86 帰郷
元の四階層、今は三階層……かな。
そこに入ろうとしたら、背負っていたラヌビスが
背中から抜けて黒い入り口の外側に残されてしまった。
「やっぱり、ラヌビスは弾かれるんだ!」
どうするか考え――急いで卵を探し出し飲ませることにした。
卵を手に取って二階層に戻ると、ラヌビスが魔物に襲われそうになっていた。
二階層に魔物は数えるほどしかいなかったが、それでも襲われている。
「こんな感じで、魔物は盗掘者たちを襲っていたのか……」
俺は急いで魔物を蹴散らし、ラヌビスの口に魔核の卵を流し込んだ。
ラヌビスは目を覚まし、すごく抵抗した。
足を振り回し、吐き出そうとする。
俺はラヌビスの口を押さえて、シュワシュワする魔核が喉を通るのを待った。
ごくっと音がして、その後舌をだらんと垂らし、涎が大量に流れ出す。
「こ・・・う・・・グフッ!」
「分かったって、まずかったんだろう。でも、これを飲まないと一緒に行けないんだ、分かった?」
ラヌビスは、涙目になりながらもコクリと頷いたので、水を出して飲ませてやる。
しばらく経って落ち着いたラヌビスを連れ、そろりと四階層の入り口をくぐる。
ラヌビスもついてこられた――よかった。
おっかなびっくりの足取りで、恐る恐る抜けてきたラヌビス。
魔物がいないか確認しているんだろう。
ここにはたくさん魔物がいる。
ビビりまくるラヌビスだが、自分には寄ってこないと分かると安心したようだった。
だけど、これからが問題だ。
最下層の黒い玉。あの中にラヌビスが入れるかどうか。
ラヌビスを荷物みたいに抱えて入ればどうだろう。
異界からの荷物は持ってこられたんだ。何とかなるかもしれない。
最下層の入り口をくぐり、直径五メートルもある黒い玉の前に立つ。
玉は硬質な輝きのまま、たまに意識があるような、命があるような脈動をしている。
光が黒い玉の表面でギラリと瞬き、その後、ぬらりと何かが中で蠢いた。
俺は荷物からサッシュを取り出した。
アコライトの時に、腰に巻いて司祭服を縛っていたものだ。
荷物と一緒にラヌビスを縛り、背中にくくりつける。
「う゛ぃーだ、えーと……ルㇽㇽナ。浸潤!」
黒い玉の中に踏み込む。俺の足はスルリと入り込み、ずるずると引き込まれていった。
飲み込まれるような不快感、一瞬、弾かれそうになるが踏ん張って耐えた。
背中ではラヌビスが俺にひっついている。
「大丈夫そうだ、このまま真っすぐ抜ければいい」
真っ暗で目指す目標はなかったのに、俺の方向感覚が「あっちだ」というふうに教えてくれた。
「ん?」
かすかな揺らぎが感じられた。
何だろう――引っ張られるような感覚がある。
もう一歩踏み出すと突然、外に投げ出されてしまった。
俺が飛び出した場所は、元の最下層。
「サンクチュアルの最下層に戻ってしまったのか……やっぱり無理だった……」
俺は、背中のラヌビスを下ろし、荷物を背負い直した。
「帰ろう神殿へ。お前のことは内緒にしてやる。だが、もしまたデルードに何かしたら、すぐに、殺す! 分かったな」
「うっ……わん」
犬かよ! 思わず突っ込んだが、考えてみればこいつは犬だった。
ウルウルとした目で見つめるラヌビス 。
このまま犬として生きて行ってくれたら、それで良い。
ため息を一つして、俺は最下層を抜けて上の階層へ行く入り口をくぐった。
すると目の前には、ぼんやりと彷徨う亡霊たちが百体ほどいた。
今まで見たことがないベスタだ!
「どうなっている? 魔物が変わった?」
このベスタは昔の服を纏い、まるで俺と同じ種族の”人”に見えた。
適当に間引きながら、たまに魔核の卵も拾い、次の階層への出入り口を探す。
いつもの場所とは違う場所に出入り口が移動しているようだ。
なんとか出入り口を探しだし、通り抜けることができた。
「ダンジョンがまた変化したのか。まったく面倒だな」
上の階も、様子が変わっている。だが問題はなさそうだ。いつもの草原に少しだけ変化が見られる程度だ。
俺は遠くに見える出入り口の渦を目がけ走り抜ける。
ラヌビスも、卵の効果が出てきたのか普通の犬の様に走ってついてきた。
やっと砂漠の階層に辿り付いた。ここは変わっていない。
ここまで来るのにずいぶん時間が掛かってしまった。
早く帰らなければ、朝が来て魔女たちが起き出す。
パパスたちにも問い質されてしまうだろう。
急いでサンクチュアルの門を抜けると、そこはヌアタラの遺跡だった。




