195.ミコトの目覚め
第2エラルダ国の国立宿泊所のロイとミコトの部屋。
複数の人の話し声が聞こえて、ミコトはうっすら目を開けた。
陽の光が差し込む明るい部屋に、人が何人かいる。
セイラとマリー、ウミノとネル、ノエルもいる。
あとはタリスとアサキとミレイ……。
(ミレイさん、車椅子に座れているということは、治った……?)
ミコトが起きあがろうとすると、タリスが突然立ち上がった。
「お、俺、ウミノさんを、ずっと、可愛いなぁって思ってた……!」
部屋にいた全員が、タリスの言葉に「おお!」と言う。
ミコトは咄嗟に再び目をつむった。
間違いない!
今、ものすごくいいところだ!
邪魔してはいけない!
というか、続きが気になる!!
しかし、ミコトの願いは虚しく、部屋のドアが突然バーンと激しく開き、当然、全員そちらに注目して話をやめてしまった。
「ミコト! 良かった! ミコト!」
部屋に入ってきたのはロイだ。
ロイは瞬時にミコトのベッドまで来て、ミコトを抱き起こす。
「うぐっ……」
ロイの力が強すぎて、ミコトはうめき声を出す。
「ミコちゃん、起きてたの!?」
セイラは驚いて立ち上がる。
「ミコトさん! 私、お礼を……」
ミレイは思いのほか大きな声を出す。
アサキも「私もお礼を申し上げたいです」とミレイの車椅子を押す。
お礼、ということは、治療は成功したんだ。
良かった……。
それで、さっきの続きは……
マリーとウミノとネルは「よかったぁ」と口々に言い合い、ノエルとタリスは入り口にいる護衛のコランとハリーに伝えに行っている。
あの、さっきの話はもういいの!?
続き、知りたいんですけど!!
「良かった、ミコト……! 丸一日以上起きないから、さすがに心配で……」
ロイはミコトをきつく抱きしめる。
丸一日!?
そんなに寝てたの!?
なんか、もう、ウミノとタリスの話の続きをお願いします! なんて言える雰囲気ではない。
「ああ、ミコト起きたんだ。あ、ノエル、悪いけど、第2の騎士団へ行って、ソマイさんに知らせてくれる? 約束してたからさ……」
リントは部屋へ入ってくると同時に、ノエルに指示を出す。
ノエルは元気に「了解!」と言うと走り去った。
ノエルにソマイのところへ行かせるって、どういう事!?
しかもノエルも嬉しそうだし!
リントも、ノエル×ソマイ派なの!?
ミコトはロイに抱きしめられながら、困惑する。
「あ、ロイ君! ミコトちゃん起きたのは良かったけどさぁ、今後こういう事やめてよねー」
ミコトの目の端に、部屋に入ってくるキダンと見たこともない女性がうつる。
「チェコさん!?」
アサキが大きな声を出す。
えっ!?
あの女性がチェコさん!?
「アサキさん、お久しぶりです」
チェコは微笑んだ後、「実は……」とキダンと仲良さそうに話し始める。
どういう事?
キダンはチェコにこっぴどく振られたんじゃなかった?(勝手な想像)
ミコトの頭の中は、疑問符だらけだったが、一つだけハッキリと分かったことがあった。
治癒能力を使った後、半日〜一日眠ってしまうその間に、どんどん置いていかれる、ということだ。
みんなの話題についていけない、いわば、軽い浦島太郎状態になってしまうのだ。
そのうち、ミコトが眠っている間の説明さえ、誰もしてくれなくなるかもしれない……!?
「ふっ、うっ……」
ミコトの目から、じんわりと涙が溢れ出す。
「ミコト!?」
「ミコちゃん!」
「ミコトさん……!」
泣き出したミコトに、全員が驚く。
「あ、ほら、二人きりにしてあげようよ!」
キダンが慌てて提案する。
全員、そうしようとばかりに、部屋を出ていく。
最後にセイラが出て行き、ドアがパタンと閉まる。
そして、また、誰もいなくなった……。
「ミコト大丈夫……?」
ロイは腕を緩めて、ミコトを見つめる。
「……てかないで……」
「え?」
「わ、私が寝てる間に、何があったの……!? 私だけ置いていかないでよー!」
「ええっ?」
ロイは呆然とした。
みんなが、ミコトの目覚めを待っていた。
ミコトはチェコの言葉を借りて言うのなら、「世紀の瞬間」をやってのけたのだ。
そんなミコトを、誰が置いていくというのか。
でも、そうか、とロイは微笑む。
ミコトにとっては、特別な治癒能力より、長時間眠ってしまって、みんなの中に入れない事の方が重大なのだ。
ロイはミコトの頭を撫でた。
「置いていかないよ。眠っている間のことは、全部ちゃんと教えるから」
「じゃ、じゃあ、タリスさんとウミノさんは、結局ちゃんと付き合ってるの?」
ミコトの質問に、ロイは首を傾げた。
「あー、そういえばどうなったんだろう……?」
ミコトは「えー」と顔をしかめる。
「じゃあ、ノエルとソマイさんのカップリング計画は!?」
「えっ!? そんな計画だったの!?」
「キダンさんとチェコさんはうまくいったの?」
「あ、途中で出てきちゃったから、よく分からない……」
ミコトはガックリと肩を落とした。
「ロイは何も知らないじゃんー!」
「俺なんかみんなより起きてるのにね?」
「ホントだよー」
ロイは不満げなミコトの頬を触る。
せっかくみんなが気を利かせてくれたのだ。
リオとの約束の16時までは時間がある。
ゆっくりミコトに顔を近づけたその時、ミコトのお腹が、ぐぅーと鳴った。
今度はロイが、ガックリと肩を落とした。
「丸一日何も食べてないから、そりゃそうだよね……」
ミコトは赤い顔をして「ごめんなさい……」と呟いた。




