197.リオの告白
第2エラルダ国のミレイの家で、ミコトとロイとリオとカーサは、同じダイニングセットに着席していた。
ミレイはベッドの上でクッションを背にして体を起こしている。
アサキは紅茶を運んでくると、ダイニングテーブルに置き、大きなホールのチーズケーキを真ん中に置いた。
どうやら、アサキはケーキも作れるらしい。
「功労者のお姉ちゃんからにしましょうか。どれくらいの大きさがいいですか?」
ミコトはバッとアサキを見上げる。
リオとカーサは「お姉ちゃん……」と呟いている。
「……大きさを、選べるんですか?」
「はい。ホール丸ごとは困りますが……」
さすがに、そんな空気の読めないことはしない。
ホールケーキの一人分と言えば、8分の1である。
しかし、とミコトは部屋の人数を数えた。
6人である。
6分の1でもいいはずだ。
「これくらいでお願いします」
ミコトは大体6分の1と思われる幅を指で指し示す。
アサキは微笑むと、ミコトにチーズケーキを切り分ける。
ミコトとしては、かなり遠慮した判断だったのだが、なんと、全員、10分の1くらいの大きさしか、食べないではないか!
ダイニングテーブルに置かれた、ミコトの分だけ大きいチーズケーキを見て、ミコトは赤面した。
「ロイまで、ひどい……」
「いや、俺、さっき食べすぎたから……」
そう、ロイは騎士団の食堂で、ミコトが注文しすぎた分を全部食べてくれたのだ。
つまり悪いのはミコトである。
「あ、では、話をしましょうか」
リオは見かねたのか、口を開いた。
アサキがミレイのベッド横の丸椅子に腰掛けて、リオの話が始まった。
「私とレイは、同じ村出身の幼馴染でした。と言っても、レイは家の事情で、8歳から曲芸団に入団し、一緒の村で過ごしたのは8年だけでしたが……」
幼馴染だったのか。
リオとレイは同い年で、レイが村を出た年齢は奇しくもロイが村を出た年齢と一緒だ。
「レイは2年ほどすると、曲芸団のトップになっていました。ファンも多く、私もその一人で、お金を貯めて年に一回は公演を見に行きました。でも、レイの親父さんは、そのレイが稼いだお金を賭博で使い込んでいたんです」
ロイは下を向く。
ロイにとっては、祖父なのだ。
「私はそれが許せませんでした。幸い私は村の学校で成績優秀と称され、第2の政務官になる事が決まっていました。私なら、レイをあの家から助けられると思うようになっていました。でも、私が出世するより先に、レイは、第1の国家特別人物のグレンさんと結婚することになりました」
カーサはロイを少し見て、また目を伏せた。
「グレンさんは、当時60歳を超えていたと思います。レイの優れた運動能力を買われた結婚でした。レイは実家の借金をこの結婚で全て返済し、実家との縁も第1が間に入る事で切ることが出来ました。これはとても良い事だったのですが、私はお金さえあれば私が助けることが出来たと思っていました。まあ、当時15歳の浅はかな考えだったのですが……」
リオは自虐的にふっと笑う。
「もうそこからは、無我夢中でした。第2の数々の問題点を洗い出し改善することで、私は20歳で第2の代表になることが出来ました。グレンさんはすでに他界しており、レイは息子のロイさんと故郷の村からほど近い山奥で暮らしていました。私は代表になった翌日、レイを迎えにいったんですよ。断られる可能性なんて考えもせずに……」
翌日ということは、代表になったら迎えに行くと心に決めていたのだろう。
これは、幼馴染やファンではなく、恋情だ……。
「レイは私との再会を喜んでくれましたが、結婚の話を切り出すと、『生涯グレンさんの妻でいたい』と断られました。私には意味が分かりませんでした。ロイさんは時期が来たら第1の騎士団に入団する。そうしたら、レイはまた一人になるというのに……」
意味が、分からなかったのか……。
ミコトは目の前のケーキをただ見つめていた。
「私は休みの度に、レイの住む山に通いました。3ヶ月程通った頃、レイは本当は寂しさを抱えていることを打ち明けてくれたのです。私はレイと心が通じたと思いました。でも、レイは『ごめんなさい』と言い、涙を流すだけで……。私は、完全に振られてしまったと思い、その日は一日中フラフラと歩いていたのです。その時に見かけたのが、泣き叫ぶカーサでした」
ずっと下を向いて話すリオに、カーサは小さく頷いている。
「私は大金を支払い、カーサを助けました。泣き叫ぶ金髪の少女の姿はレイを彷彿とさせたのです。そんな私の心なんて知らないカーサは、私に純粋な好意を寄せてくれました。私はその好意にとても救われたのです。報われない恋はやめて、カーサと生きていこうと決心しました」
でも、レイはその間に、ミレイを産んでいたのだ……。
「レイのところへは、幼馴染の友人の様子を見に行くという理由で、私か部下が3ヶ月おきに訪問していました。第1も3ヶ月おきに来ていたようです。レイとは変わらず、世間話をするだけでしたが、私にはカーサもいましたし、このまま友人でも良いと割り切れていました」
リオは少し微笑んでいた顔を曇らせる。
「そうして3年が経ち、代表として忙しくしていた私は、半年ぶりにレイのところへ行きました。急躍進した私には政敵が多く、この頃は護衛の騎士団長と行動を共にしていました。そして麓の村でレイが危篤だと聞いたのです……」
リオは頭を抱えた。
「亡くなったレイと私にそっくりなミレイを見て、私は激しく後悔しました。半年も空けなければ、いや、3年前、諦めずに無理矢理にでもレイを連れて行けば……! レイがミレイを隠していたことはすぐに分かりました。私はレイへの無念を全てミレイに注ぐ決意をしました。ミレイを連れて行かないでくれと抵抗するロイさんを傷つけてでも……!」
リオの涙が、リオの膝にポタポタと落ちてズボンに染みをつくる。
「私は恐ろしかった! ロイさんがミレイを取り返しに来る日が! いつ第1が私の罪を糾弾しにくるのか! ロイさんはあの時の怪我で記憶を失くしているようでしたが、いつ思い出すのかと……!」
「それで、俺を殺そうとしたんですか……? 聖女の召喚が目的だったのかと……」
ロイは握った手を震わせている。
リオは、小さく頷く。
「どちらも……です。私がどんなに政務をこなしても、聖女を召喚できる第1の財政には遠く及びませんでした。10歳で発病したミレイの病気のこともあり、とにかくお金が必要でした。私はいつからか、第1とアリアン家を恨むようになっていたのです。アリアンさえ存在しなければ、こんなことにはならなかったのに……と」
ロイは「リオさん……」と小さく呟く。
「ロイさんを殺すために、私はミコトさんを調べ始めました。でも、どんなに調べても、ミコトさんの10歳以前の記録が出て来なかったのです」
ミコトは咄嗟にロイを見た。
ロイはミコトを見て小さく頷く。
「ミコトさん殺害依頼の決定を下したのは、側近で闇組織準メンバーのジンヤです。私の側近たちは、私とは別の思惑でアリアンを邪魔に思っていましたので、煮え切らない私の態度に業を煮やしたのでしょう。私はこの時には、ミコトさんは聖女様と同等の方なのではと思っていましたので、ソマイに休暇を言い渡して第1に行くように仕向けました。私は見張られていたので、直接的な言い方は出来ませんでしたが、ソマイは分かってくれたようでした」
(ソマイさんは分かっていて、助けてくれたんだ!)
ミコトは唇を噛み締めた。
「あとは、ご存知の通りです……。本当に申し訳ありませんでした」
リオは最後にはっきりと謝罪の言葉を述べ、深々と頭を下げた。
カーサは下を向き目頭をハンカチで押さえている。
ミレイとアサキは下を向き黙っている。
この話は、ミコトがどうこう言える話ではない。
命を狙われたのは事実だが、それを恨む気持ちが何故かない……。
ロイはふーっと息を吐いた。
「……リオさんへの沙汰は、第1から追って連絡をします。実行犯の闇組織とリオさんの側近たちはすでに捕縛しています。リオさんは逃げる意思なしと判断しましたので、このまま連絡をお待ちください……」
「承知しました……」
リオとカーサは頭を下げる。
「それでは、俺はこれで……」
ロイは席を立つ。
ミコトも慌てて席を立つ。
こんな時なのに、ケーキ食べてなかったな、とミコトの分だけ大きいチーズケーキをチラリと見る。
ロイは再び、席に座る。
「……ロイ?」
「ケーキ、いただいてから、にします……」
も、もしかして、ミコトのケーキへの視線を感じとられた!?
ミコトも顔を赤くして、再び席に座ったのだった……。




