226.悪口大会
聖女の部屋で、ミコトとセイラとマリーとシェナは、ソファに座り、お茶を飲んでいた。
先程まで、シェナの話を黙って聞いていたのだが……。
「えーと、つまり、セタさんとシェナさんは、利害一致の契約結婚……ということなんですか?」
ミコトは恐る恐るシェナを見る。
「実はそうなのよ。セタは代表をやるにあたって女性が寄ってこないように『妻』が必要だったの。それで、私に安定した生活と第1での仕事を保証する代わりに結婚しないかって……」
な、なんだそれ……!?
5年も、5年もお世話をしてくれた女性への言葉が、それ!?
ミコトがふるふると震えているのを見て、セイラは「だから腹黒いって言ったじゃん!」とソファの背にもたれかかった。
シェナはふふっと笑う。
「でも、仲は悪くないのよ。私たち幼馴染で、5年も家族のように過ごしたでしょ? だから恋愛のような感情はないのだけど、家族愛はあるの。それに、私も愛だの恋だのはもうこりごりで……」
「前のダンナが浮気でもしたの?」
「セイラっ!?」
ミコトは慌ててセイラの口を塞ぐ。
シェナはアハハと笑った。
「聖女様の言う通りです。前の旦那は、他の女に会いに行っていたのに、私に毎日のように『愛してる』と言っていたんですよ。ああ、スミスも女好きのくせに『シェナだけだ』とか言ってたかな? とにかく、言葉だけの愛なんて要らないどころか気持ち悪くって。でもセタは一切そういう事は言わないから、腹黒いけど、信用はしてるの」
ロイは毎日「大好き」って言ってくる! とミコトはさっきとは別の意味でふるふると震える。
「シェナさんはセタさんに恋愛感情はないのですか?」
マリーはシェナを真っ直ぐ見て尋ねる。
「そうね……。私は初恋がセタなのよ。だから全くないってわけじゃないかも……」
シェナはマリーを見て弱々しく笑う。
「今日聖女棟に行くように言ったのはセタさんですよね?」
マリーはにっこり微笑む。
そうだ。
シェナが一人で聖女棟に来るのは初めてだ。
「うん、そう。聖女様をお祝いの席に誘って欲しいって……」
あれ? セイラを誘うことは、ミコトにも頼んでいたのに?
そんなに「聖女様」に来て欲しいのだろうか。
ミコトが首を傾げていると、マリーはウフフと微笑んだ。
「セタさんは、第1に知人がいないシェナさんのストレスを発散させようとしたのよ。セイラがセタさんを嫌っているから、思う存分自分の悪口を言ってこいってことね」
マリーの言葉に、ミコトとセイラとシェナは「ええっ!?」と声を上げる。
「セタさんは第1の代表だから、妻のシェナさんが悪口を言う相手は誰でもいいわけじゃないわ。政治と男に興味のない聖女と、ロイの妻のミコトとリントの妻の私なら、大丈夫ってところかしらね」
ミコトとセイラとシェナは、口をあんぐりと開ける。
マリーはニヤリと笑った。
「お望みどおり、ここからはセタさんの悪口大会にしましょうか。私、セタさんには結構言いたいことがあるのよ?」
「き、聞きたいわ。その話!」
シェナは前のめりに言う。
「腹黒兄貴、聖女を利用するとか、どう仕返ししようかなー!」
セイラは腕を組んで舌打ち混じりに言う。
ミコトは何を言ったらいいか分からず、口をパクパクとさせる。
セイラはミコトの様子を見て、溜息をついた。
「ミコちゃんさー、いい加減、イケメンってだけでコロッといくのやめなよー。分かったでしょ? イケメン兄弟は、腹黒とバカなんだよ?」
「加えて、ブラコンね」
マリーはお茶をすすりながら言う。
「すごい……。なに、この、胸がスカッとする感じ……!」
シェナは両手を口に当てて、呟く。
ミコトは、少し前にイケメンを侍らせる想像をした事を思い出していた。
想像の中のイケメンは、ロイとセタとソマイとアサキだった。
でも、よく考えたら、この4人、全員どこかオカシイよね!?
イケメンだからって、見えていなかった!?
ミコトは、ばっと目を両手で覆った。
「私、目隠しして生活する……!」
「あー、ミコちゃんがまた変な方向に行こうとしてるー」
セイラは呆れたように言って、マリーとシェナは楽しそうに笑うのだった。
「セタ兄!」
代表就任祝いをやる夕方、ロイは政務棟の代表室にセタを迎えに来ていた。
「ああ、悪いなロイ。わざわざ来てもらって……」
「それはいいけど、珍しいね、一緒に行こうだなんてさ」
ロイはそう言うと、代表室を見回す。
先日までアレンがいたこの部屋に、セタがいるなんて、不思議な感覚だ。
「そうでも言わないと、ロイはミコトちゃんを迎えに行くだろう? 今日はシェナを聖女棟に向かわせてるから、夜までは女性だけで過ごして欲しいんだよ」
セタの言葉に、ロイは「女性だけ?」と首を傾げる。
セタはふっと笑う。
「シェナは第1に知人がいないからね。でも、政敵や取り入ろうとする人物とは関わって欲しくない。ミコトちゃんと聖女様とマリーなら安心だ」
「安心……?」
ロイは顔をしかめる。
確かに政敵にもならないし取り入ろうともしないだろうが、ミコトはともかく、聖女とマリーは別の意味で安心と言えるだろうか?
「ああ。今頃、俺の悪口大会が開催されているだろうけど、まあ、安心だよ」
「ええっ!?」
「シェナのストレス発散にもなるし、存分に言ってくれればそれで……」
「あ、あのさ、セタ兄!」
ロイはセタの机にバンと手をついた。
「シェナさんのこと、好きだから結婚したんじゃないの? ストレス発散って、セタ兄といたらシェナさんはツライってことなの?」
ロイの真剣な表情に、セタも笑うのをやめる。
「正気に戻った2年間で、心にあった虚無感が徐々に薄れていったんだよ。それは間違いなくシェナのおかげなんだ。結婚したのは代表に『妻』がいた方がいいと思ったからだけど、誰でも良かったわけじゃない」
「それ、もう、好きでいいんじゃないの……?」
セタは微笑むと、机の上の書類を片付け始めた。
「そうかもしれない。でも、この穏やかな感情が好きということなら、聖女を好きだった俺は何だったのか……。第1に迷惑をかけてまで想いを捧げたあの時間は……」
「セタ兄……」
「心の整理にまだ時間が必要だなんて、5年も尽くしてくれたシェナに言えないよ……」
「それって、それを言ったらシェナさんが離れていくかもしれなくてヤダってことですよね!?」
突然声がしたかと思うと、代表室のドアがノックもなくバーンと開いた。
セタとロイが驚いて振り向くと、そこには、何故か目隠しをしたミコトが立っていた。




