217.結婚式の夢
ミコトは、ロイと結婚式を挙げる夢をみていた。
不思議なことに、これは夢だとちゃんと理解している夢だ。
だって、結婚式はもう挙げたのだから。
でも、あの時の結婚式は、全然ミコトの気持ちが入っていなかった。
襲撃に遭って怪我をしたみんなの心配と痛む足の傷と貧血。
顔も見たこともない来賓の人たち。
ロイの好みじゃなかったメイクと、ロイに好かれていないと信じ込んでいたミコト自身……。
今だったら、もっと違う結婚式が出来るのに……というミコトの妄想をそのままにした結婚式だ。
場所はロイとミコトの自宅だ。
花いっぱいの庭で、ガーデンウェディングだ。
お客様は、ミコトの大好きな人たちだけで、知らない人はいない。
ロイは式典用の深緑の騎士服で、ミコトはドレスではなく、白いワンピースだ。
そのワンピースに、ロイから貰った短剣と真珠のカチューシャと短剣モチーフのネックレスを身に付けて、結婚指輪をお互いにはめ合うのだ。
メイクはもちろんロイ好みにしてもらおう。
お料理は1階のリビングの大きなテーブルに並べよう。
ケーキも何種類か用意しよう。
アップルパイとチーズケーキは外せない。
こういう場でのお料理って何がいいのだろう。
唐揚げ、トンカツ……。
いやいや、それじゃあ結婚式っぽくない。
でも何故だろう。
唐揚げとトンカツしか思い浮かばない。
ていうか、唐揚げとトンカツが食べたい。
「唐揚げ……トンカツ……」
「ミコト!?」
ミコトの狭い視界に、心配そうなロイが映る。
ロイは、いつもの騎士服を着ている。
「ロイ、着替えたの……?」
「……え?」
「だって、結婚式挙げてて……」
ロイの向こう側に開いているドアがあり、ケーキとお料理が並んでいる。
お客様がそれを食べている。
ああ、唐揚げとトンカツと、アップルパイとチーズケーキだ……!
「ミコト、良かった……!」
ロイがミコトの手を強く握る。
「ミコトちゃん、起きたの!?」
「ミコトちゃん!」
「ミコトさん……! 良かったです。早速診察を……」
リタとシェナとシーマが部屋に入ってくる。
「本当に起きましたね……」
オルバは安心したように呟く。
ヨナミは「花や香水よりもこちらか……」とノートを開き書き留めている。
この辺りで、ミコトもようやく理解が追いついてきた。
ここは自宅ではなく、セタの実家で、セタの治療をして、目覚めたところだと。
「セタさん……は?」
ミコトはロイを見る。
「うん、アリアンを辞められたよ。後はリハビリで元気になる……」
「よかった……」
ロイが涙目で答えるので、ミコトの目にも涙が浮かぶ。
「団長、ミコトさんを診てもいいですか?」
シーマはベッドにしゃがんでロイに尋ねる。
「あ、はい。どきますね」
「え、シーマさん……?」
ミコトの言葉に、シーマは微笑む。
「はい。心配で来てしまいました。……ああ、やはり、いつもの目覚めようには回復していませんね……」
そういわれれば、体が重たい……。
「もし眠り続けていたら、あと何日かかりましたか?」
「あくまで推測ですが、あと2日くらいでしょうか……。ちょっと、今回のケースも踏まえて、治癒能力の使用に関して、再度考察する方が良いかと思いますが……」
「そうですね。戻り次第、アレンさんに話します。会議の際はシーマさんも同席していただけると……」
「あ、あの……!」
ミコトは何とか声を絞り出して、ロイとシーマの会話を遮った。
「私、何日寝て……」
「2日と7時間くらい、かな」
ロイの回答に、ミコトはショックを受けた。
今までで最長だ。
しかも、先ほどの会話から、本当は4日以上眠る予定だったのだ。
「団長、力を入れてもらえますか? この状態ではミコトさんもお辛いですので」
シーマの言葉に、リタは「えっ!」と声を上げる。
「この状態のミコトちゃんとエッチは……」
「リ、リタ! 会話でも力が入るとロイ君が言っていただろう……!」
オルバは慌ててリタの口を塞ぐ。
リタは、そうでした! とばかりに頷く。
「リタさん……」
シェナは顔を赤らめる。
「ま、まあ、私たちは暖炉の部屋の方へ出ていますので……」
シーマはそう言って、部屋を出て行こうとする。
待って!
匂いからして、暖炉の部屋にはアップルパイとチーズケーキと唐揚げとトンカツがあるよね!?
なんで、ミコトが寝ている間に、みんなでパーティーしてるの!?
いつ起きるか分からないから待ってられないって感じなの!?
「ロイ君! ミコトちゃんが泣いてる……!」
シェナはミコトの頬をつたう涙を見て、叫ぶ。
「あっ、えっと、目覚め直後は不安定なことが多くて……」
ロイはミコトの涙の理由をなんとなく察し、ミコトを抱き上げる。
「ミコト、大丈夫だよ。置いていかないし、ケーキと唐揚げとトンカツは、回復したら、えーと、パン粥の後に食べよう。ね?」
ミコトは「いやぁ、なくなっちゃうー」と涙を流す。
シェナはハッとする。
「ミコトちゃん! 唐揚げとトンカツはまた作るから大丈夫よ! アップルパイとチーズケーキは、誰も食べないようにする! 後で一緒に食べましょう!」
「ほら、シェナさんもそう言ってくれてるし、今は回復を先にしよう」
必死にミコトを説得するロイを見て、リタとシェナとオルバと医者2人は、愛が食べ物に完全敗北した……と思っていたのだった。




