200.マリーの妊娠
第2エラルダ国の国立宿泊所のミコトとロイの部屋のベッドで、ロイは眠っているミコトの髪を触っていた。
時計を見ると、夜10時である。
ロイは今日のリオの話を思い出していた。
リオの言葉に嘘はなかった。
リオは悪人ではなかったのだ。
ミレイもカーサもリオを慕っていた。
ミコトも命を狙われたのに、リオを恨んでいない様子だ。
「いっそ悪人だったら……」
ロイは呟いて、眠っているミコトを見つめる。
ミコトは分かっていない。
ロイの気持ちがどれだけ重いかを。
ロイからすれば、ミコトを殺そうとしたリオは極刑に値するし、ミコトを助けてくれたとはいえ、ソマイの治療もどうだっていい。
治癒能力を使用すると、またミコトは眠ってしまうからだ。
今後、治療する患者が増えたら、ミコトはその度に眠ってしまう。
ミコト本人も不安に思っていた、置いていかれる状態がずっと続くのだ。
ロイ自身も、ミコトの寝顔もいいが、やはり起きていて話がしたいし、あの黒い瞳で見つめていて欲しい。
いっそ、誰の目にも触れないところへミコトを連れていきたい……。
こんな気持ちを伝えても、ミコトは、やる事あるでしょとか、みんなと一緒がいいと言うのだろう。
ロイの気持ちの重さを本当には分かっていないのだ。
ふと、ドア前に人の気配がしたので、ロイは起き上がりシャツを着て、ドアを開けた。
「リント、どうしたの?」
ドア前に立っていたのはリントだった。
「ちょっと話が……、あの、ミコトは……」
「寝てるけど……、多分起きないから、話なら出ようか?」
リントは「お願いします」と小声で言う。
ロイは、騎士団で何かあったのか? と任せきりなことを反省しながらリントの横を歩いていたが、リントに連れてこられた部屋はセイラとマリーの部屋だった。
これは、仕事をリントに押し付けすぎなロイへの糾弾かもしれない……!
仕方ない、ここは、どんな暴言も受け入れよう……。
ロイは覚悟を決めて、リントの後に続いて部屋に入った。
第2エラルダ国の国立宿泊所のセイラとマリーの部屋で、セイラはベッドの上にのぼり、仁王立ちをした。
「重大発表をします!」
セイラは高い位置から、ソファに腰掛けたロイとリントとマリーを見下ろして、堂々と宣言する。
糾弾ではなさそうだが、嫌な予感しかしない、とロイは体を強張らせる。
「マリーのお腹に赤ちゃんが出来ましたー!」
「ええっ!?」
ロイは立ち上がって、リントとマリーを見る。
マリーは余裕で微笑んでいるが、リントは頭を抱えている。
「あ、おめでとう……でいいんだよね?」
ロイは恐る恐る対照的な態度の2人に言う。
マリーは「ありがとう」と笑顔でいい、リントは「それでいいんですけどね!」と顔を上げた。
「なんで聖女はすぐに言っちゃうの? 俺にだって順番が……」
「あら、順番なら結婚前だしもう間違ってるじゃない」
マリーの指摘に、リントは「すみませんでした!」と頭を下げる。
上司のロイからして、いたたまれない光景である。
「そんなのいいんだよー。私の世界では授かり婚って言うくらいなんだから! んで、なんですぐコイツに知らせたかというとね……」
セイラはベッドからぴょんと飛び降りる。
「マリーの子どもには絶対に幸せになって欲しいんだ! だから、同じくらいにミコちゃんにも赤ちゃんを産んでもらって、そしたら、その子は国家特別人物確定でしょ? ということは、将来は金持ちだよ! ね、マリーの子どもと結婚させようよ!」
「ちょっと待った!!」
リントが叫ぶ。
「聖女様、人の子どもで遊ばないでください! しかもアンタその頃はここにいないよね!」
いつも割と冷静なリントも、さすがに涙目である。
「セイラ、女の子が産まれるとは限らないし、ミコトも男の子を産むと限った訳じゃないわ」
マリーも計画? に無理があることを伝える。
「えー、マリーには女の子産んで欲しいし、ミコちゃんには男の子産んで欲しいんだよー」
どうやらセイラの願望らしい。
ロイとマリーとリントは溜息をつく。
「あのさ、聖女……、この話、ミコト抜きで話すと、またミコトが気にするからさ……」
ロイは、置いていかないでと言ったミコトを思い出しながら言う。
「だって、ミコちゃんに言うと、変に真面目だから身構えちゃうでしょ? アンタがリントみたいにしれっとやって妊娠させないと……」
「わー! 聖女なんだから、その辺りは、濁して言って!」
セイラの発言を、ロイは慌てて止める。
マリーはクスクス笑い、リントはうなだれている。
「……聖女、俺とミコトはまだやることがあるんだよ。聖女にも協力してほしいことなんだ。だから……」
「やることぉ?」
ロイは、不満げなセイラに、ソマイの治療の件と、神様に会い、ミコトの無事を両親に伝える件と、セタを治す方法を神様から教えてもらう件を話した。
セイラは「そっか……」と呟く。
「ソマイちゃんとお兄ちゃんはともかく、ミコちゃんのパパとママの件は私にも責任あるから協力するよ」
「責任……?」
ロイが呟くと、セイラは目を伏せた。
「ミコちゃんがこの世界に来たのは、私が望んだからなんだよ。もちろん、ミコちゃんだけ帰れなくなるって知ってたら望まなかった……。ミコちゃんも私が気にしないようにって、この話を私としないんだよねー」
セイラは3人から顔を背けて、少し震えた声で言う。
マリーとリントはうつむいている。
ロイはふっと笑った。
「聖女のおかげで、俺はミコトに会えたんだね。感謝してもしきれないな……」
セイラはぐるんと振り向く。
「自分のことばっかじゃん! どうせさ、ミコちゃんもおんなじ事言うんだよ! 『ロイと会えたから感謝してる』って! このバカップル!」
「感謝したのに怒られた……」
ロイは苦笑する。
セイラは、ハァーと息を吐いた。
「じゃあ、そのやること全部終わったら、ミコちゃんをしれっとやって……」
「だから! 言葉!」
ロイは叫んでセイラの言葉を遮る。
もちろんロイだって、ミコトとの赤ちゃんなら是非欲しい。
しかし、アリアンの女児のこともあるし、いろいろ複雑なのだ。
セイラはどうしても、子ども同士を結婚させたいようで「2歳差くらいまではいいよね?」とマリーに確認をとっている。
リントは手で顔を覆って溜息をついている。
この計画? をミコトが知ったらどういう反応をするのだろう……と、ロイは想像してしまうのだった。
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