202.歴代聖女の娯楽
第2エラルダ国のロイとミコトの部屋で、ソマイの女性を惚れさせてしまう能力の治療が行われた。
治療は成功した、とセイラにはハッキリ分かっていた。
能力の元からなくなっていたので、ソマイはもう二度と意図せず女性を惑わしたりしないだろう。
セイラがロイとミコトの部屋を出ると、護衛のリントと目が合った。
「……成功しましたか?」
リントが外用の敬語でセイラに話しかけてくる。
「成功したよ……」
セイラはスタスタと歩き出す。
「……もう第1に帰ろうよ。マリーのつわりが始まったら馬車移動も辛いしさ」
セイラは歩きながらリントに言う。
「……承知しました。手配します」
リントはセイラをマリーとセイラの部屋まで送ると、ドア前にいたコランに事情を話し、去って行った。
「お疲れ様、セイラ。どうだった?」
部屋に入ると、ソファに座っていたマリーはセイラを見て微笑んだ。
セイラはベッドにドサッと倒れ込む。
「どうもこうもないよー。治療は成功したけどさ、顔だけイケメンの2人がバチバチと牽制しあう中、その2人に触られて治療するミコちゃんと、治療後に泣き出すソマイちゃん、何故か辛そうなアイツと何も知らずに眠りこけるミコちゃん! 実際に見ると地獄絵図だよ! カーサ姉ちゃんも、ひーってなってたよ!」
セイラの叫びに、マリーは「あらあら」と苦笑する。
「2人とも脳筋なんだから、いっそ殴り合いのケンカでもすればいいんだよ!」
「それも面白そうだけど、立場的にそうもいかないでしょうね。それに、2人の間でもう話はついてるようだし?」
マリーは余裕の笑顔でセイラに言う。
セイラは顔をしかめる。
「この間の男同士の腹を割った話ってヤツ? バッカじゃないの!? 腹割ったくせに、割り切れてないじゃん!」
「まあ、そんなものよ。男なんて……ね」
マリーは目を伏せる。
セイラはベッドから起き上がって、ソファに座っているマリーの隣に腰掛ける。
「あー、早く産まれないかなー。私、この世界ではダラダラして楽しいことだけ考えていたいんだよねー」
セイラの言いように、マリーはウフフと笑う。
「次の聖女もセイラならいいのに。裏表はないし、野心も欲もないし、男に興味はないし、聖女の条件にピッタリだわ」
「そうなの? オッサンたちはそうは思ってないよー?」
セイラはアハハと笑う。
マリーは真面目な表情になる。
「そんなことないわ。歴代聖女様も一癖ある方ばかりだったらしいの。絶対恋人をつくるし……。1人ならいい方よ? ハーレムみたいにイケメンを侍らせた聖女様もいたらしいわ」
マリーの言葉に、セイラは「マジか!」と驚く。
「聖女様の仕事はきっと暇なのね……。娯楽も少ないし、恋愛は最高の娯楽なのよ」
「恋愛が最高の娯楽ぅ? この3食昼寝付きニート状態が最高なのに、みんな分かってない……」
セイラはそこまで言って、「そっか、その手が……」と呟き、考え込む仕草をした。
「セイラ?」
「ん? 何でもないよ。リントに帰ろうって言っといたから、準備しよーよ。今回は寝てるミコちゃんも連れて帰るよ!」
セイラの言葉に、マリーは「そうね、それがいいかもね」と微笑んだ。
リントはロイとミコトの部屋をノックした。
少し間があり、ロイの「どーぞ」という声が聞こえる。
ドアを開けると、陽の光で明るい部屋のベッドに寝かされているミコトと、そのベッドに座り込む暗いロイの姿……。
「暗い!! 」
リントは思わず叫ぶ。
「え? そう? 部屋明るいけど……」
ロイは部屋を見回す。
「部屋じゃなくて、ロイさんが暗いんです! 治療は成功したんですよね? 何で落ち込んでいるんですか!?」
リントの言葉に、ロイは「何でだろう……」と呟く。
これはダメだと悟ったリントは、用件を伝える事にした。
「聖女がもう帰るとのことなんで、13時頃に馬車を出すんですけど、寝たままのミコトも連れて帰ると言っていて、ロイさんはそれでいいですか?」
「……そうだね。確かにミコトがこれ以上第2にいても……。俺もミレイに挨拶したら帰るよ。キダンさんの尋問も気になるし……」
ロイは納得したように頷く。
「ミコトは馬車で、ロイさんは走って帰ってくる……でいいですか?」
実はリントは、ロイのこの規格外な足の速さにまだ慣れないでいた。
「そうだね。ミコトの護衛はタリスに言っておくよ。ウミノさんやネルさんも名目上は侍女だから一緒に帰らせてくれる?」
「はい……。ミコトの護衛はやっぱりまだ必要なんですか?」
リントは心配そうな表情をしている。
ロイはふっと笑う。
「古代魔法は夢があるそうだから、きっといつまでも狙われちゃうだろうね。しかも治癒能力狙いの輩が現れる可能性も……」
ロイの言葉に、リントはハァーと息を吐く。
「本人はあんなにアホなのに……」
「だから、アホじゃないって……。まぁ、俺が一生守るから、別に誰が狙ってきてもいいんだけどね」
ロイは微笑むと、立ち上がった。
「なんか、やるべき事を思い出したよ。ありがとう、リント」
「俺は何もしてないですよ」
リントは苦笑し、ロイの「一生守る」という言葉に、妙に安心していたのだった。




