213.愛してる
第4エラルダ国の山の麓の町の宿屋の一室で、ミコトとロイは、早めの夕食をとっていた。
この世界の宿屋は、食事付きの場合、食堂で提供されることが多いのだが、頼めば部屋まで運んでくれる宿屋もある。
つまりルームサービスや部屋食なのだが、これは大体別料金である。
今回、わざわざこの別料金を払ってまで部屋食にしているのは、ロイの希望なのだが……。
「はい、あーん」
ロイはスプーンに乗せたマッシュポテトをミコトの口に近づける。
ミコトはおずおずと口を開いてマッシュポテトをパクッと口に入れる。
塩味のきいたホクホクしたポテトが口いっぱいに広がる。
しかし、口の中の水分が……!
「んんー!」
「あ、量が多かった? 飲み物は……」
ロイが水のボトルを取り自分で飲もうとするところを、ミコトは素早く奪い、ごくごくと飲む。
「あー、口移しで飲ませたかったのに……」
「……そんなことして、ポテトがロイに逆流したら、イヤだよ!」
「別にそれもいい……」
「ヤダ!!」
ロイはシュンとするが、ミコトにだって譲れないラインもあるのだ。
「ロイは何で私に食べさせたいの? これ、おもしろいの?」
「おもしろいっていうか、なんかいいんだよね。この間、アサキさんとこの話で盛り上がったんだよ」
「盛り上がった……」
ミコトはアサキとミレイのことを思い出していた。
アサキのミレイ溺愛はすごかった。
アサキがミレイに食事を食べさせようとして、ミレイが真っ赤になっている光景が思い浮かぶ。
ふと見ると、ロイは次にミコトに食べさせるべく、チキンのソテーを切り分けている。
ミコトはそのチキンをフォークに刺して、ロイの口に近づけた。
「なんかいいなら、私もやりたい! はい、あーん!」
ロイは「えー?」と笑い、仕方なく、口を開ける。
ミコトは自分から仕向けたくせに、無防備に口を開けるロイにドキッとする。
ゆっくりチキンをロイの口に入れ、ロイの口が閉じて、もぐもぐと動くのをじぃっと見つめる。
「ん、ミコトが食べさせてくれたと思うと、美味しい……」
「はい、あーん!」
「えっ!? まだやるの!?」
ミコトが次のチキンをロイの口に近づけたので、ロイは驚く。
「うん。なんか、よかったから……」
「えー、こっち側になっちゃったかぁ! まあ、あと1回だけなら……」
ロイは再び口を開けて、ミコトが差し出したチキンをパクッと食べる。
その無防備な姿に、ミコトの胸の辺りがキューッとする。
これ、圧倒的に、カワイイ!!
最強イケメン騎士団長が、ミコトの手によって、この無防備もぐもぐ状態なのだ。
胸がキュンとする度に、ロイの力が入っているのが分かる。
「……ミコト?」
「なんか、もう、力がたくさん入ってきた……。ずっとこれでいいかも……」
「ええっ!?」
ロイは叫んで立ち上がる。
ずっとこれでいい訳がない!
ロイ的には全然楽しくない。
「た、食べさせっこはやめよう! えーと、そうだ、セタ兄の話をしよう!」
ロイは言いながら、チキンソテーを2人分に分けて、そのお皿をミコトの前に置く。
お互い食事は自分で食べましょう、ということだ。
ミコトは少し残念に思いつつも、セタとシェナの事を思い出した。
「あの、セタさんとシェナさんって、恋人同士ではないのかな。依存とか、利用とか、なんか、ちょっと……」
目を伏せるミコトにロイは微笑む。
「大丈夫だよ。セタ兄は5年も世話をしてくれた人に酷いことは絶対にしないから」
そういうことじゃないのに……、とミコトは伏せた目でチキンソテーを見つめた。
セタがシェナに酷いことをしないのは知っている。
でも、セタがシェナに、5年の感謝とお礼を送ったとしても、一緒に過ごせないのなら、そんなもの、何の意味もない。
このイケメン兄弟は、女性の気持ちが全然分かっていないのだ。
「……セタさんが治ったら、セタさんは第1騎士団に戻ってくるの?」
ミコトは目を伏せたまま、ロイに尋ねる。
「そこは、セタ兄の意思を最優先するんだけど、俺は第1に戻って来て欲しいと思ってる。セタ兄にやってもらいたいことがあって、それはセタ兄にも話してあるから……」
ほら、やっぱり、セタと村に残るシェナは離ればなれになるじゃないか!
ロイだって、ミコトを放っておいて全然平気だったし、離れて寂しい女性の気持ちなんて分からないのだ!
「ミコト?」
「セタさんも、ロイも、女性の気持ちなんて全然分からないんだよね!」
「……え?」
ミコトは口に出してしまって、ハッとする。
今、ミコトとロイがケンカをしたら、治療どころではなくなってしまう。
ロイは、ハァと息を吐く。
「分かっていないのは、ミコトの方だよ」
ロイはそう言うと、ミコトを抱き上げて、ベッドに寝かせる。
ミコトに覆い被さると、強引にキスをする。
「んんっ!?」
ミコトの両手はロイに抑えられ、足もロイの足が乗っていて動かせない。
全く抵抗出来ない!
ロイは少し唇を離すと、悲しげな顔をした。
「このままさ、2人で遠いところに行こうよ。それで2人きりでずっと暮らそうよ……」
「……え、何言って……んんっ!」
ロイは再びミコトの口をキスで塞ぐ。
手も足も、全く動かせない。
ロイの力に、敵うわけがない。
きっと怒らせたのだ。
ロイと、尊敬する兄のセタの事を悪く言ったから……。
ミコトの瞳から、ポロポロと涙がこぼれる。
ロイは唇を離すと、ミコトの涙を手で拭う。
「ああ、ミコトは泣いていても可愛いね……」
「うぐっ、なに、言って……」
「ミコトはさ、いつも人のことばかり心配してるよね。俺のことも、もっと考えてよ」
そう言うとロイは、ミコトの頬の涙を舐める。
「ひうっ!?」
ロイは、怒っているのではない……!?
これは、ロイの大きくて重い、愛情……。
ロイの力が、どんどんミコトに入ってくるのが分かる。
すごく大きくて重くて温かい、そんな力で身体中がいっぱいになる。
ミコトは自由になった手で、ロイを抱きしめた。
「ロイ、大好き。愛してる……」
「俺も、愛してる……」
ロイの青い瞳から、涙がこぼれる。
ああ、ロイの涙は、なんて綺麗なんだろう……。
ミコトはもう一度、ロイをギュッと抱きしめた……。




