231.リオの進言
「ロイさん、これを……」
アサキとミレイの新居の寝室で、リオはロイに書類を渡すと、鏡台の椅子に腰掛けた。
ロイとソマイは、アサキに勧められて、ベッドに腰掛ける。
書類は3枚あり、人名と役職がズラッと記されている。
「何のリストですか?」
ロイは3枚とも目を通し、リオを見る。
「ミコトさんの能力に、悪い意味で興味を持ちそうな人物のリストです」
「なっ……!?」
ロイは驚愕の声を上げる。
キダンが調査して提出してきたリストより、断然多い。
「きっと第1でも独自に調査はしていると思いますが、私も政治の中枢におりましたので、記憶を頼りにリスト化いたしました」
「こんなにも……?」
アサキはリストを覗き込みながら呟く。
「特に第3と第4は中々腹黒い連中が多いのですよ。私には監視がついていますので、このぐらいしか出来ませんが……」
リオはそう言うと、うつむいた。
「リオさん、ありがとうございます。第1に戻りましたら、早急に対応します」
ロイは頭を下げる。
「リオさん、この件、私とソマイさんにも関係あるのですか?」
アサキは書類から顔を上げてリオに尋ねる。
ソマイも頷いている。
「ああ。ミレイはミコトさんの治療を受けて完治している。大々的に治療を行ったので、この事は各国に知れ渡っている。ミレイは病気で世間から隔離されていたから、年齢よりも、まあ、よく言えば純粋、悪く言えば世間知らずだ。アサキはリストの人物を覚えて、ミレイの交友関係を監視して欲しい」
リオの言葉に、アサキは真剣な表情で「承知しました」と言う。
「ソマイには第2の全体的な監視をお願いしたい。第2は第1と第4の間に位置している。第4から森や街道を通る不審人物に注意を払って欲しい」
ソマイも「承知しました」と頷く。
「あの、リオさん、何故ここまで……?」
ロイはリオを真っ直ぐ見つめる。
リオもロイを見て、ふっと笑う。
「ミコトさんは娘の命の恩人……ということがもちろん一番の理由ですが……。ロイさん、機密蔵書の話と古代魔法の話を覚えていますか?」
「え? あ、はい。古代魔法の実現は無理なんですよね?」
ロイの言葉に、リオも頷く。
「では、同じ機密蔵書を閲覧できる国家特別人物だった第3のサンドは、何故諦めずに古代魔法を研究していたのか……という疑問が出てくると思います」
「え、あ! そうですね。すみません、ソイツのことすっかり忘れていました……」
ロイはリオから目を逸らす。
リオはふふっと笑う。
「まあ、忘れたくもなる人物ですよね。以前この話をした時はミコトさんもミレイもいましたので無理という話だけにしましたが、機密蔵書を要約すると、古代魔法適性者は確かに昔、存在したのですよ」
リオの言葉に、アサキは身を乗り出した。
「や、やっぱりそうなんですよね? 火をほんの少し揺らせたり、水の温度をほんの少し変えたり……」
そんな話あったな、とロイは何とか思い出す。
「アサキの言う通りです。実は昔はその古代魔法適性者がたくさんいまして、当時は単に『適性者』と呼ばれていました。自然の力に適性がある者という意味です。一人一人の能力は微弱で特に争いの元にもなりませんでした。ところが300年前、神は、そのほんの少しだけ出来る適性者全員の能力を奪い、集めて凝縮させて特定の5人の人物に与えたのです」
『ええっ!?』
ロイとアサキとソマイの声が同時に寝室に響く。
リオは「静かに!」と指を口に当てる動作をする。
「まあ、魔物を討伐する為だったのでしょう。でも結果は散々でしたが……」
目を伏せるリオに、ロイは「あの……」と言う。
「リオさんの、その考えは、憶測ですか? それとも確信ですか?」
ロイは神様と会っているのだ。
そんな事は、一言も言っていなかった。
まあ、神様も信用している訳ではないが……。
「確信ですよ。奪われたから、この地に適性者が存在しないんです。でも、誰しも、もしかしたら残っているかも……なんて思ってしまいますよね。サンドはどうしようもない人物でしたが、そんな考えから、適性者を判別する道具を作り出しました。そして、それはこの地の者ではないミコトさんに反応しました」
リオの話に、ロイとアサキとソマイは、息を呑む。
「適性者の力は先程も言った通りとても弱いものなので、ここまではまだいいのですが、ミコトさんは治癒能力を再現してしまいました。つまり、ロイさんの力があれば、ミコトさんは5人が使用した古代魔法も再現し得るのです。このことに気付いている者がどれくらいいるのかが……」
「あの、つまり、俺の力のせいで、ミコトが古代魔法を使えてしまうという事ですか?」
ロイはリオに詰め寄る。
リオは神妙な面持ちで頷いた。
「その可能性は高いと思います。ですが、どんな力も、使う者次第なんです。ミコトさんはまだ16歳ということもあり、とても純粋です。私の事も恨んでいる様子がありません。これは、第1の方々がミコトさんを大切に扱ってきたからだと思います。どうかそのまま、悪や邪心にさらさずに、生活して下さい。そして、そのリストのような悪になりそうな者たちは、周りの者が排除すれば良いのです。まあ、セタさんもそのつもりでミコトさんを国家特別人物にしたのでしょう」
ロイはベッドから立ち上がった。
「セタ兄は機密蔵書を読んでいてその事に気付いていた……!?」
「そうでしょうね。セタさんは昔から何でも一人でやろうとする方でしたが、今も変わらないようですね。でも代表は激務ですので、それだと長続きしません。ロイさんは良い意味でセタさんと真逆なので、セタさんを助けることが出来ます。二人でエラルダを良い方向に導いていってください」
リオはそう言って立ち上がり、ロイに頭を下げた。
ロイはハァと息を吐いた。
「……リオさん、刑期が明けたら、手伝ってもらいますよ」
「ああ、そうきますか……。まあ、それも、ミコトさんの為になるのなら……」
リオは微笑んで呟いた後、「あ、余談ですが」とソマイとアサキを見た。
「ソマイやアサキの様な特異体質は、昔はハズレ能力として扱われていたそうです。特異体質だと古代魔法適性は全くないので、神からも放置されたのです。だから現在も稀に存在しているのですよ」
『ハズレ……!?』
リオの言葉に、ソマイとアサキはガクッとうなだれた。
ソマイはともかく、アサキの能力はミレイを救ったのだからハズレではないような気がする、とロイは笑う。
一緒に笑っていたリオは、ふと真面目な表情になり、ソマイを見る。
「……ソマイは、能力をなくして、その、良い人は出来たのか?」
「あ、いえ……」
ソマイは口籠る。
「噂で聞いたのですが、騎士団に女性がつめかけて修羅場になったとか……?」
アサキはソマイを見る。
ソマイは大きな体をビクッと震わせる。
「ソマイ、まさか同時に手を出したのか……?」
リオの言葉に、ソマイは慌てて首を横に振った。
「いえ! 誰にも手なんか出していません! 食事に行き少し話をしただけなんです! どの女性とも、話してみないことには分からないと思いまして……。そうしたら、何故か、そんな事に……」
「えっ!? 俺の時と全く同じ……!」
ロイは思わず声を上げる。
ソマイとロイを見て、リオとアサキは溜息をついた。
「お二人とも無自覚にってヤツですね。ソマイさんは、まあ、良い勉強になったと思うしかありませんね。そのうち距離感や女性の裏なども分かってきますよ」
アサキの言葉に、リオも大きく頷く。
ソマイは「はい」と苦笑する。
「アサキさんは詳しそうですね」
ロイは腕を組んでアサキを見る。
「詳しくはありませんが、私もいい年なので何人かは……。ロイさんだってミコトさんが初めてではないでしょう?」
「えっ……、あ、いや……」
ロイの微妙な反応に、寝室が静まり返る。
アサキは、んんっと咳払いをした。
「そうだったんですね……。お兄ちゃんとお姉ちゃんは、初めて同士……」
「初めて同士って言うのやめて下さい!」
ロイは叫んで、慌てて自分の口を手で塞いだ。
リオはドアを少し開けて、リビングの様子を伺い微笑んだ。
「ああ、大丈夫ですよ。女性たちはカーサの話に集中しているようですね」
「カーサさんの話?」
ロイは口を押さえたまま、リビングの話に耳を傾ける。
ロイの顔はみるみる真っ赤になっていく。
「ちょっ……、コレ……」
「私には殆ど聞こえませんが、さすがロイさんは耳が良いですね」
リオは感心している。
後ろでアサキとソマイも、聞こえない、と話している。
リオはニッコリとロイに笑いかけた。
「今夜が楽しみですね?」




