194.「カラス」と「黒鳥」
第2エラルダ国の国立宿泊所のキダンとホシナの部屋に、ロイとキダンはチェコを連れてきていた。
ロイは部屋にいたホシナをチェコに紹介する。
「こちらはホシナといいます。闇組織について詳しいので、同席してもいいですか?」
チェコは「もちろんです」と頷く。
ロイは、これは……と考えた。
チェコが良いと言ったとはいえ、背の高い男3人に、華奢な女性1人である。
もちろん、チェコに変な真似はしないが、これでは不安かもしれない。
「俺、誰か女性を連れてきます」
ロイが部屋を出ていこうとすると、チェコは「その必要はありません」と言った。
「私はロイさんを信用しています。この状況でも何も問題ありません」
「あ、ありがとうございます……」
信用しているのはロイだけなのか、とロイの目が泳ぐ。
4人は、部屋のソファに移動して、キダンとホシナ、ローテーブルを挟んで、チェコとロイが座る。
「私たちの『カラス』は、200年前初代聖女様を信仰する団体として発足したそうです。発起人は初代聖女様の恋人……とも呼べる男性でした」
チェコの言葉に、ロイとキダンは、ヤトラの家で見た絵を思い出していた。
「その男性が今のカラスの代表である兄のマサと私の先祖にあたります。まあ、ぶっちゃけてしまうと、元の世界に帰ってしまった聖女様をいつまでも忘れられなかった未練がましい男が、つい作ってしまった同好会の様なものなんです」
チェコはふっと自虐的に笑う。
「ぶっちゃけましたね……」
ロイは苦笑する。
「でも、初代聖女様を慕う者が多かったため、同好会は大きくなりました。メンバーも増えたころ、二代目聖女様をお迎えしようなんて話が出たそうです。これに反対したのが私たちの先祖の男です。こうして、同好会は二つに分かれました」
元は一つの団体だった……ということだ。
「私たちの先祖の団体は、今まで通り、ひっそりと活動していたのに対し、二代目聖女様をお迎えした『黒鳥』はどんどん大きな団体になっていきました。そして、悪事を働く様になりました……」
チェコは語尾を小さくして、目を伏せる。
「二代目聖女様をお迎えしていたんですよね? 何故悪事に手を染めたのでしょうか?」
ホシナはチェコに質問をする。
「それは、二代目聖女様が世界を恨んでいたからだと、そう聞いております」
「恨んで……」
ロイの呟きに、チェコは小さく頷いた。
「第1は、聖女様をずっとお迎えしていますよね? でしたら分かると思うのですが、聖女様は不思議な力を使えますが、それ以外は普通の少女なんですよ」
あー、とロイもキダンもホシナも納得する。
「初代聖女様は明るく朗らかな性格でした。でも、二代目聖女様は、全てを恨んでいる様な、心が闇に包まれた様な、そんな性格で、特にご自分の見た目を気にされていたそうです」
「見た目、ですか?」
ロイは首を傾げる。
「はい。初代聖女様は……、美人ではありませんでしたが、可愛らしい方でした。二代目聖女様も、その、可愛らしかったとは思うのですが、ご自分を不美人だと言っていたそうで……」
ロイはソファから立ち上がった。
「ミコトは、世界で一番可愛くて美人なんです!」
ロイの突然の発言に、チェコは目を丸くする。
「ロ、ロイ君! 今、そういうの要らないから!」
キダンも立ち上がり、ロイの肩を押さえて座らせようとする。
「だって! キダンさんも見たでしょう? 初代聖女はミコトにそっくりなんですよ! 美人ではなかったって、そんな伝わり方が許せる訳ないじゃないですか!」
「ロイ君! 美人の定義は個人の主観で変わるものであって……」
「個人の定義の主観って何ですか!?」
キダンは「バカなの!? 順番変わってるよ!」と頭を抱えた。
ホシナも見かねて立ち上がる。
「二人とも落ち着いてください。女性の前で恥ずかしいですよ」
『ホシナさんに言われたくない!』
ロイとキダンは同時に叫ぶ。
その様子を見ていたチェコは、突然アハハと笑い出した。
「あは、す、すみません……! 第1の方々は面白いんですね……」
男3人は、恥ずかしさに気付いて、静かにソファに座った。
チェコは息を整えて、ロイを見る。
「ロイさん、申し訳ありませんでした。二代目の聖女様の容姿を話す時に、どう表現したものかと思い、初代聖女様を低めてしまいました。私たちも、初代聖女様が一番美人だと思っていますので安心してください」
「あ、いえ、なんか、すみません……」
ロイは頭を下げる。
「でも、なんとなく分かりましたよ。闇組織が罪を犯した美人を狙う理由が……」
ホシナは話を戻すように呟く。
チェコは「はい……」と頷く。
「美人というだけで得をしているのに……という考え方のようです。でも、二代目聖女様が犯罪を指示した訳ではありません。二代目聖女様の劣等感を勝手に解釈して都合よく立ち回った者がいたということなのです。こうして『黒鳥』はいつしか闇組織と呼ばれる犯罪集団になってしまったのです……」
ロイはキダンをチラリと見る。
うつむいていて表情は分からないが、小さく舌打ちをしている。
「今の『黒鳥』には、二代目聖女様を信仰する動きは全くありません。もう、本当に、ただの犯罪集団なのです。『カラス』でも、兄と私以外は、この事を知りません……」
キダンの舌打ちが聞こえたのか、チェコはうつむいて語尾を小さくする。
ロイはふぅと息を吐いた。
「チェコさん、カラスのメンバーにも伝えていない話を教えてくれてありがとうございます」
頭を下げたロイに、チェコは「いえ……」と言い、うつむいたキダンに目をやる。
「すみません、私、余計な事をしたみたいですね……。もう二度と関わりませんので、どうか、ご容赦ください」
チェコはサッとソファから立ち上がると、ドアの方へ歩いていく。
「チェコさん! ちょっと、キダンさん!」
ロイは立ち上がり、キダンを叱責する。
キダンの気持ちも分かるが、ここまで話してくれた女性にとる態度ではない。
ロイはキダンの胸ぐらを掴んで持ち上げた。
そのロイの行動に、ドアへ向かっていたチェコは驚いて立ち止まる。
「俺は、恋愛初心者ですが、このままではダメだって分かります! キダンさん、あんなに泣いてたじゃないですか! あれは演技じゃないですよね!?」
「ちょ……、ロイ君、苦し……」
キダンはうめき声を出す。
「あの、私はもういいので、キダンさんを離してあげて下さい!」
チェコが叫ぶ。
「もういいって、もうよくないです! 何ですか!二人とも大人ぶって! 本心を隠したらすれ違うんですよ! すれ違うと、大切な相手を傷つけるんです! 好きなら好きって言えばいいんですよ!」
ロイの叫びに、チェコとキダンは呆然とし、ホシナは「それは単純すぎますよ……」と呟いた。
突然、ロイはキダンをパッと離す。
持ち上げられていた手を離されたキダンは、床にドサァッと落下する。
「うがぁっ!」
「キダンさん!?」
キダンはうめき、チェコは驚いてキダンの名前を呼ぶ。
「ミコトが、ミコトが目覚めた!」
そう言うとロイは、ホシナを見た。
「ホシナさん! あとよろしくお願いします! 俺、ミコトのところへ行きます!」
ホシナはギョッとする。
「ロイさん正気ですか!? この状況で何をよろしくって……」
しかし、ホシナが言い終わるより前に、ロイの姿は部屋から消えていた。
「嘘でしょ……」
キダンは呟く。
「え、ロイさん? 消えました?」
チェコも瞬きをする。
「いえ、おそらくものすごいスピードで出ていかれたのだと……」
ホシナはそう言うと、ハァと息を吐いて2人を見た。
キダンもチェコも、様々な事情がある中年である。
ロイの好きなら好きと言えばいい理論は通用しないだろう。
「あの、チェコさん」
キダンは立ち上がってチェコを見る。
「はい……」
チェコもキダンを見る。
「僕、チェコさんのこと、本気で好きなんですよ。でも、その、僕も過去にいろいろ訳ありで……」
キダンは語尾を濁す。
チェコはふっと表情をくずした。
「私は、あなたの事は何とも思っていないつもりでした。それなのに、いつかあなたが再びお店に現れて私を助けに来てくれると、そんな子どもみたいな事を考えていたんです。そんな未来、視えたこともないのに……」
「そっか……。じゃあ、助けに行きます。とりあえず、『黒鳥』は潰しましたし……」
「えっ!?」
チェコの驚きの声に、キダンは「潰したのはロイ君ですけどね」と笑った。
ホシナは横で2人の会話を聞きながら、あれ? まとまっている? と、少しロイを見直したのだった。




