237.誓いの言葉
ミコトとロイの自宅で行われている「ガーデンウェディング」は、デザートのケーキとフルーツを出して、終盤に差し掛かっていた。
「みんな、ちゅうもーく! 今から、『誓いの言葉』をやりまーす!」
セイラの大声に、全員が家側に設置されている、簡易的な祭壇……とはとても言えない机に注目する。
机の奥にセイラが立ち、前にロイとミコトが立っている。
セイラは、コホンと咳払いをする。
「えーと、新郎のロイさん、あなたはミコトさんを妻とし、健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、敬い、慰め、助け、その命ある限り、真心を尽くすことを、この聖女である私の前に誓いますか?」
ロイが、「誓います」と言おうとすると、セイラは「まだある!」と手を前に出す。
「ミコトさんを悲しませたり、泣かせたり、放っておいたり、嫌だって言ってるのにやめなかったり、その他もろもろ悪行をしでかしたら、即座に聖女が処刑することに同意をした上で、さっきの事を誓いますか!?」
「ちょっと、セイラ……」
ミコトは小声で呟く。
ガーデンウェディング会場にいる全員が、「この誓いの言葉はヤバイ……!」と顔を見合わせる。
リントにいたっては、心臓を押さえている。
「はい。誓います」
ロイは、全員の心配をよそに、あっさりと宣言する。
セイラはニヤリと笑うと、ミコトを見る。
「ミコトさん、あなたはロイさんを夫とし、……愛する事を誓いますか?」
「短っ!?」
ミコトは思わず突っ込む。
「長いセリフが面倒になったのね」
マリーは小声で呟く。
リントは心臓を押さえながら、テーブルに突っ伏し、キダンは手を口に当てて、必死に笑いを堪えている。
「ミコトさん、誓いますか?」
セイラは、真顔でもう一度ミコトに問いかける。
「は、はい! 誓います!」
ミコトは慌てて答える。
「よろしい。では指輪の交換をします。お互いの左手薬指にはめて下さい」
セイラは机の上に、指輪の入った箱を置く。
出席者の面々が「指輪?」とざわつく。
「えーと、私のいた世界で、結婚式で永遠の愛を誓うアイテムです!」
セイラは結婚指輪をアイテム呼ばわりして、簡単に説明する。
ロイはミコトの左手をとり、小さい方の指輪を薬指にはめる。
飾り気のない銀色の指輪が、ミコトの薬指で陽の光を反射して光る。
ミコトはすでに感動して泣きそうになっていたが、ロイにも指輪をはめなくてはいけない。
ぐっと堪えて、震える手で、ロイの大きな左手薬指に指輪をモタモタとはめる。
な、なんか上手くいかない! と焦るミコトに、ロイは「大丈夫だよ」と優しく笑いかける。
なんとか、指輪の交換を終えたのを見て、セイラは再びコホンと咳払いをする。
「では、誓いのキスをして下さい! 軽いやつね!」
「この世界の結婚式はキスはしないんだよ!?」
ミコトは赤面してセイラに言う。
セイラだって、知っているはずだ。
「指輪交換したらキスもするんだよ! ほら!」
セイラはミコトの肩をバンと叩く。
「で、でも……」
ミコトはロイをチラッと見る。
ロイはふっと微笑むと、ミコトの肩に手を置き、顔を近づける。
ミコトは、するんだ! と思い、目を閉じる。
ミコトの唇に、ロイの唇が軽く触れ、離れる。
ミコトは、キスを躊躇していたくせに、軽すぎる、と思ってしまい、恥ずかしくなり下を向く。
「ここに、二人の結婚が、成立してたけど、さらに成立しました! みんな、拍手ー!」
セイラの宣言に、出席者全員の温かい拍手が鳴り響く。
ミコトは、すごく嬉しい、と思っていた。
1年前の結婚式の最中には、嬉しいなんて思わなかった。
結婚式でお祝いされることは、こんなに素敵なことだったのだ。
ミコトが呆けていると、ロイは一歩前に出た。
「みなさん、今日は私たちの結婚式に出席していただきありがとうございます。これからいっそう2人で頑張っていく所存ですが、ご存知の通り2人とも未熟なので、みなさんはぜひ私たちを助けてください。よろしくお願いします!」
そう言うと、ロイはペコリと頭を下げた。
ミコトもハッとなり、頭を下げる。
「何それ! 今日のおもてなしはそういうこと?」
キダンはアハハと笑う。
「はい。そういうことです」
ロイは頭を上げて、笑顔で答える。
出席者の殆どが「ロイらしい」とクスクス笑っている。
「みんな、まだ解散しないでね! 聖女から重大発表があります!」
セイラは祭壇代わりの机に手をつき、大声を上げる。
「重大発表?」
そんな段取りがあっただろうか? とミコトは首を傾げる。
セイラはミコトの横に、ぴょんと並んだ。
「なんと、ミコちゃんのお腹に、赤ちゃんが出来ました! しかも、2人います! 双子です!」
セイラの「重大発表」に、新居の庭が、しんと静まり返り、その後、うわぁっと湧き上がる。
「ミコト! ミコトやったぁ!」
ロイはミコトをガバッと抱きしめる。
「こんな大勢の前で発表しちゃったよ……」
リントは頭を抱える。
「ミコト、良かったわね……」
マリーは涙ぐむ。
「うわー、すっごいの産まれそう! しかも双子!」
キダンは、いつもの様に、アハハと笑う。
「ミコちゃん! また夢の世界に飛びかけてるよ!」
セイラは、ミコトの耳元で大きな声を出す。
「はっ! えっと、赤ちゃん、出来た……?」
「そうだよ! 俺とミコトの赤ちゃん! 2人も!」
ロイは嬉しくなり、ミコトを高く持ち上げた。
「ロイ! 持ち上げたらダメだ!」
「ロイさん! 落としたらどうするんですか!」
セタとリントが、慌ててロイとミコトの元に駆け寄る。
「あ、そうか。でも、落とさないけど……」
『ダメ!』
セタとリントだけでなく、ほぼ全員に「ダメ」と言われ、ロイはそっとミコトを下ろす。
「赤ちゃん、出来たんだ……。良かったぁ……」
ミコトの瞳から、大粒の涙がポロポロと流れる。
「ミコちゃん、良かったね……」
セイラは、泣きじゃくるミコトの頭を撫で、ロイは、ハンカチでミコトの涙を拭う。
こうして「ガーデンウェディング」は、ミコト個人的には、大成功で幕を下ろしたのだった。




