222.女性騎士団
リントとマリーの結婚式当日。
無事に結婚式を終えたリントは次の披露宴に臨むべく、新郎控室となっている国立宿泊所の一室で、服装を整えていた。
介添人として、騎士団顧問のカイルが同室にいる。
「リント、入ってもいい?」
ノックとほぼ同時に、ドアの外でロイの声がする。
「はい。どうぞ」
リントは返事をして、開いたドアから入ってきた人物を見て驚いた。
カイルも座っていた椅子を後ろに倒すほど、驚いて立ち上がった。
「セタさん!」
「セタ……!」
ロイの隣に立っていたのは、5年前より少し痩せた、しかし、ブルーグレーの髪と瞳で整った顔立ちはそのままのセタだったからだ。
「カイルさん、お久しぶりです。リントも、ああ、大人になったな……」
セタは目を細めながら2人を見て挨拶をすると、補助杖を使って部屋に入ってくる。
「セタ! 良かった、元気になったんだな……!」
カイルは嬉しそうにセタに駆け寄る。
「カイルさんには、本当にご迷惑をおかけしました……」
「いいんだ! 元気になったならそれで……」
頭を下げるセタと涙ぐむカイルを、リントは呆然と見つめる。
セタは顔を上げると、リントを見た。
「リント、結婚おめでとう」
「あ、ありがとうございます……」
リントは咄嗟に頭を下げる。
「そんなに警戒しなくてもいいよ。実は急ぎで話があって、こんな日に悪いなとは思ったのだけどロイに連れてきてもらったんだ」
セタはロイに目線を送り、ロイは頷くと書類の束を出した。
リントはロイから書類を受け取り、目を通す。
カイルも横から覗き込む。
「これ……、女性騎士団の設立……?」
リントは目を見開いてセタを見る。
「実は前々から考えてはいたんだけど、今回ミコトちゃんは国家特別人物になったことで、臨時団員だった騎士団を辞職しただろう? アレンさんからの手紙で、ミコトちゃんが納得してないようだとあったから、ああ、まずいなと思ってね」
セタは早口で説明するが、ロイとリントとカイルは首を傾げた。
「まずいとは……?」
リントは書類をめくりながらセタに尋ねる。
「ミコトちゃんは、騎士団に何とか戻れるように、女性が騎士団に入れる法律をつくると思うんだ」
「なっ……!? まさか……」
リントは驚いて書類から顔をあげたが、ロイは「あっ」と言う。
「そういえば、何か企んでる顔をしてた……」
ロイの言葉に、リントはその場にしゃがみ込んだ。
「あの、アホ……」
リントの呟きに、セタは笑う。
「ミコトちゃんは本当にはアホじゃない。頭が回るところと行動力があるから、この結婚式が終わり次第すぐ動いてしまうと思ってね。だけど現実的に考えて、女性がそのまま男性ばかりの騎士団に入団するのは無理があるんだよ」
「それで、女性だけの騎士団……ですか」
リントはしゃがみ込んだまま、書類を見て呟く。
「リントは話が早くて助かるよ。その案をミコトちゃんより先に進めて欲しいんだ。ロイはミコトちゃんにこの話をして、女性騎士団の団長になる事を勧めて欲しい。その際に、ロイと一緒にやる仕事が多いことをチラつかせて話すんだ。この件に関して、ミコトちゃんの意見はもちろん聞くが、ミコトちゃんを基準には絶対にするな。普通の女性にもこなせる騎士団にするのが目標だ」
ロイは「わ、分かった」と頷き、リントは立ち上がった。
「承知しました。承知しましたけど、今日は俺とマリーの結婚式なんですよ? まさかの仕事の話ですか!?」
リントの叫びに、ロイとセタとカイルは苦笑する。
「悪いなリント。でもこれだけじゃないんだ。書類の最後を見てくれ」
リントはセタに言われて書類の最後の紙を見る。
「は、はあ? 女性騎士団の統括が、俺!?」
リントは先程より大きな声で叫ぶ。
「ああ、副騎士団長と兼任だ」
「セタさん、俺を殺す気ですか!?」
リントの「殺す気」発言にセタはふっと吹き出す。
「ミコトちゃんをうまく誘導してほしいんだよ。その代わり給金は今の2倍だ。マリーと子どものためにも悪い話ではないだろう?」
セタはリントにニッコリと笑いかける。
リントはセタの笑顔にワナワナと震える。
「ロ、ロイさんは何するんですか……? ミコトの管理はロイさんの責任でしょう!」
リントはロイを指差して叫ぶ。
「ロイにミコトちゃんの管理は無理なんだよ。アリアンは愛した者には弱いんだ。それにロイにはこちら側の仕事をしてもらう……」
セタは少し目を伏せる。
ロイにミコトの管理が無理だということは、リントも重々承知している。
「こちら側ってどちら側ですか?」
リントは少し意地悪くセタに尋ねる。
セタはうっすらと笑う。
「……キダンさんにミコトちゃんを取り込もうと目論んでいる人物をピックアップしてもらっている。第1だけでなく、各国のだ。それを一人ずつ牽制する……」
リントは目を見開き、カイルは「そこまで必要なのか?」とセタに尋ねる。
「害になりそうな芽は摘む。治癒能力の個人的な利用は決してさせない。地位と法律だけでは足りない」
セタはうつむいて真面目な顔をした後、顔を上げて微笑んだ。
「そういう事だから、リントにはそっちをお願いしたい。カイルさんも顧問として力添えしていただけると助かります」
セタは頭を下げると、踵を返し部屋を出て行こうとする。
「セタ兄! リントの披露宴に出ていけば……」
「いや、いいよ。シェナを待たせているし」
「シェナさんも一緒でいいよ」
「これから第1に住むための家を見に行くんだよ。時間もないから……」
ロイとセタの会話に、リントとカイルは「シェナ?」と首を傾げる。
セタはリントとカイルの様子を見て、ふっと笑った。
「ああ、結婚したんだよ。リントと一緒で新婚だな。じゃあ、また後日に」
セタはそう言うと、部屋を出て行った。
『えええっ!?』
ロイとリントとカイルは、同時に大声を出した。
「……って、いや、ちょっと、なんでロイさんまで驚いてるんですかっ!? 知らなかったんですか!?」
リントはロイに詰め寄る。
「シ、シェナさんは知ってる人なんだけど、結婚は知らなくて……、あ! セタ兄を送らないと! ごめん、俺も行くよ、後でね!」
ロイは相変わらずの猛スピードで部屋を出て行った。
新郎控室に残ったのは、女性騎士団設立に関する大量の書類と、呆然とするリントとカイルだったーー。




