207.神様の話①
第1エラルダ国の教会にミコトとロイが到着した時には、すでにセイラとマリーとリントが教会の中で待っていた。
教会には、神官長のゼノマと若い3人の神官もいる。
「あらミコト、着替えたの?」
マリーはミコトの白い祈祷服を見て言う。
そう、ミコトは第2の教会で着たセイラとお揃いの白い祈祷服に着替えていたのだ。
「だって、ロイが服を破るから……」
ミコトは不満げな顔でボソボソ言う。
「ごめんって。マリー、悪いんだけど、直してもらえると……」
もうこの時点で、セイラもマリーもリントも、ロイの事を白い目で見ている。
「ロイさん、夫婦でも無理矢理はダメだとあれほど……」
「えっ、誤解だって! 脱がせようとしたら、破れちゃったんだって」
「……弁解に誤解部分が全くありませんよ」
ロイとリントの会話を横で聞きながら、ミコトは溜息をついた。
破れた服を縫うことも、ミコトには出来ないのだ。
お腹に赤ちゃんがいるマリーを助けたいのに、迷惑をかけるばかりである。
「ま、力は入ってるし、イチャイチャの内容はどうでもいいよ。ミコちゃん、早速神様のとこにレッツゴー!」
セイラはミコトの手を引っ張って祭壇の方へ進む。
ロイも慌てて後を追う。
マリーとリントは祭壇に近い椅子に腰掛ける。
祭壇の前にミコトを挟んでセイラとロイがならび、3人は跪く。
「また消えたりしたら、寿命が縮む……」
その様子を見て、リントが呟く。
「……やっぱり、セイラとミコトは従姉妹なのね。よく似てるわ……」
マリーは微笑む。
「……昔は似てないと思ったんだけどな……」
リントは、ミコトに聖女と似てないねと言って、ロイがミコトを庇ったことを思い出していた……。
少し、本当に少しお祈りをしたところで、ミコトはセイラに肩を揺すられた。
「もう目を開けていいよー」
ミコトとロイが目を開けると、そこはミコトが前にも来たことがある、真っ白な空間だった。
「神様だよー」
セイラは笑顔でセイラの隣に浮いている、白く光るバレーボールくらいの球体を紹介する。
『ええっ!?』
ミコトとロイは驚きの声をあげる。
ミコトの会ったことがある神様は、白髪白髭のおじいさんだった。
それなのに、ボール!?
「神様って、人型じゃないんだ……」
ロイも神様が球体なことに、驚きを隠せないようだ。
「神様は実体がないんだって。私の神様イメージがコレなんだー」
セイラの言葉に、ミコトは白髪白髭おじいさんがミコトのイメージである事を思い出した。
セイラのイメージは、白い球体、ということだ。
「神様、前にミコちゃんと約束したセタお兄ちゃんを治すってやつ、説明聞きに来たんだけどさー」
セイラは、神様相手なのに話し方が軽い。
ミコトとロイは顔を見合わせる。
(確かに約束したね。じゃあまずセタの現状から話すね)
頭に「神様」の声が直接響いてくる。
……というか、神さまの話し方も軽くない?
白髪白髭おじいさんの時とかなり違う!
セイラはその場にストンと座る。
ミコトとロイも真似をして座る。
(セタの症状はアリアンの制約に基づくものなんだ。アリアンは愛する者を絶対に守るために、自身に守れなかったら死する制約を課して力を得ているんだよ。つまり、セタを治すためには、セタをアリアンじゃなくするしかないんだ)
「アリアンじゃなくする……?」
ロイは首を捻る。
(アリアンを辞めてもらうってこと。アリアンの記録で分かったと思うけど、アリアンたちは、自身の力に誇りを持っていた。どんなに辛くてもアリアンを辞めた先祖は一人もいない)
「それ、辞め方が分からなかっただけじゃ……?」
ロイは素直な意見を言う。
ミコトもそう思ったけど、誇りと言われた後には言いづらかったのだ。
(本気で要らないって思えば辞められるんだよ。もちろん人並み外れた力は失うよ。セタはそうは思っていないってことだね)
アリアンの力って、そんな感じなのか!
でも、人並み外れた力を本気で要らないって、なかなか思えないかも……。
ロイは腕を組んで何かを考え込んでいるようだ。
(でもセタは人並み外れた精神力で我慢しすぎた。あの状態でアリアンを辞めたら、間違いなく死んでしまうから、オススメ出来ない)
「そんな……!」
ミコトは思わず声を上げていた。
セタが死ぬ方法を聞きに来たわけじゃないのだ。
「死んじゃう前に、ミコちゃんが治せばいいんじゃないの?」
セイラの言葉に、ミコトとロイは「それだ!」と言った。
(あー、あれね。まさかミコトがこんな能力を身につけるとは思わなかったよ……)
ミコトはビクッと体を強張らせた。
もしかして、世界を変えたことになってしまった……?
「……俺、神様? に言いたい事があるんだ」
ロイは声のトーンを落とす。
(もう分かってるよ。ミコトが望んだわけでもない転移に、さらに脅しをかけてミコトを怖がらせたことだよね?)
「そこまで分かってるなら、何でミコトに存在を消すなんて……!」
ロイは立ち上がって、球体を睨む。
「ロイ……」
ミコトも立ち上がってロイのシャツを掴む。
おそらく実体じゃないのだろうが、掴んだ感覚がある。
(仕方なかったんだ。今までの聖女は、結構やりたい放題だったから……。歴代聖女たちは10年で帰すから大目に見てやれたけど、ミコトは一生エラルダで過ごすことになるから、ちゃんと言っておかないと、と思ったんだよ。でもまさか、こんなにクソ真面目な子だったなんて……)
……え?
クソ真面目……!?
「うん、ミコちゃんは、クソ真面目」
セイラは頷く。
(ミコトが怯えて過ごすことになるなんて思わなかったんだ。世界を変えて欲しくないのは本当なんだけど、こちらの不手際で転移してしまったのに、文句の一つも言わないし、努力は惜しまないし、クソ真面目すぎるよ)
「確かにミコトはクソ真面目だけど、じゃあ途中で教えてくれても……」
「ま、待った!!」
ミコトはロイの言葉を遮る。
「クソっている? 真面目だけでいいよね!?」
ロイとセイラはハッとした表情になる。
神様がハッとしたかどうかは分からなかったが、以後「ミコトは真面目」というていで話が進む事になるーー。




