198.古代魔法と300年前の真実
第2エラルダ国のミレイの家で、ミコトとロイとミレイとアサキとリオとカーサは、黙ってケーキを食べていた。
ミコトのケーキが一番大きかったため、最後はミコトが食べ終わるのを待つ形になり、ミコトがケーキを切り分けるフォークの音だけが静かな室内に響く。
何、この、いたたまれない時間は!?
一人大きなケーキを選んだってだけで恥ずかしかったのに!!
すると、リオが「ミコトさんは……」と口を開く。
「どうしてケーキをその大きさにしたんですか?」
え、まさか、食いしん坊断罪!?
ミコトは真っ赤になり、涙目になる。
「あ、いえ、変な意味ではなくて、その、6人いたので、6分の1を意識したのかと思いまして……」
リオは少し焦ったように弁解する。
「そ、そうですけど……」
そこまで分かっていて、リオは自分のケーキを6分の1にしなかったなんて、やはり、食いしん坊断罪……
「ろくぶんのいち……とは?」
アサキは言いながら、ミレイの口を拭こうとして、断られている。
ミコトは「ん?」と顔を上げる。
「聖女様の世界で習う算術です。聖女様の世界では、効率よく計算する技術が発展しているのですよ。ミコトさんは、8分の1と4分の1を意識した後、間の6分の1を割り出し、その大きさをアサキに示したのです」
え、いや、割り出したとか、そんなすごい話ではないですけど!?
目分量ですけど!?
「あー、ミコトは計算早いよね」
ロイは頷いている。
「お姉ちゃんは、頭もいいんですね!」
アサキはニッコリ笑う。
食いしん坊より、いたたまれない!!
ミコトは赤面する。
「ミコトさんは、やはり、聖女様と同じ世界からいらした方だったのですね……」
リオは再び頭を抱えて、息を吐いた。
カーサとアサキとミレイは驚いた表情をしているが、言葉には出さないでいた。
「あの、リオさん。この事は第1でも一部の者しか知らないんです。どうか他言無用で……」
ロイは頭を抱えているリオに言う。
「もちろんです。でもこれで全てが繋がりました」
「全て……とは?」
リオの言葉に、ロイは首を傾げる。
「古代魔法適性の陽性反応とソマイの能力が効かないことです。私も若気の至りで古代魔法に手を出したことがありましたが、すぐに、この世界の人間では成し得ないことが分かりました。それに、ソマイの能力は血縁の女性には効かないのですが、時には男性にも効いてしまうほど強いものなのです」
リオはおそらく重要なことを真面目に話したのであろうが、ロイとミコトの頭の中に浮かんだのは、「ノエル、やばい?」ということだった。
今まで黙っていたカーサは、「あの……」と口を開いてミコトを見た。
「図々しいお願いだと思うのですが、ソマイの病気を治してはいただけないでしょうか? 私、あの子が不憫でならないのです」
「あ、でも、ソマイさんのは病気ではないのでは……」
ミコトはチラリとアサキを見る。
アサキと同じ、特異体質というか、特殊能力というか……そんな感じだとミコトは思っているのだが……。
アサキはミコトの視線に気付くと、軽く頷いた。
リオはロイを真っ直ぐ見る。
「ロイさんはお気付きだと思うのですが、ミコトさんの能力は、治癒というよりは、体や精神の異常を元に戻す、というのが本質ではないのでしょうか」
リオの言葉に、ロイは苦笑した。
「リオさんには敵いませんね……。確証はありませんが、俺も実はそうかなと思ってます」
「え、そうなの?」
ミコトはロイを見る。
ロイはミコトの頭を撫でた。
「知識は、あった方が効率が上がるということだと思う。じゃなかったら、ハリーもミレイも治せていないからね」
なんと!
それなら、あの地獄のような医学の勉強は一体……。
いや、もちろんあの勉強は自分のためにはなったけど。
「あの、私、ミコトさんの治療を受けている時、体全体が温かくて、その、気持ち良かったの。だから、なんて言うか、ピンポイントじゃなかったって感じで……」
ミレイがベッドから、身を乗り出して必死に訴える。
「ミレイ! そんなに声が出せるなんて!」
「ミレイさん! そんなに元気に……!」
リオとアサキは涙ぐんでいる。
「えーと、なので、確率は低いかもしれないんですが、もしかしたら、ソマイさんの体質を治せるかもしれないです」
ロイはミレイと涙ぐむリオとアサキを見た後、カーサに言う。
カーサはミコトを見る。
「ミコトさん、失礼を働いたのに申し訳ないのですが、なにとぞ……」
「あ、あの、私もソマイさんに助けていただいたので、ぜひ、やらせて下さい!」
ミコトは言いながら、今だにソマイにお礼を言っていないことを思い出した。
これはもう、治療をお礼にするしかない……!
ロイは、リオに向き直る。
「あの、リオさんは、古代魔法がこの世界の人間には成し得ないとすぐに分かったんですか? 古代魔法研究所は第2にもありますよね?」
ロイの言葉に、リオは苦笑した。
「ロイさんもご存知だと思いますが、国家特別人物は全ての蔵書が閲覧できますよね。私はその特権でこの結論にたどり着いたんですよ。でも、まあ、古代魔法は夢のある話ですので、この事は公表していないんです」
ロイはサッとリオから目を逸らす。
これは、ご存知も興味もない顔だ。
「そうだとは思ってたけど、やっぱりそうなのね……」
ミレイはアサキと共に頷いている。
「ちなみに、ロイさんや聖女様の力は、古代魔法ではなく、神そのものの力なんです。300年前の大戦争時、神からいわゆる古代魔法を与えられたのは5人です。あとの2人、初代アリアンと聖女様は、その5人の手伝い兼見届け役として神と同等の力を与えられた、いわば準神様なんですよ」
『えええっ!?』
ロイとミコト、カーサとミレイとアサキの声が重なる。
リオは驚いたように瞬きをした。
「ロイさんはご存知ですよね? 機密蔵書の5番の10の項の部分ですよ」
ロイはリオから目を逸らし、涙目でミコトを見る。
うん! ロイがご存知な訳ないよね!
困っている旦那様をフォローするのは妻の役目である!
ミコトはガタッと席を立った。
「あの! ロイは、普段は鍛錬に全力を注いでるんですよ! だから、本を読んだりはあまり……全然……、えーと、その、つまり、頭を使うこと全般やれないんです!」
ミコトの立ち上がってまでの発言は単なる暴露であり全くフォローになっていない、と全員が思った瞬間だった。




