「ん? そうだったかも……?」
ロイは目を逸らして曖昧に答える。
これは全く覚えていないな、とロイ以外の全員が溜息をつく。
「早速、エラルダ全体で対策会議を開くとするか。聖女様、最初の1回は出席していただけますか?」
「もちろんだよ。この件に関しては、聖女は全面協力することが神様たちとの約束だからね! あ、約束といえばだけど……」
セイラはミコトを真っ直ぐ見た。
「大パパと琴ママに、ミコちゃんの事、ちゃんと伝えたよ!」
セイラの明るい笑顔を見て、ミコトはホッとしつつも、表情を曇らせた。
「セイラ、ありがとう……。あの、パパとママ、何か言ってた……?」
「うん、こっちに来るって!」
会議室がしんとなる。
「……え? 来るって、どういうこと……?」
ミコトは震える声でセイラに尋ねる。
「今回は私の転移だけで精一杯だったんだけど、次の転移の準備が出来たら、大パパと琴ママが一緒に転移してくる予定なんだよ。まあ、ミコちゃんみたいに体ごとじゃないけど、2人はそれでいいって、孫に会えるって張り切ってたよー」
え!?
セイラみたいに魂だけで来るってこと?
体は入れ物?
ていうか、この話、パパとママは信じたの?
「ミコト、良かったね!」
ロイはミコトに笑顔を向ける。
「あ、うん、良かった……」
ロイの笑顔を見てミコトは、これは単純に良い話なんだと理解した。
「うん! 良かった! セイラありがとう!」
笑顔のミコトに、セイラは納得したように頷く。
「どういたしまして! そんでさぁ、私の護衛なんだけど……」
ミコトはガタンと席を立った。
「ハイ! 私、ミコトが護衛をやります!」
「10年前と同じだなぁ……」
ロイは懐かしい思いで、呟いたのだった。




