236.ガーデンウェディング③
ミコトとロイの新居の庭で、「ガーデンウェディング」が行われていた。
テーブル席の島は三つあり、一つは第1エラルダ国席、もう一つはロイの親戚席、最後の一つは騎士団員席である。
だが、騎士団員席の面々は、正直に言って誰も落ち着いてはいなかった。
騎士団長とその奥様に料理を運ばせて、落ち着いていられるだろうか。
そもそも、ロイから軽く「出席してね」と言われ、全員、ガーデンウェディングの護衛任務だと思っていたくらいなのだ。
「団長、今からでも護衛任務をさせていただきたいのですが……」
トレイを何段も重ねて持つロイに、コランは小さく手を挙げて提案する。
「え!? 護衛なら俺がするからいいよ! みんなは座って食べててよ!」
「何で主役が、給仕と護衛をやるんですか!?」
コランは叫んで立ち上がると、ミコトから料理の乗った皿を奪い並べだす。
「この席には、トレイごと置いていって下さい! こちらでやるので……ていうか、これ、お好み焼き……?」
コランはお皿の料理を凝視する。
「うん! みんなでワイワイ食べるなら、これかなって!」
ミコトは笑顔で答える。
「ミコトが結婚式の常識を歪めているという事がよく分かりました……」
コランは溜息をつく。
この世界の「お好み焼き」は、余り物を粉で固めて焼く料理らしい。
しかし、今日のお好み焼きは、ミコトとセイラ監修の日本式である。
おいしさに驚くがよい、とミコトはほくそ笑む。
「実は今日招待したメンバーにはお願いしたい事があってさ、そんなにかしこまるんだったら、もう言おうかな」
ロイは笑顔で騎士団員を見回す。
全員の表情があからさまに曇る。
ちなみに招待されたメンバーは、中隊長のコラン、小隊長のハリー、9月に見習い騎士から騎士になったノエル、怪我から復帰したソルとニア、救護班長のシーマである。
「この結婚式終了後から、シーマさんを除くこのメンバーには、聖女護衛隊に入ってもらいます!」
ロイの堂々とした宣言に、「嫌な予感が的中した!」とコランは叫ぶ。
「実は、聖女の護衛が手薄すぎるって言われていてさ、リントもミコトも忙しいから、聖女護衛隊を作ることになったんだよ。護衛隊長はコランさんで中隊長と兼任です!」
「団長は私を殺す気ですかっ!?」
リントと同じセリフだなぁ、とロイは感心する。
「コランさん、給金はこれくらいなんですよ。お孫さんにいいもの買ってあげられますよ」
他の団員には見えないように、ロイは指でコランに給金を示す。
「なんっ……! し、承知しました……」
孫に弱い! とロイとミコトはほっこりする。
「あ、ちなみにハリーも小隊長と副護衛隊長の兼任で、ソルとニアも通常の小隊に所属したままだから兼任で、ノエルは事務と兼任になります!」
平然と「兼任」を言い渡すロイを見て、騎士団員の全員がお皿をまわす手を止める。
しかし、その中で、ひときわ元気な団員が……
「聖女様の護衛なんて光栄です! 誠心誠意勤めたいと思います!」
ミコトより少し背が高くなったノエルは、ビシッと背筋を伸ばして、声高に言う。
「うん。ノエル、期待してる!」
「はい!」
ロイにキラキラした眼差しで答えるノエルに、コランとハリーとソルとニアは「うっ!」と唸る。
忘れかけていた初心を思い出したソルとニアは、ノエルと同じ様に背筋を伸ばし「誠心誠意お勤め致します!」と言い、初心なんて近年思い出すこともなかったハリーも「聖女様の護衛、承りました!」と宣言した。
「団長、このメンバーの選定理由を伺っても?」
初心を全く思い出せなかったコランは、ロイに尋ねる。
「聖女様のお気に入り……」
「……え?」
「あ、いや、聖女様に気に入られるなんてすごいことなんだよ! 俺もセタ兄も嫌われてるからね!」
ロイは目を逸らしながら言う。
と、その時、ずっと黙っていたシーマが「うまい!」と声を上げた。
「ミコトさん、このお好み焼き、とても美味しいです!」
「そ、そうなんです! セイラと私で監修したんです! 生地には山芋を混ぜてですね……」
監修とは言えない、味に口を出しただけのミコトは自慢げにシーマに説明する。
「ほら、みんなも冷めるから食べて!」
ロイに言われて、団員たちは、席に座り直し、お好み焼きをもぐもぐと口にする。
「……! ほんとに美味い!」
「これが、お好み焼き……?」
「ふわふわで、硬くない!」
口々にお好み焼きを賞賛する言葉に、ミコトは大満足である。
「あの、団長とミコトさんはお食事を食べられていますか?」
シーマは、給仕ばかりしているロイとミコトを心配しているようだ。
「はい。台所でササっとつまみ食いしてます!」
ミコトは元気に答える。
「それなら良かったです」
「いや、シーマ! 全然良くないだろ!」
コランはシーマにツッコミを入れる。
「俺たち、まだまだ運ぶものあるんで、行きますね。聖女護衛隊の件、よろしくお願いします!」
ロイは笑顔でそう言うと、ミコトと一緒に家の方へ歩き出す。
仲良く話しながら歩くロイとミコトを、シーマは笑顔で見送り、コランに向き直った。
「コランさん、このガーデンウェディングは、ミコトさんが楽しければそれで良いのですよ」
「でも、これじゃあ、団長もミコトも使用人の様で……」
ハリーとソルとニアとノエルも顔を見合わせて頷く。
シーマは微笑んだ。
「ミコトさんは、私たちにおもてなしをしたいのです。みんなが笑ってくれて、『楽しかった、ありがとう』と言えば、1年前の辛い思い出ばかりの結婚式の記憶が多少は薄れるというものですよ」
シーマの言葉に、騎士団員席の全員がハッとなる。
奇しくも、この席にいるメンバーは、全員当事者だ。
「……俺、今日は、団長とミコトに謝ろうと思ってたんですけど、やめます。『楽しかった、ありがとう』にします!」
ソルはそう言うと、残りのお好み焼きを口に入れた。
「僕もそうします! 実際、今日はとても美味しくて楽しいです!」
ノエルもお好み焼きをパクパクと食べる。
コランとハリーとニアも、頷いて料理を食べだした。
「それにしても、そのためだけにこの家と庭ですか……。団長は本当に重い方ですね……」
シーマは庭と家を見回して、思わず呟いてしまっていた。




