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異世界恋護奇譚 〜聖女のオマケでバグ転移した私、15歳で天然最強騎士団長と偽装結婚しました〜  作者: 三多来定


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218.セタの提案

 第4エラルダ国のセタの実家で、セタの治療から目覚めたミコトは、自身の体力を回復するべく、ロイにケーキを食べさせていた。


「はい、あーん」

 ミコトはフォークで小さくカットしたチーズケーキをロイの口元に近づける。


 ロイは観念したように目をつむり口を開ける。

 ミコトは、もうこの時点で、ロイの無防備な姿に胸がキュンとしていた。


 ロイは口に入れられたチーズケーキを少し咀嚼してごくんと飲み込む。

 そして、ミコトの両肩に手を置いた。


「ミコト、もう勘弁して……!」

「え、でもまだケーキが……」

「人前でやるのは勘弁して下さい!」


 ロイは半泣きで懇願する。


 そう、ミコトは、このロイに食べさせる行為を、暖炉の部屋でやっているのだ。


 ミコトとロイの向かい側には、リタとオルバが目のやり場に困りながら座っている。


 シェナとヨナミは、先ほど目が覚めたセタの部屋へ行っている。


「ミコトさん、顔色がかなりよくなりましたね。団長に食べさせると、どのように力が入るのですか?」


 そしてシーマは、補助席に座り、ノートに細かくミコトの様子を記入している。


「シーマさん! そんなことまで記入しないでくださいよ!」

 ロイはミコトの肩に両手を置いたまま叫ぶ。


「えーと、胸がキューッとするんです。あの、ロイがカワイイっていうか……」

 ミコトは顔を赤らめて答える。


「ミコトも真面目に答えなくていいよ! カワイイって言われて喜ぶ男はいないから!」

「なるほど、胸がキューッと……。コレはかなり重要な情報ですね……」

「シーマさん、何言ってるんですか!?」


 ロイはミコトの肩から手を離すと、ミコトからフォークとケーキ皿をとりあげ、残りのチーズケーキをパクパクと平らげる。


「あー、自分で食べちゃったー」

 ミコトはガッカリと肩を落とす。


「こんなのがセタ兄に知られたら……」

「あの、セタがロイ君とミコトちゃんとお医者様に話があるって……」


 ロイがセタの名前を出したちょうどその時、シェナがセタの部屋から出てきてロイに話しかけた。

 

「うっ、はい……」

 ロイは、お皿とフォークをテーブルに置くと、ミコトを抱き上げた。


 ミコトはまだ体が重いので、ロイにくてっと寄りかかり、コレも力が入る、と呑気な事を考えて目を閉じる。


 シーマは幸せそうなミコトを見て、愛は食べ物に負けてなさそうだ、と微笑んだ。




 セタの部屋に入り、以前と同じようにベッドに横たわっているセタを見て、ミコトは愕然とした。

 だって、どう見ても、前より弱々しいのだ。


「まずはお礼を……。ミコトちゃん、治療をありがとう……」

 セタはとても小さな声で、ゆっくりミコトに言う。


 声まで弱々しい!

 これ、全然治ってない!?


 ミコトの瞳から涙が溢れる。


「あー、ごめん、セタ兄。ミコトは目覚め直後は不安定になるみたいで……」

 ロイはミコトの頭をよしよしと撫でる。


 隣にいたシェナは、ミコトの涙をハンカチでそっと拭う。


 セタの部屋には、主治医のヨナミ、シェナ、ミコトを抱えたロイ、シーマがいて、セタ以外は全員立っている。


「うん……。長く話せないから、結論を言う……。ミコトちゃんは、この能力を、自分の体力を削って使ってはいけない……」


 セタの小さな、しかし、はっきりとした言葉に、全員は目を見開いた。


「セタ兄、それは、やっぱりミコトに悪影響があるってこと……」

「セタさん、私はミコトさんをずっと診察しています。今回のような衰弱は初めてですが、今までは目覚め後は体力が回復していました」


 ロイとシーマが矢継ぎ早にセタに言う。

 セタはフゥと息を吐く。


「眠ってしまうほど自身の体力を使っている……。ロイの力だけを使うべき……」


 シーマはハッとした表情になり、「なるほど!」と言った。


「ミコトさんは患者を絶対に治そうとして、団長の力を使い切った後、ご自分の体力を使っているということですね!」


 セタは微笑むと少し首を動かした。


「えっと、どういうこと……」

「団長、思い出してください。小隊長たちと町のナンパ男を治療した時、ミコトさんは眠ったりしませんでした。あれは、団長の力だけを使用したからなんです!」


 シーマの言葉に、ロイは「確かに……」と呟いた。

 交流戦の時、ミコトの体にはロイの力が残っていたのだ。


「俺の力とミコトの体力を同時に使っているんだと思っていた……」


「ミコトちゃんは意思が強い……。でも、治療は割り切るべき……。ロイの力を使い切ったところで終わりにする……」

「承知しました! 団長、ミコトさんの治癒能力は特異体質も治せる万能さがありますが、あえて万能ではない、と周知するべきということです!」


 セタの言葉を、シーマはロイに説明する。


「そっか、それならミコトも眠らなくてすむのか……!」


 つまり、治療を途中で止めて、眠らないようにするっていうこと?

 この、置いていかれる、なんとも言えない寂しい感覚を、もう感じなくていいの?


「今回起こしたのは好判断……。眠り続けるのは、ミコトちゃんの精神に良くない……」


 セタの言葉に、ロイとシーマは顔を見合わせて頷く。


「治癒能力のストップはロイが判断して……、ミコトちゃんを国家特別人物に……」


「なるほど! 守りの強化ですね! 第1エラルダ国の国家特別人物である団長の奥様であり、自身も国家特別人物なら、この世界では最重要人物になります! 護衛も国の費用で雇えますし、そもそも変な輩は近づけません!」


 シーマは興奮したように話すが、ミコトは「えっ!」と声を上げた。


「あの、私、そんな大それたものじゃ……」

「ミコトちゃん、君に何かあったらロイが……」


 セタは「ロイが死んでしまう」と言いたかったのだろう。

 

 そうだった。

 ミコトは自分を軽視してはいけないのだ。

 これはロイを守ることにもなるのだ。


「わ、分かりました!」

 ミコトはロイの耳元で声を張り上げる。


「ミコト声大きいよー。耳痛い……」

「あ、ごめ……」

 

 ロイの耳を撫でるミコトを見て、セタは微笑む。


「ロイ、あの話も受けようと思う……」

「ホント!? セタ兄がやってくれるなら、アレンさんも喜ぶと思うよ!」


 ロイは笑顔でセタを見る。

 ミコトとシーマは「あの話?」と首を捻る。


「……危なっかしいんだよ……」

「え?」

「第1は危機管理がなってなくて、危なっかしい……、のんびりしすぎ……」

『うっ……』


 セタの指摘に、ロイとシーマが同時に目を逸らす。

 

 ミコトは第1の主要人物(オッサン3人組、騎士団長はロイ、諜報部門長はキダン?)を思い浮かべて、確かに……、と納得していた。

 でも、それがいいのに、と思うのは甘いのだろうか……。


「うっ、こふっ」

「セタ!」

 

 セタが咳き込み、シェナはセタの背中をさする。

 ロイとミコトとシーマはハッとする。


「セタ兄、全部承知したよ。たくさん喋らせてごめん。シェナさん、後はよろしくお願いします」


「うん、任せて」


 シェナにセタを任せて、ミコトを抱えたロイとシーマとヨナミはセタの部屋を出た。


 暖炉の部屋にいたリタとオルバは、ロイに「セタは話せた?」と心配そう聞いている。


 シーマとヨナミは、自警団の詰め所に泊まる相談をしている。


 ミコトは再び眠くなり、目を閉じようとする……


「あ、ミコト、寝ないで!」

「うー、眠い……」

「ほら、力を入れないとさ、何でもするから……」


 ロイの「何でもする」という言葉に、ミコトはパッチリと目を開けた。


「ロイにアップルパイも食べさせたい!」

「ええっ!? それ、まだやるの!?」


 ミコトとロイのやり取りを聞いたリタは、テーブルの上のアップルパイを切り分けお皿に乗せる。


「はい、ミコトちゃん。頑張って食べさせてね!」

 リタはあきらかに笑いをこらえている。


 ロイがオルバを見ると、オルバはサッと目を逸らした。


 ここにロイの味方はいない。

 力を入れるなら、もっと別の方法がいいのに……!


 ロイは「何でも」と言ってしまったのを悔やみながら、ミコトの差し出すアップルパイをひたすらもぐもぐと食べ続けたのだった。

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