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透明な転生少女  作者: 森の手
第三章

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謎の騎士

 せっかく指輪をもらったので、時間をおいて何度か試してみると、数時間後に第二波を出すことができた。

 そしてやはり連続ではでなかった。

 もちろんその前後も自分の外側に一切魔力は感じない。凪だ。


 ヒシャ研究室は相変わらずミモザ中心に忙しく、シュアは使い走りで学校中を駆け回っていた。

 ハタテのことに触れる者はいない。表面的にも彼女の不在はほとんど感じられない。厳重に蓋をされ、誰もが触れないように気を使っている。

 彼女のおかげで成り立っていたいくつかの実験が頓挫したが、それらも初めからなかったかのように、みんな淡々と仕事をしている。

 

 そんな無理やり変化しないように押しとどめている周囲の状況で、シュアの私生活に大きな変化が一つもたらされる。

 正式にミモザの騎士となったことで、専属の部下を持つことが許された。

 忙しいときや出張などで不在の時にはそのチームで王女の護衛やお世話をすることになる。


「―――ということで私たちがあなたをサポートします」


 学院の呼び出しから帰った夕食の折、サテリンにそう言われた。

 なんならその部下の話も彼女から教えられた。


「ええと、ありがたいのですが、それは、いいのでしょうか?」


 忙しいだろうに。


「いいもなにも、私たち以外誰もいないでしょうが」


 サテリンからその話を聞いているときワンオペも覚悟していたが。


「基本的に同期がやるものなの。ラッグも私たちが面倒見たし」


「あの、ぜひ、よろしくお願いします」


「しっかりしてよ。あなたの働きで私たちの評価も決まるんだから」


「一蓮托生ですね」


「……ほんとうにわかってる?」


「ごめんなさい。騎士の公務と並行してやってくれるのですよね。なんてお礼いったらいいか」


「わかればよろしい。でもわかってない。直属騎士っていっても、あなた教育どころか学校も出てないじゃない。ここから地獄よ。いつでも泣きつきに来ていいけど、逃げちゃだめよ。それができる場所でもないわけだけど」


 本当なら直属騎士は後宮の専用兵士宿舎に住むことになるが、シュアの場合、当面はこのまま寮に住み、学校で仲間たちと最低限の教育を受ける、という方針になった。

 なのですぐ四年生を指図して、みたいなことはしなくてもいいようだ。


 翌日、魔石業者からの直接買い付けを済ませ、研究室に帰ってくると見慣れぬ客がいた。

 漆黒の騎士の制服を着たいずれも長い金髪の少女が二人。一人はリレクだ。シュアを見てあいさつ代わりに軽く目を伏せる。

 もう一人は初めて見る顔だった。リレクに劣らず美しい。

 研究室の静けさの質が違う。緊迫している。

 なんでだろう。王女の直属騎士がいるのは確かに緊張を伴うものだが、ここは王女が出入りする研究室だ。アーテスだって何度も出入りしている。


「シュア、お仕事ご苦労様。ちょっといいかしら。教授たちには話は通してあるから」


 反応に困っていると、リレクが切り出す。

 ミモザはいたって平常運転で自分の作業に没頭しているが、同じ机のコタン先輩などは、横目でちらちらこちらを見ている。


「それはいいけど、何の用?」


 そうシュアが答えると、空気が一段と寒くなった。なるほど、リレクに対する周囲の警戒かとわかった。リレク、そこまで恐れられているのか。

 隣に立つ騎士に上から下までまじまじと見られていることに気づく。


「シュア、こちらの騎士の方にごあいさつを」


「は、はい、お初にお目にかけます。私、シュア・マドと申します」


 リレクに促されるままそう名乗る。

 女王騎士たちとは全員会った。とすると、年齢的にも最後の王女の騎士だろう。


「初ではない。任命式で私を見なかったと」


 射るような声。

 勘違いしていたことをシュアは知る。研究室の者たちの緊張はリレクではない。彼女にたいしてだ。

 だが、彼女を知らないことには変わりない。あのときは緊張していたし、そのあとの大騒動で正直よく覚えていないというのが実情なのだが。


「シュア・マド」


「はい」


「リレクが言うだけあるな」


 そう言われた。

 なんて返事すればいいのだろう。

 リレクを見るが無表情である。反応がいつもと違う。


「報告があるんだろう。済ませてくれ」


 オーラ女王に雰囲気が似ている気がする。そんなことを思う。


「では、失礼して」


 そう言って二人の横を通りコタン先輩のところへ。


「追加分の魔石の注文終わりました」


「そんなのいいから早くお二人のお相手に戻って」


 彼がそこで相手をしているのは王女なのに、やってきた騎士の方が優先されるらしい。だんだんはっきりしてきた。


「シュア・マド」


「はい」


「今日は私と過ごしてもらう」


「はい。わかりました」


「アーテス様にはお伝えしております。代わりの者がくるとのことです」


 リレクが言い添える。

 身をひるがえす謎の騎士。


「ではついてきなさい」


***


 研究棟を出、出口で止まっていた馬車に乗り込む。普通の馬車だ。王家の物でない。

 走り出すが、二人は御者に行き先は告げない。

 しばらく誰も口を開かない。謎の騎士は一向に名乗りもしない。

 学院を抜ける。謎の騎士が口を開く。


「シュアよ」


「はい」


「馬車は今王都へ向かっている」


「はい」


 何の話だろう。


「この道を引き返せばお前の身に災厄が降りかかるが、結果的にお前がいる研究所が良い方向へ向かう。しかしこのまま我らに従えば、お前には幸運が訪れるが、研究所は幸運を逃すどころか被害を受けるだろう。どうする?」


 だから何の話だろう。騎士の隣のリレクの表情はいたってまじめである。


「……それ以外の道は?」


「後者だ。お前が戻らねば研究所は危ない」


 思考実験? 試験だろうか。


「研究所はどの程度被害を受けます?」


「わからない。ただはっきり悪い事とわかること。かといって、学院や王宮が滅亡するほどではない。お前が不運を受ける場合もそうだ。死ぬほどでない」


 たいしたことなさそうに言っているが、最悪の想定が重い気がする。


「私が泣けば研究所にとって良いことに転じると」


「うむ」


「こうしている間にも研究所は悪い方向に向かっているということですね」


 自分はいい方向に向かっていることになるが。

 しかし騎士はそれには答えない。


「どうする」


「戻りましょう」


「それはなぜだ」


「目の前に馬車にひかれそうな人がいたらどうします?」


「注意喚起するだろうな」


「そんな時間がないとしたら?」


「人によるな」


 どうも質問が悪かったらしい。


「戻ります」


「わかった。このまま進もう」


 へ? ああ、思考実験だったのか。


「組織というのは、失敗の一つや二つあるものだ」


「つまり、研究所は大丈夫ということですか?」


「いや、私の見た目では何かが決定的なことが起こる」


「でも私が入れば、福に転じたと」


「だがどうもそのことが王宮にとってはマイナスになるようだが」


 余計わかんなくなってきた。というか話が見えない。何なんだろう。


「これは、何なのですか?」


「シュア、目の前のお方、わかる?」


「わかりません」


「正直ね。でも、ここではその気安い判断が死を招くことはよくある」


 言って謎の少女騎士は、制服の下に隠していた長い金色の髪を外に出す。

 それだけで周囲が華やいだ。騎士ではない。


「リリス・ランディア・エンベリスだ。お前の覚悟は見せてもらった」

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