240.セイラの帰還
双子の育児なんて、大変に決まっている。
双子でなくても、育児をやっている人を、心から尊敬する。
ミコトは、本当に、本当に恵まれていた。
ダイとレイの夜のお世話は、夜寝なくても平気なロイがやってくれる。
昼間は、保育所と化した聖女の部屋で、セイラとマリーとシェナと4人の赤ちゃんでワイワイと過ごす。
たくさんいる護衛の騎士団員も、コランを筆頭に赤ちゃんの散歩などを手伝ってくれた。
ミコトは、一人で行動することを禁止されているので、自然にいつも誰かがお手伝いをしてくれる状況だったのだ。
この感謝を、どう伝えたらいいのか。
そんな思いから、ミコトは女性騎士団員に併設予定だった保育施設の出資者になり、施設の建設を早め、自ら施設長に就任し、料理長にはシェナを指名した。
保育施設は、女性騎士団員以外の誰でも利用出来るように変更もかけた。
保育士という資格はこの世界にはないのだが、育児経験のある多数の女性たちが職員に志願してくれて、マニュアルも育児経験者の意見を元に作成された。
働きたい女性はたくさんいたのだ。
女性騎士養成所も年々志願者が増え、一期生が卒所した年に、女性騎士団も満を持してスタートした。
とはいえ、初年度の団員は10人だったので、騎士団の男性たちの勤務に混ぜてもらう形をとった。
男性は、女性がいると、張り切るらしい。
思わぬ士気上昇効果があったとかなかったとか……。
ダイとレイの髪色は、ミコトとロイの希望通りにはならず、2人とも濃い茶色になった。
瞳の色も、2人とも茶色で、陽に当たると、髪も瞳も、キラキラとした琥珀色に見える。
ただ、2人の髪が伸びた頃には、ミコトもロイも髪色なんてどうでもよくなっていた。
ダイは、アリアンらしく元気にスクスクと成長し、レイは多少体は弱いが、ミコトの治療を受けながら、普通の生活を送れている。
そう、親からすれば、元気に育っているのなら、外見など、二の次なのだ。
こんな風に、仕事に、育児に、忙しくも幸せに過ごしていると、月日はあっという間に過ぎていくものらしい。
ダイとレイが4歳になった9月。
そう、ミコトとセイラがエラルダに転移してから、10年の月日が経った9月。
第1エラルダ国の教会では、聖女帰還の儀式が行われていたーー。
聖女帰還の儀式は、セイラの意向でかなり少人数で行われることになった。
出席者は、ミコトとロイとダイとレイ、代表のセタ、マリーとリントとルリ、神官長のゼノマだけだ。
「ミコちゃん、元気でね。ミコちゃんが幸せに暮らしていることは、この私が責任を持って、大パパと琴ママに伝えるから、何も心配しなくていいからね」
20歳になったセイラはそう言うと、同じく20歳のミコトをギュッと抱きしめる。
本来なら、「派遣聖女」は記憶を消されてしまうのだが、神様との交渉により、セイラは記憶を持ったまま、地球に帰還する事になったのだ。
ただ、手紙などのモノはやはり持っていけないそうで、セイラの言葉だけで、ミコトの無事をミコトの両親に説明することになる……。
こんなこと、信じてもらえなくて、セイラが辛い思いをするのでは……とミコトは心配だが、セイラは全く気にした様子はない。
「うぐ、セイラ、元気で、幸せに……」
「もう泣いてるじゃん!」
ミコトは悲しくて涙が止まらないのに、セイラは、アハハと笑う。
「セイラ、元気でね。私、セイラが聖女で本当に良かった……」
ルリと手を繋いだマリーは、瞳を潤ませて微笑む。
「私もマリーが侍女で良かった! いっぱいありがとうね!」
セイラは笑顔でマリーに向かって親指を立てる。
「セイラちゃん、どっかいっちゃうの?」
ルリは首を傾げている。
「セイラちゃん、レイとダイも一緒にいくー」
ロイの左腕に抱っこされたレイが、セイラに手を伸ばす。
右腕に抱っこされているダイは、状況を理解しておらず、あくびをして眠そうにしている。
セイラは、ルリとレイに微笑んだ。
「お母さんの言うことをよく聞いて、元気でね!」
セタとロイが口を開こうとすると、セイラは右手をピシッと前に出した。
「アンタと腹黒兄貴と話すことはない! ミコちゃんをよろしく!」
「承知しました。聖女様もお元気で……」
セタは一礼をして微笑む。
「ミコトは任せて。聖女も伝言をよろしく……」
ロイも微笑む。
セイラは頷くと、リントを見てニヤリとする。
「2人目頑張ってね!」
「最後の言葉がそれ? まぁ、聖女も元気でな」
リントは苦笑する。
「聖女様、そろそろかと……」
ゼノマは、一歩前に出る。
「そだね。おっさんたちにも長生きしてって言っといてね」
セイラはゼノマにそう言うと、ミコトから離れる。
いやだ。
行かないで。
ミコトは離れていくセイラに、手を伸ばす。
でも、セイラは待ってくれない。
祭壇の前に向かって歩いていくセイラの姿が、涙で霞んでいる。
セイラは祭壇の前で、くるりと向きを変えて、真っ直ぐミコトを見る。
その顔は、驚くほど笑顔で、泣いているミコトとは対照的で、そして、セイラは何かを話していた。
何を言っているのか、分からなかった。
でも、それをきく前に、セイラの姿はすうっと消えた。
「……セイラ……! セイラぁ……」
ミコトはその場に泣き崩れた。
別れの覚悟なんて、全然出来ていなかった。
もしかしたら、セイラはミコトと同じで、帰れないのかもしれない、なんてことまで思っていた。
そんなこと、ないのに。
そんなこと、あるはずなかったのに。
「ママ……」
いつの間にか抱っこから下りていたレイが、ミコトの隣に立っている。
顔を上げると、眠ってしまったダイと心配そうなロイが視界に入る。
マリーもリントもセタも表情を曇らせている。
大切な、ミコトの家族。
そして、大切なミコトの仲間。
ミコトはレイを抱きしめて、立ち上がった。
「みんな、セイラのこと、ありがとう」
ミコトは笑顔でそう言っていた。
最後まで泣かなかったセイラ。
ちゃんと強く生きていこう、とミコトは思うのだった。




