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90 迷宮の魔物

魔物の殲滅は魔法兵達に任せ、今日は久々の休暇だ。

二ヶ月ぶりに実家へ帰り、野良仕事を手伝う。ジロウはもう一人前だ。

俺とは七歳違いなのだが、魔法世界へ行っている間に年齢差が縮まった。

何歳違うか俺には――計算できない。


五年と三年合わせて八年? ジロウは俺より年上ってことになるのか?

俺にとってはサブロウも、急に大きくなったように感じる。

幼児だったのに、今はラヌビスと一緒になって走り回っているのだから。


ラヌビスはすっかり犬になりきってしまった。

俺といるときは話しかけてはくるが、話し方もスムーズになっている。

ここの水が合ったのだろうか?


「ラヌビス、皇に戻りたいと思うか?」

「いや、我の寿命は残り僅かだ。国をまとめる野心は消え失せた。元々はこの世界に落ちて生き残るために皇となったのだ。もういいだろう……」


そうか、そうだった。こいつの寿命は尽きかけていたのだった……。


「あと何年生きられるんだ?」

「せいぜい百年ほどだ」

「百年……そうか、ずいぶん長生きだなっ!」


しんみりした空気が一気に抜け落ちてしまった。

なにが残り僅かだ。十分じゃねぇか。俺より長生きするに違いない。


二日の休暇も終わってしまった。

またあの、気鬱になりそうな天祖穴へ入る時が来た。

俺には一つ、気になる魔物がいた。

俺を見かけると、いつも話しかけたそうに寄ってくる魔物だ。


魔物にしては異常な行動だ。異能には近寄らず逃げていくはずの魔物が、小首をかしげてじっとこちらを伺い、目で追うのだ。

巫女のような格好をしたまだ若い女の魔物。

一体どんな生い立ちだったのか。

俺は意を決して今日こそは、あの魔物に話しかけてみようと思う。

俺の頭に、春の言祝ぎで村長に語ってもらった昔語りがぼんやりと浮かんだ。


 「その昔、天祖原(あまのおやはら)という国あり。


  国を統べるは、神と交わりし人神なり。


  人神は、我が子らを深く愛で、民もまた神を畏れ敬いき。


  天祖原は豊かに栄え、田は実り、川は澄み、


  民は地に満ち満ちて、歌と祈りの絶えぬ国であった。


  されど、栄えの影には、静かなる兆し潜みき。


  或る年の暑き日、空気は重く、風は止み、


  鳥らは一斉に声を失いぬ。


  その折、地に、暗き穴ひとつ現れたり。


  初めは掌ほどの小さき口なりき。


  されど、覗けば底知れず、冷たき息を吐き出せり。


  人神これを忌み、禍の兆しと悟られた。


 「この穴、放つべからず。速やかに滅せよ」と命じらる。


  民らは火を持ち、縄を持ち、勇みて穴に挑めども、


  暗き口は火を呑み、縄を裂き、日ごとに育ちていきたり。


  やがて穴は丘を呑み、森を呑み、


  ついには天祖原そのものを呑みき。


  国の光は一夜にして失われたり。


あの魔物はこの話を伝えたいのか……それともただの変わり種の魔物なのか。


その夜、俺は一人で天祖穴にもぐった。

毎日魔物を殲滅しているため、魔物は少ない。

三階層まで一気に走り抜け、目当ての階層に入る。

広い空間にポツポツと魔物がいてぼんやりと歩き回っている。

たまに魔物が湧き出しているのが見える。魔核がパシュッと弾け、もやもやとした黒煙が立ち上る。


その煙が段々と形をなし、一人の剣士に変わった。

剣士が持つ武器は真っすぐな片刃剣だった。持ち手を入れても百センチくらいだ。

靴は先が反り上がったかるそうな革靴。上半身だけを覆う鎧額には広めの鉢金だけ付けている。

左利きなのか、左手に剣を持ち、刃は鈍い色をしていた。

俺は立っていた場所から動かずじっとして見ている。


剣士はゆっくりと振り向き、俺の方をぼんやりと眺め、そして走り去った。

俺も三階層を歩き回り魔核を探し回った。

この新しく出来た迷宮には死にかけの魔核の卵が少ない。


魔素の気配を辿り、出来たばかりの魔核を手に取る。

俺は、何度かこうして観察しにきている。

出来てから三日くらいで核が固まり魔物に変化するようだ。


そのままにして観察すると、飛び上がって階層の出口を目指していくもの。

その階層に留まり、ひたすら階層内を飛び回るものと分かれている。


どういう基準なのかは分からないが、この地の記憶に惹かれる魔核だけが、この階層に留まるのではないのか?


魔核とは一体何だろう。魔素の詰ったものではあるが、あの最下層の黒い玉が放出しているのは分かっている。


魔素の大本はあれなのだろう。

では、あれは、あの黒い玉は一体何なのだ?


考え込んでいる間に時間が過ぎたのだろう。俺から遠ざかって遠くの方に魔物が塊になって数倍くらいになっている。


ふと後ろを振り向くと――いた! あの変わった魔物だ。

俺の数メートル後ろに出現してこちらを見ている。

小首をかしげ俺の額をじっと見ているようだ。

俺も意識して魔素の気配を辿ると魔物と繋がったように感じる。


俺は静かに近づき、巫女と思える魔物の頭に手を乗せた。

すると彼女の記憶がなだれ込んできた。


あまりにも断片的な記憶の欠片。繋がりや前後も脈絡もない記憶。俺はサッと手を放して、一目散に迷宮から抜け出した。

それから三日間熱を出してしまった。


「頭を使いすぎたんだな……」











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