214.セタの治療
ミコトとロイは、第4エラルダ国の山の麓の町で治療の準備と称して一泊し、明朝、セタの実家に戻ってきた。
リタとシェナと今日休みだというオルバは、ロイに抱えられて赤い顔でくたっとしているミコトを見て、驚いた。
「ミコトちゃん!? どうしたの、これ……」
「あ、大丈夫です。ちょっと力が入りすぎちゃって、軽く酔っているだけなので……」
驚いているリタに、ロイは分かりにくい説明をする。
「力が……入りすぎ……」
シェナが顔を赤くして呟く。
「ロ、ロイ君、若い時はその、何回もしたくなるのは私も経験があるから理解はするんだけども、実際は、女性にはちょっとキツイというか……」
オルバは、しどろもどろにロイに訴える。
「え? あっ! 違います! 何回もはしてないんです! 力は話をするだけでも入るんですよ」
ロイは咄嗟に弁解する。
さすがに治療の前日に、ミコトを寝かせないということはしない。
ただ、昨日、ロイの重い気持ちを理解して受け入れたミコトに、必要以上に力が入ってしまったのだ。
「なるほど、経験があって、理解できちゃうのねー」
リタはニヤニヤしながらオルバを見る。
「い、いや……! ああ、私たちは見学していても大丈夫なのかな!?」
オルバは慌ててロイに質問する。
「あ、はい、大丈夫です。妹の治療の時は、教会で見学者も50人以上いましたので……」
「妹? ミコトちゃんの妹さん?」
ロイの「妹」という言葉に、リタは即座に反応する。
ロイは、リタに妹の事を話していなかった、と思った。
「あ、えーと、俺の妹で、俺が5歳の時に母さんが産んで……」
「は、はあ!? レイちゃんが!? どういうこと!? そんなの聞いてな……」
「リ、リタ! その話は後にしよう! ロイ君、後で落ち着いてその話をしてくれないか。リタはレイさんの事をとても心配していたんだよ」
ロイに詰め寄るリタを、オルバは慌てて止める。
「はい、もちろんです。俺も記憶を思い出したばかりで、伝えずにいてすみませんでした」
「ロイ……。分かったわ、大きな声を出してごめんなさい」
リタは瞬時に、この話が辛い記憶を伴うものだと理解して頭を下げる。
「あの、ミコトちゃんの顔がさらに赤いけど大丈夫……?」
シェナは遠慮がちにロイに聞く。
「あ、出さないとまずいかな。早速セタ兄の治療をしますね」
ロイはそう言うと、セタの部屋をノックして、中に入って行った。
リタとオルバとシェナも後に続く。
「おはよう、セタ兄。早速で悪いけど、治療を……」
「話は何となく聞こえていたよ。ああ、力が入るって、そんな感じなのか……」
セタはミコトの赤い顔をチラリと見て、納得したように言う。
ミコトは、いつもはこんな感じではないです、と言いたかったが、とにかくフワフワするので黙っていた。
「今日はちょっと入りすぎていて……。ミコト、少しずつ、出来る?」
ロイの膝に乗せられたミコトは、ロイにもたれるように座る。
「うん、できる……」
ミコトの言葉にロイは頷いて、セタの左手を取り、ミコトの両手をその上に重ねる。
「セタ兄、ミコトの力が全身にまわるまで、おそらく1分もかからないくらいだと思うけど、それまで待ってから、……アリアンを辞めて欲しいんだ」
「……分かった」
セタは目を閉じる。
ミコトも目を閉じてセタに力を入れる。
ミコトが、この「ロイの力が入りすぎ状態」をそのままにしていたのは、もちろんセタの治療のためである。
ミレイの治療は、未知の病で損傷箇所が不明だったため全身に力を入れた。
ソマイの治療は、病気ではないため全身に力を入れた。
でも、どちらもおそらくギリギリだった。
ロイの力を取り込みながら……ということが、実はミコトは出来ていないのだ。
治療の事を考えながら、ロイの事を大好きと考える……、そんな器用なこと、ミコトには無理なのだ。
それなら、ロイの力が飽和状態でやる! とロイと相談して、このちょっと恥ずかしい状態で来たのだ。
セタはアリアンだ。
きっと、普通の人と何かが違うはずだ。
絶対に、絶対に死なせない!!
ミコトの力が全身にまわったところで、セタの様子が豹変する。
「うっ……! グゥッ……」
セタのうめき声が、静かだった部屋に響く。
「セタ!」
「セタ君……!」
「大丈夫です! 動かないで下さい!」
リタとオルバが近づこうとするのを、ロイは制する。
「ミコトちゃんの顔の赤みがひいていく……」
シェナがポツリと呟く。
今までと違う! とミコトは感じていた。
力の、持っていかれ方と言えばいいのだろうか、セタの全身に力をまわしているのに、それがどんどんセタに吸収されていく感じだ……!
飽和状態で正解だった。
というか、それでも足りない!?
ううん、諦めない!
ロイの大切なお兄さんなんだ。
絶対に治す!!
どれくらい時間が経ったのだろう。
セタの「ミコトちゃん、もういいよ」という声を微かに聞いて、ミコトはいつものように気を失ったのだった……。




