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透明な転生少女  作者: 森の手
第三章

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リリス・ランディア・エンベリス

 やはり目の前の騎士は王女だった。

 だが気になるのは―――


「あの、質問してもよろしいでしょうか」


「王女に向かって質問か。いや、ミモザの騎士としてというわけか。いいだろう」


 なにか勘違いされた。


「さっきのお話は、何だったのでしょうか」


「それがリリス様のお力ということ。王宮の一部の者しか知られてない」


「危険が分かる、ということでしょうか」


「話がはやいな」


 そう言われた。


「あの、もう一つお聞きしたいのですか」


「私をがっかりさせないなら申せ」


「お約束はできませんが。さっき、私に幸運が訪れるということをおっしゃっていたのは危険を知るだけではわからないと思うのですが」


 リリスには反応がない。かすかにうなづいたか。


「他に聞きたいことは?」


「そのあとで、結局私が不運になれば研究所に幸運が訪れる。けれど、それによって王宮に悪いことが起こる、と。これはどういうことでしょうか?」


「逆に尋ねる。お前はその話を信じるか?」


「わかりません」


「例えば、今馬車を降りて道端の花売りを殴れば幸運になると言ったら?」


「信じる信じない以前にやりません」


「そこが問題なんだ」


 どういうことだというように、リレクを見る。

 それを受けリレクが言葉を選んでいると、リリスが説明を始める。


「ハタテ・ライトの裏切り。あれはあのままでいいと言ったら?」


 いきなりホットな話題に飛んだ。


「わかりません」


 正直それしか言うことができない。同時にシュアは自分が王女の騎士であることを意識した。

 不用意な発言が人にどうとらえられるかわからない。


「私にもわからない。ただ、あれはあのままでうまくまとまった。私の魔力がそう言っている」


 なるほど。


「だが、それを王宮でそのまま口にすることはできない。現に大打撃だ。王宮もそうだし、瑠民社会があるフルーロード、ドライドンにも。私だって、なんでこの状況がいいのか説明はできない。わかるか?」


 わからないが塞翁が馬という言葉もある。


「シュア」


 リレクが突然口をはさむ。


「あなたの年齢は、リリス様は存じ上げております」


 まじか。


「口外はしない。忌憚ない意見を述べよ」


「わかりませんけど、そもそも何がよくて何が悪いのか、よいつもりでも後々悪いなんてことはざらだと思います」


「そう。私もそれが分からない。流れの行く先に遠く意識を伸ばしていけば行くほどに」


 いつの間にか王女の顔に幼さがのぞく。あと暗い。


「それは、私の経験や想像に余る世界です。ですが、アーテス様は今恋をしておられます。たとえこの恋が報われると王宮が滅ぶとしても、私はアーテス様を応援します」


「「え?」」


 なぜか二人の顔が固まる。


「「……」」


 あれ? 誰もしゃべらない。


「ええと、つまり、リリス様ご自身の心の赴くままに行動すればよいのではないでしょうか、ということなのですが……」


 と急ぎ付け足してみる。


「ああ、うん、そうか。わかった」


「あとで詳しく聞かせて」


「いやです」


 リレクの願いを断り、話は終わった。


「ところで、どこへ向かっているのでしょう」


 そう聞いてみる。


「なんのために私がこの恰好をしたと思ってる?」


 逆にそう問われた。


「騎士の姿では王都では目立ちますかと」


「目立つために着たのではない。リレク、剣を」


「はい」


 リリスの言葉に応え、リレクは空間の穴に手を突っ込んで黒い鞘に収まる細身の剣を取り出す。


「リレク、その黒い穴って、なに? フレイ様も使われてたけど」


「国宝『虚無』の株分け。物を出し入れできる。直属騎士ならみんな与えられるけど、あなたは、どうなんだろう」


 さっき魔法が使えた。もしかしたら使えるかも。

 そうこうしている間にリリスは受け取った剣を腰に差す。


「そろそろ着くわ」


「……何をするのでしょうか」


「我はエンベリス王国首相、ゴーリー・ランディアの娘」


 そんな答えが返ってきた。


「は、はあ」


「王宮から一歩も出られず、王女としての公務と勉学に追われ、眠りにつき、翌日も同じ日を繰り返すという日々」


 あれ? でもミモザやローズなんかはもっと自由に生活しているような。


「しかし夕食の席では、ローズ姉様や末のミモザに至るまで好き勝手やっている。王女の責務なぞ知らぬとばかりに。おまけにお前だ、シュア」


 私?


「お前がきてから、王宮から女子寮、学院、王都に至るまで、王宮はかき乱されている。さらに女王騎士の一角が崩れ、さらにさらに王宮から裏切者が出た」


 確かに色々起こっているが、自分と絡められても。


「そんな中で、私の生活は何も変わらない。今こそ何かなすべきことがあるというのに。同時に他の姉妹たちはそれぞれ馬鹿みたいに生活を楽しんでいる。私が一番王女らしいことをしてるのに」


 馬車が遅くなる。

 やがて止まった。


「あの、ここは?」


「樹王館。神国の領事施設よ」


 そっけなくリレクが答えた。


 神国の領事施設?

 王女が騎士の恰好をして?


「あの、話がまったく見えないのですが」


「逃げたハタテ・ライトはまだ捕まっていない。それはどこかで匿われているということだ。私はそれはここだと確信している」

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