239.ミコトの出産
「2人目産まれました! 最初が女の子、次は男の子です!」
騎士団救護班の医者であるシーマが聖女の部屋で大声を上げると同時に、男の子の赤ちゃんの大きな産声が響き渡った。
聖女の部屋にいた、セイラとロイとマリーと侍女2人と産婆さんが「おお!」と歓声を上げる。
「ミコトさん、おめでとうございます! 2人目は元気な男の子です!」
シーマの声に、ミコトは弱々しく笑う。
「女の子は……?」
先に産まれた女の子の産声が聞こえなかったのだ。
「大丈夫だよ、ミコト。ほら、少し泣いたから」
ロイは産湯に入れて綺麗になった赤ちゃんをミコトの隣に寝かせる。
「少し……」
「少ししか泣かない赤ちゃんもいるのよ。よく頑張ったわね、ミコト」
マリーはミコトを安心させるように言う。
「……うん。私、今までで一番頑張ったかも……」
「ミコちゃん、感動してるとこ悪いんだけど、あの赤ちゃん、泣き声めちゃくちゃうるさいよ!」
セイラは、ミコトの額の汗を拭きつつ、産湯に入れられている赤ちゃんを指差す。
「団長! 産湯を手伝ってください! 赤ちゃんの力が異常に強いです!」
シーマは叫び、産湯に入れていた産婆さんと侍女たちは、きゃあきゃあ言っている。
ロイは慌てて駆け寄り、「うおっ! さっきと全然違う!?」と驚いている。
ミコトはこれだけで察してしまった。
とんでもない力の男の子を産んでしまったということを。
「セイラ、力を抑えるの、よろしく……」
ミコトは、汗を拭いているセイラの腕を掴みながら言う。
「え、やだよ! なんかあの赤ちゃん、アイツと同じ匂いが……」
「ほら、この女の子やルリちゃんが危ないかも……」
ミコトの言葉に、セイラは「うっ」と言う。
セイラはルリを溺愛しているし、ミコトの娘も溺愛するつもりでいるのだ。
セイラは渋々、産湯の方へ行く。
ロイが赤ちゃんを支え、産婆さんが赤ちゃんの体を洗っているが、お湯が飛び散りまくり半分以上減っているし、侍女2人は追加のお湯を慌てて沸かしているし、シーマはビショビショになっている。
セイラは赤ちゃんには全く詳しくないが、コレが異常である、ということは分かる。
「はーい、聖女の診察でーす」
セイラは棒読みで言うと、赤ちゃんの額をそっと触る。
「おお? 力が弱まった……!?」
ロイは驚いてセイラを見る。
「言っとくけど、封印じゃないからね! どれぐらいもつか分かんないよ!」
「あ、じゃあ切れたらまたよろしく……」
「夫婦揃ってなんなのさ! 聖女をいいように使わないでよね!」
セイラはプイと横を向いて、ミコトの方へ戻っていく。
「名前は? 赤ちゃんの顔を見てから決める人もいるけど、もう決まっていたりするの?」
マリーはセイラの膨れっ面を見ながらクスクス笑い、ミコトに尋ねる。
「うん。この子がレイで、男の子がダイ……」
「あら、うちの子と同じ理由?」
「理由は、命を親から受け継いだからってことかな……。ダイはミコトのお父さんの名前なんだよ」
マリーの質問に、ダイを抱っこしたロイが答える。
「ああ、大パパ!」
セイラはハッとしたように言う。
「うん、ママの名前は琴子で私の名前に入ってるから、今回はパパの名前からもらう事にしたんだ」
ミコトはエヘヘと笑う。
ロイは微笑んで、ダイをレイの反対側のミコトの隣に寝かせた。
「ミコト、本当に、本当にありがとう……!」
ロイは青い瞳に涙を浮かべている。
「うん、あの、でもね……一つ、言ってもいい?」
ミコトは手を伸ばして、ロイの頬を触る。
「うん、何?」
「赤ちゃん、2人とも髪の毛なくて、髪色が分かんなくてモヤモヤするの! そこが一番気になってたのに!」
ミコトの叫びに、ロイはガクッと肩を落とす。
「あー、ミコちゃん、金髪がいいってずっと言ってたもんね。でも、よく見るとうっすら生えてるよ。何色かは分かんないけど」
セイラはダイとレイをじぃっと見る。
「俺は黒髪がいいなぁ。特にレイは……」
「ロイ、子どもに私の要素は一切要らないの」
ミコトは真顔でロイの言葉を遮る。
イケメンには、この切実な思いは分かるまい。
「あの、団長、産婆さんから母乳の指導等ありますので……」
シーマはびしょ濡れの服をタオルで拭きながらロイに言う。
「あ、じゃあ、俺はセタ兄に無事産まれたことを知らせてきます」
「ロイ、リントも気にしていたからお願いしてもいいかしら?」
ロイはマリーに「もちろん」と言うと、聖女の部屋を出て行った。
「腹黒兄貴とシェナちゃんの赤ちゃんは女の子だったね。ダイはそっちと結婚させるか……」
セイラは一人頷いている。
シェナは先月、元気な女の子を出産している。
「あら、ルリと結婚させるんじゃなかったの?」
マリーはセイラに微笑む。
ちなみにルリはマリーの部屋でお昼寝中だ。
「ダイは、かんっぜんに、アイツと同じ匂いがするんだよね! もうちょっとミコちゃんの匂いが入るかと思ったのに、アリアンの遺伝子強すぎるんだよ!」
セイラの言葉に、ミコトは笑った。
「匂いって、聖女っぽくない……」
「これは、聖女パワーじゃなくて、私がもともと持ってる能力だからね!」
ミコトは「えっ!?」と声を上げる。
セイラは、ミコトの反応にはお構いなしに、レイの首を支えるように、そっと抱っこをする。
ルリのお世話をよくやっているので、赤ちゃんの抱っこも慣れたものだ。
「レイは、ミコちゃんの匂いなんだよー。溺愛決定だ!」
愛おしそうにレイに微笑むセイラを見て、もしかしたら、セイラは特殊能力者(匂いで人を見分ける?)かもしれない……とミコトは思うのであった。




