235.ガーデンウェディング②
ミコトとロイの「ガーデンウェディング」が開催されている2人の新居の庭で、今日のこの日のために第4エラルダからやってきたリタとオルバは、いろいろなことに目を丸くしていた。
「これのどこがささやかなのよ! ロイがミコトちゃんにあげた家ってこんなに大きかったのね!」
リタは周りを見回して、目の前に座っているセタに言う。
「この家は2軒目……いや、2軒購入して1軒にしてるから、実質購入したのは3軒になるのかな……」
セタは、果実水を一口飲み、リタに答える。
「ちょっと意味が分からないわ……」
溜息をつくリタを、隣の席のオルバは「まあまあ」となだめる。
「でもセタ君は、あっちの席じゃなくて大丈夫なのか?」
オルバは目線を、聖女と前代表のアレンがいるテーブル席に向ける。
「俺は聖女様に嫌われているので、側にいない方がいいんですよ」
セタは笑顔で答えたが、オルバとリタは「嫌われ……」と青ざめている。
「セタとロイ君は聖女様にものすごく嫌われてるのよ。でも、聖女様はとても素敵な方なの」
セタの隣に座っているシェナは、料理をパクパクと食べながらリタとオルバに説明する。
シェナのその食べる量に、リタとオルバは呆然とする。
「ああ、食べづわりみたいでね。シェナ、そんなに食べると、昔みたいに太ってしまうよ?」
セタの言葉に、シェナはぐっと唐揚げを詰まらせた。
「ほら! そんな風だから聖女様に嫌われるのよ! 昔も太ってるって平気で言ってきて、ロイ君のおもらしの片付けばかりやらせて!」
そう、シェナは10歳くらいまでちょっとふくよかな体型だったのだ。
セタはその事を平気で指摘して、走り回るロイのお世話は無理と判断し、セタと遊びたくて訪れていただけのシェナに後片付けをやらせていたのだ。
シェナの叫びに、セタは「情緒不安定かな」と真面目な顔をしている。
リタは、ハァーと溜息をついた。
「あんたたちのことは、なんかもういいわ。それより……」
リタは、隣の席のミレイを見る。
「ミレイちゃん、ロイから話を聞いて、ずっと会いたかったのよ!」
「あ、はい。えーと……」
リタの勢いに、ミレイは体をそらせる。
「私はリタよ。ミレイちゃんのお兄ちゃんのお兄ちゃんの母親なの。だから、ミレイちゃんのお母さんでもあるのよ!」
実はこの言い回しは、ミコトの時に言ったことと同じである。
ミコトは感動して号泣していたが、ミレイは「え?」と真顔になる。
「リタ、それは無理がある……」
「あら、ミコトちゃんは『お母さん!』って、感動して泣いてくれたわよ」
オルバとリタの会話を聞いて、ミレイとその隣に座っていたアサキは「ああ」と納得する。
「ミコトさんは、そうよね」
「お姉ちゃんらしいですね」
リタは、手で口元を押さえて、震えた。
「声が、声がレイちゃんにそっくり……! 間違いなくレイちゃんの娘だわ!」
「また、声……!?」
ミレイは愕然とする。
セタとシェナは「あっ!」と言った。
「本当だ。レイさんの声だ……!」
「レイさんの声によく似ているわ!」
ミレイは「声だけ……」と呟き、肩を落とす。
アサキは苦笑する。
「声だけではないですよ! 私、レイ様とミレイさんの共通点をすでに5つ見つけました!」
声を上げたのは、シェナの隣にすわっている、ウミノの隣のタリスの隣のホシナだった。
ちなみに、ウミノの向かい側はネルで、その隣はソマイが座っている。
「私、ホシナと言います! レイ様の大ファンでした! ミコトさんに賄賂を渡してまでミレイさんと同じテーブルにしていただいたんですが、少し遠くて席順を不服に思っています!」
ホシナは立ち上がってまくし立てる。
「ホシナさん、俺、ロイ先輩からホシナさんをミレイさんに近づけないように言われてるんですよ。なんで、立ち上がるのもやめてもらっていいすか?」
「な、なんですとっ!?」
タリスはそう言うと、お構いなしにホシナの両肩に手を置き、強制的にホシナを座らせた。
「あ、それで、この席順なんだ……。何で私たちココなのかなぁって思ってた……」
ウミノは納得したように呟く。
「あれ、じゃあソマイ……さんもホシナさんを止める役割でこの席なんですか?」
ネルは隣のソマイを見る。
ネルもウミノも、ソマイは第2の人だから、空いているミレイとアサキの前でも良かったのでは? と思っていたのである。
「いえ、私は特に何も聞いてませんが……、あ! 私とタリスさんが仲良しだからですかね」
笑顔で「仲良し」と言うソマイに、タリスは「仲良し……?」と首を傾げる。
場が静かになりかけたところで、トレイを何段も持ったロイとお皿を両手に持ったミコトがテーブルに現れた。
「ミコトさん! 賄賂を渡したのにミレイさんと席が遠いですよ!」
すかさずホシナが叫ぶ。
賄賂って何だよ……と全員がミコトを見る。
「あっ! そうでした!」
ミコトは思い出したように言うと、持っていたお皿をホシナとタリスの前に置いて、ポケットから1枚の紙を取り出した。
「これ、ミレイさんにあげようと思って、ホシナさんと交渉したんですよ。ミレイさんに回してもらっていいですか?」
ミコトから紙を受け取ったウミノはハッとする。
「これ、ホシナさん秘蔵のレイ様の絵姿!」
ウミノの言葉に、シェナとセタは紙を覗き込む。
「レイさん、若いわ!」
「本当だ。レイさんの絵姿なんて、ファンが抱え込んでいて出てこないのに……」
シェナとセタが受け取った絵姿を、オルバとリタが受け取る。
「これ、ミコトちゃんにあげた衣装の絵姿ね! レイちゃん、かわいいわ!」
「ああ、ロイ君に似ていますね……」
リタはミレイに絵姿を渡す。
「これが、ママ……」
絵姿を受け取ったミレイは呟く。
「とても可愛らしい方ですね。良かったですね、ミレイさん」
アサキはミレイに微笑む。
「うん……、ありがとう、ミコトさん」
ミレイのお礼にミコトが答える前に、ホシナが再び叫んだ。
「それでしたら、言ってくだされば、レイ様の娘のミレイさんにだったら直接手渡しで差し上げましたのに!」
「いや、息子の俺にもくれなかったじゃないですか」
すかさずロイがホシナに言う。
「直接手渡しってのが気持ち悪いんすよ」
タリスは呆れたように言う。
「気持ち……悪い……!?」
相変わらずのタリスの毒舌に、ホシナはガックリとうなだれる。
「セタさんの言うとおり、絵姿を取り扱っているお店に行っても、レイさんの絵姿はなかったんですよ。何でも、熱狂的なファンが今でもたくさんいて、抱え込んでいて、出回らないそうで……」
ミコトはホシナを完全に無視して、ロイのトレイのお皿をテーブルに置きながら話す。
「あの、それで、リタさん、この絵の衣装なんですけど、ミレイさんに渡してもいいですか?」
リタの前にお皿を置いたところで、ミコトは遠慮がちにリタにきく。
「ロイとミコトちゃんがいいのなら、もちろんいいわよ。そうね、ミレイちゃんが持っているのが一番いいかもね」
リタはミレイを見て微笑む。
「衣装……?」
「実はレイさんのその青いワンピース、私、太っちゃって着ることが出来ないんです。良かったら、もらって欲しいんですけど……」
元々、胸とウエストが苦しかったのだ。
この絵姿からも、ミレイの方が断然似合うだろう。
「いいですね、ミレイさんが着ているところをぜひ見たいです」
アサキは微笑む。
「あ、じゃあ、いただきます。ありがとう……」
「私も! 私も見たいです!」
またもやミレイのお礼に合わせるようにホシナが立ち上がって叫ぶ。
「だから、座ってて下さいって!」
タリスは再びホシナを座らせる。
「ミレイ、あのオジサンに近づいたらダメだからね」
ロイは、コッソリでもなく、ミレイに言う。
「お兄ちゃん……。うん、分かった」
ミレイはロイを見て、幸せそうに微笑んだ。




