225.代表就任式
季節は春から夏に移り変わり、少し動くと汗ばむ陽気の頃、第1エラルダ国の政務棟の会議室でセタの代表就任式が行われていた。
セタは第1の名代を2ヶ月やり、その間に各部署をまわり、本日付で晴れて第1エラルダ国の代表となったのだ。
出席者は、新代表のセタ、前代表のアレン、直属の政務官の男性3人、国家特別人物のロイとミコトだ。
この会議室で行う小規模すぎる代表就任式は、セタの希望である。
「セタ、お前ならなんの心配もないが、何かあったら何でも相談してくれ」
アレンは代表のバッジをセタに渡しながら言う。
「ありがとうございます。アレンさん、本当にいろいろご迷惑をおかけして……」
「いいんだよ! こうして元気に戻ってきてくれたならな!」
セタの言葉を、アレンは笑いながら遮る。
きっと湿っぽくしたくないのだろう。
アレンはロイに向き直る。
「ロイ、お前には心配しかないが、セタを助けてやってくれ」
「セタ兄とずいぶん違うのが気になりますけど、承知しました。アレンさんもお疲れ様でした」
ロイは笑顔でアレンに言う。
アレンはミコトを見る。
「ミコト、何をするにも、まず相談だ。直属のリントと兄のセタを頼れ。わかったな?」
「は、はい! 承知しました!」
ミコトは元気に返事をする。
ロイは「俺の名前がない」と呟いている。
「アレンさん、今日夜にささやかですけど、就任のお祝いをロイの家を借りてするんです。良かったら来ていただけませんか? シェナは料理人でしたので、味も保証しますよ」
セタの誘いに、アレンは苦笑する。
「いや、俺は遠慮しておくよ。若い奴らだけでやるといい。オッサンは3人で飲み会なんだよ」
どうやらアレンとカイルとゼノマは3人で飲みに行くらしい。
相変わらず仲が良い。
「そういえば、セタも聖女に嫌われたと聞いたが、本当なのか?」
アレンは思い出したように言う。
「本当ですよ。初対面で聖女様に腹黒いって言われました」
セタは笑顔で返す。
そうなんだよね。
セイラは相変わらずロイを嫌っているが、セタのことも初対面で嫌っているのだ。
アリアンとの相性が悪いのだろうか?
「すまんな、と俺が言うのも変だが……。まぁ、慣れると悪くない聖女様だ。言葉に裏表がない」
「ええ。今代の聖女様は、かなり良い聖女だと思いますよ。本質がちゃんと見えています」
アレンとセタの会話を聞いて、セイラが褒められている! とミコトは笑顔になる。
セタはミコトを見る。
「ミコトちゃん、聖女様に、就任祝いにぜひ来ていただきたいと伝えてくれるかな?」
「あ、はい!」
ミコトは、セイラ来るだろうか? と思いながら返事をした。
夜に行われる、セタの代表就任お祝いにセイラを誘うため、ミコトは聖女の部屋に来ていた。
国家特別人物になってからのミコトは、聖女の部屋と自宅を半々で利用している。
ロイが早く帰れる日は、自宅で一緒に過ごしているのだ。
というのも、ミコト自身は実はあまり忙しくなく、治癒能力の依頼も1回あったきりなのだ。
初夏に、ミレイと同じ病気の12歳の少女を治療したのが、治癒能力の法律を適用後、最初で最後となっている。
次の依頼も特に聞いていない。
女性騎士団もまだ設立されておらず、女性騎士養成所が秋から始まる予定となっている。
お腹がかなり大きくなったマリーは、前と変わらず聖女棟で仕事をしながら暮らしている。
リントが忙しい、ということもあるが、家探しが難航しているという理由もあるようだ。
「お兄ちゃんの代表就任のお祝いねぇ……」
セイラはベッドの上でゴロゴロしながら、ミコトの話を復唱する。
やはりあまり乗り気ではないようだ。
「マリーは行くよね?」
ミコトはソファに座っているマリーに尋ねる。
「ええ。リントも行くって言ってたわ」
マリーは微笑む。
「まあ、美味しい食べ物があるみたいだし、行ってもいいけど……」
セイラはぶつぶつと呟く。
「セイラは、なんでセタさんが嫌いなの?」
ミコトが首を傾げながら尋ねると、セイラは嫌そうな顔をした。
「ミコちゃんは相変わらずイケメンに弱いよね。お兄ちゃん、どー見ても腹黒いじゃん! しかもアイツと同じ匂いがするんだよ!」
「私、セイラのそういうところ、本当に好きだわ」
セイラの暴言に、マリーはウフフと笑う。
どうやらマリーはセイラの意見に賛成のようだ。
「兄弟仲良しなのは別にいいんだけどさ、それにミコちゃんを巻き込まないで欲しいんだよね! ミコちゃんを守るとか言って、弟を守ってるだけなんだよ、あの腹黒兄貴は!」
セイラが言い放つと同時に、聖女の部屋のドアがノックされる。
ミコトがドアを開けると、立っていたのはシェナだった。
「シェナさん!?」
ミコトは、セタの悪口が聞こえてしまった? と思い、目が泳ぐ。
「聖女様……」
シェナはベッドで寝そべっているセイラを見て呟く。
これ、まずいんじゃないだろうか。
シェナからしたら、最愛の旦那様のセタを「腹黒兄貴」呼ばわりされたのだ。
「あ、あの、シェナさん……」
「すごいわ、聖女様!」
シェナは笑顔になって、セイラの方へ駆け寄る。
ミコトは「え?」と言いながらドアを閉める。
「セタって、子どもの時から、ものすごく腹黒いんです! 大事なのは、ロイ君だけなんです! あの笑顔に騙されず、一発で見抜くなんて、さすが聖女様です!」
まくし立てるシェナに、ミコトは呆然とし、セイラは起き上がって「まぁね!」と言い、マリーは「あらあら」と微笑む。
「えっと、シェナさん……?」
ミコトは理解が追いつかず、ドア前から動けないでいた。
「あ、ごめんなさい、突然来てペラペラと喋ってしまって……」
立ち上がって頭を下げるシェナに、マリーはにっこり微笑んだ。
「セタさんの就任祝いに行く前に、女子会でもしましょうか」




