223.披露宴
リントとマリーの結婚披露宴が、国立宿泊所のホールで行われていた。
100平方メートルはあるホールの50人以上のお客様を前にして、ロイとミコトは友人代表の挨拶を無難に済ませた。
マリーはミコトの提案により、披露宴からは薄いパープルのふんわりしたドレスに着替えている。
ミコトは地球にいた頃、結婚式や披露宴に出席したことがない。
なので普通の披露宴がどういうものかはよく知らないのだが、新婦がドレスや着物を着替えるらしい……という知識はあった。
マリーの純白のドレスは、リントが贈ったので、ミコトはパープルのドレスを贈ることにしたのだ。
ミコトはこの世界に来て、一番いい仕事をしたなと思うくらい、マリーのパープルのドレス姿に満足していた。
「ミコちゃーん、疲れたー。この世界の披露宴って立食パーティーなんだねー」
セイラはお料理をひたすら取り分けるミコトにもたれかかる。
「壁際の椅子に座ってたんじゃないの?」
ミコトは取った料理を乗せたお皿をセイラに渡す。
元々、ミコトはセイラに料理を持って行こうとしていたのだ。
「すぐ誰か来て話しかけてくんだよ!」
セイラはお皿を受け取ると、パクパクと食べ出す。
「あ、お行儀悪い! そんなのコランさんたちが対応してくれるでしょ?」
「やってくれるけどー、その間に聖女っぽく座ってるのが疲れるんだよー」
セイラの言いように、後ろにいるコランとハリーと、ミコトの後ろにいるタリスが同時に溜息をつく。
「アイツは?」
セイラはキョロキョロと辺りを見回す。
「リントのご家族とお話してるよ。リントって弟と妹がいるんだね」
「あー、なるほどねー。嫌な顔しながらもつい手のかかるヤツの面倒を見てしまう……、悲しい長男気質……」
セイラはミコトとロイを思い浮かべながら言う。
コランとハリーとタリスも、ミコトとロイだな、とウンウンと頷いている。
ミコトは、ロイのことかな? と頷く。
「ま、私にも弟と妹が出来たしね! 今度ミレイさんとアサキさんの結婚式で私が誓いの言葉を言うんだよ!」
ミコトは別のお皿に料理を乗せながら自慢げに話す。
「そんな面倒くさい役よくやるねー」
セイラはもぐもぐと食べながら言う。
「アサキさんがケーキを3種類も作ってくれるって言うからさー」
ミコトは満面の笑みだが、タリスは、完全にアサキに丸め込まれている! と肩を落とす。
セイラはミコトが取り分けた別のお皿の料理に手を伸ばす。
ミコトはそのお皿をサッと持ち上げた。
「コレはアレンさんの分なの!」
「えー、相変わらずの孫っぷり……。あれ、そーいえばマリーパパは? 結婚式にはいたよね?」
セイラは再び周りを見回す。
「あ、ロイが言ってたんだけど、キダンさんは仕事なんだって。なんかずっと忙しそうなんだよね」
「アイツは元々第1には殆どいないんだよ。最近はよく会ったから鬱陶しいのなんの……」
コランの嫌そうな言葉に、ミコトとハリーとタリスは苦笑する。
するとここで、「新郎新婦は一時退場します。皆様はご歓談をお楽しみ下さい」と司会役の政務官が声を張り上げた。
「やった! 私も一時退場する! ミコちゃんは?」
セイラは嬉しそうにミコトに言う。
「主役が不在の時こそ、場をとりなすのが国家特別人物だよ! アレンさんにお料理を渡したら、ガンガン来客に話しかける!」
「うわ、さすが、くっそ真面目……」
ミコトはセイラを軽く睨むと、料理の皿を両手に持ってアレンが座っている壁際の方に歩き出した。
タリスもその後をついていく。
「聖女様は休憩ですか?」
ハリーの言葉に、セイラは「もちろん!」と言ってホールの外に出て行った。
「マリー、大丈夫?」
披露宴のホールからほど近い休憩室で、リントはマリーをソファに座らせた。
「大丈夫よ」
マリーはソファに座ると、思い出したようにふふっと笑う。
「マリー?」
「だって、ミコトってばあんなに泣いていたのに、披露宴の挨拶をものすごくしっかりやるんだもの」
リントは「あー」と苦笑する。
「お茶会でもそうだったな。ミコトには、なんかよく分からんスイッチがあるんでしょ」
リントはマリーの隣に腰掛ける。
ミコトといえば、とリントはセタと女性騎士団の事を思い出した。
正直、給金の2倍はかなり有難い。
もちろん副騎士団長の給金だけでもマリーと子どもを十分養えるが、やはり、少しでもいい生活を……と思ってしまう。
大変にはなるが、ミコトは理解が早いし行動力もある。
副騎士団長と兼任でも出来る……だろう。
「マリー、俺、頑張るよ。だから、ずっと側にいて欲しい」
リントの真剣な表情に、マリーは微笑む。
「セタさんに何か言われちゃった?」
リントはガクッとうなだれた。
「いや、もう、マリーは何で全部お見通しなんだよ……!」
「セイラの侍女さんたちが国立宿泊所でセタさんを見たって騒いでたの。結婚式や披露宴に出るわけでもないのに、こんな日にわざわざ来るなんて、緊急でリントに話があったのかなって思ったのよ」
マリーはウフフと笑う。
「すご……、あってる……」
リントは頭を抱える。
「おそらくミコトのことよね? 教えてくれるかしら?」
マリーの笑顔に、リントはハァーと息を吐いた。
マリーには隠し事は出来ないようだ。
リントは女性騎士団設立の件と、自身の統括兼任の話をした。
マリーは聞き終わった後、ニヤリと笑う。
「セタさんは相変わらず腹黒いわね。そうやってミコトを囲い込んで、今の騎士団の就業状況も改善する気なのね」
「囲い込んで……になるのかは分からないけど、騎士団の就業状況の改善はその通りだよ。軽い仕事を女性騎士団に回せるからね」
リントは苦笑する。
マリーは「あら、囲い込みよ」とキッパリと言う。
「セタさんが一番大切なものって何か分かる?」
マリーの言葉にリントは首を捻る。
「ロイよ。あの兄弟、気持ち悪いくらいブラコンなのよ」
「ブラコンって……。あ、でも、そうか。だからミコトを……」
リントはセタが異様にミコトを守ろうとしている事を思い出した。
全てはロイのため、ということだ。
「セタさんは、他には何か言っていた?」
リントはギクッと体を強張らせる。
セタの結婚の事をこんな日にマリーに言うのも……、いや、言ってもいいのだが……。
「女性と一緒だったらしいから、結婚でもしたのかと思ったのだけど、違った?」
マリーの言葉に、リントはズルズルとソファからずり落ちた。
どうやら、とんでもない女性と結婚をしてしまったようだ、とリントは思っていた……。




