91 彷徨う記憶
熱を出して寝込んでいたとき、頭の中に天祖原の昔語りが映像となって瞼の裏に映し出されていた。
熱に浮かされて見ていたのは、煌びやかな宮殿や、寺社のような屋根。金箔がふんだんに使われた太い柱。四角い石畳。
真っ直ぐな広い道路。
俺はただただ見せられる立場だ。あっちを見たいと思ってもできない。
この記憶を強制的に見せられる。
長く何年もたっているような、終わりがない平坦な世界をただただ見ていた。
夢の中の俺は疲れ切って、早く目覚めたい……と、ただそれだけを考えていた。
めまぐるしく変わる画面が、俺にめまいを起こさせる。
目を閉じている俺には、その画面から逃れられない。
そんなことを三日も続けられた。
ようやく熱が下がり、起き上がって身体を動かす。
ぐっと伸びをすると、ボキボキッと身体があちこちで音を立てた。
身体の各パーツが、あるべき場所に収まろうと動き出したような、そんな感じだった。
「あれが、栄華を誇った天祖原なんだろうな。すごく綺麗な都だった」
夢の中の俺は、あれほど逃げられないと焦燥感に陥っていたのに、今はすっきりしている。
俺が見せられたのは在りし日の天祖原だと確信している。
あの魔物の記憶なのだ。そして、その記憶が永遠に閉じ込められて彷徨っているんだろう。
あれは実態を持った記憶だ。生きているわけではないんだ。
俺の気持ちは、かくっと切り替わった。
「魔物に、悲壮感や戸惑いはなくなった」
これからの俺は、淡々と魔物を倒すことが出来るだろう。
グ~ッと腹が鳴る。
「ヨシッ、飯でも食うか」
「第三班! 班長前へ! コウタロウ部隊長に、敬礼!」
俺の前に七人の異能の兵士、魔法兵が集合した。
この魔法兵士たちは十五歳とまだ若い。これは魔核を取り込んでから日が浅いためだ。成長期が過ぎた兵士は、魔核を取り込んでも効果は限定的だが、この目の前にいる若者たちは魔素が身体に馴染んでいき成長していくだろう。
俺のように幼い時期に魔核を取り込むものはこれからも出ないだろう。自我が確立しないうちから魔核を取り込めば、反対に取り込まれ、魔物の記憶だけの存在になってしまうと、今の俺は確信している。
これから彼らを率いて、俺自ら天祖穴へ入る。
「今日は徹底的に魔物を殲滅する。その後魔核の採集」
「「「はっ!」」」
最下層の上、三層に着いた。
若い魔法兵はもう慌てていない。
じっくりと剣を構え直し魔物たちを追いかけて消し去っていく。
魔法は身体強化だけと徹底されてきた。
彼らは剣の腕も磨かれてきている。頼もしく見惚れていたが、俺も急いで魔物殲滅に加わることにする。
逃げ回る魔物たち。何も抵抗できないそれを追い詰め、一刀のもとに斬り伏せる。
隅に魔物たちがかたまり、ぼんやりと立ちすくむそれらを、よってたかって切り伏せるだけの機械作業だった。
消された……魔物は三百体ほどだった。
その後魔核を集めて回る。
この、天祖穴には魔素が詰まった魔核が多い。今日は二十個見つかった。
これで力ある魔法兵が、また増えることになるだろう。
そしてまた明日も、その次の日も、同じことを繰り返す。
同じ魔物が復活するからだ。
生きてもいない過ぎ去った記憶の残滓。それが魔物の正体だから。




