85 ラヌビスの正体
俺は、サンクチュアルに入った。
今は夜だ。サクラの司祭と長いこと話し込んで夜がふけてしまった。
だけど、これでいい。みんな寝てしまった頃だろう。
急がず、慌てず、ゆっくり進む。
この頃は盗掘者がいないため、見張りもいないが、いつ誰が見ているか分からない。
気配を消してもよかったが、何となくそれは止めておいた。
周りは魔女だらけだ。今までだって俺の気配に気付かれていたかもしれない。
下手に魔法を使えば、返って感づかれてしまう。
魔法を習い、ある程度分かってしまった今は、魔法を使えば相手にも感知されると言うことが分かった。
今まで俺がやってきたことは、危ない橋を渡っていたことになる。
「魔女たちは、知らないふりをしてくれていた?」
深読みかもしれないが、用心する。
誰か着いてくる!
俺は振り返った。そこにいたのは、ラヌビスだった。
「何だよ、驚かせるなよ」
「わ・・・し・・・も・・・い・・・く」
「お前も? ダメだ。お前にはサンクチュアルを通れない。四階層も危険なんだ。だからノビスの集落へ帰れ」
「み・・・ず・・・あ・・・わ・・・な・・い」
こいつ、水が飲みたくて俺について来るって言うのか。
確かにここの水は硬水だ。
飲めば腹を壊すだろうし、ワインで薄めた水もラヌビスは飲まなかった。
「お前、以前はスパルタンの人に飼われていたのではないのか? あそこの水もかなり硬かった。どうしていた?」
「か・・・が・・・く・・・て・・・き・・・しょ・・り」
「かがっくて、きっしょーり? かがんで勝利した?」
よく分からなかった。とにかく、あっちでは飲めていたって事だろう。
まあ、四階層に入れば着いて来れなくなる。そうなれば諦めてくれ砂漠地帯を抜けようとした頃、ラヌビスが倒れてしまった。
気を失ってしまったようだ。熱中症って奴か?
仕方なくサンクチュアルの外へ戻り、置いてこようと抱き上げた。
その時ラヌビスの考えが頭に染み込んで来た。
【儂は、スパルタンの皇だぞ! 魔女の巣窟に置いて行かれては溜まらん】
俺は、はたと立ち止まり、腕の中の犬を、まじまじと見た。
――皇は、生きていた。犬の姿に擬態して。
このままエスタルゴスには置いておけなくなった。
神殿にはデルードがいる。
この犬になってしまった皇は、未だにデルードを狙っているのか。
こいつをここで、殺してしまった方がいい!
だが、一緒にいる間、愛着が湧いてしまって、俺の手は震え、手に掛けることは出来なかった。
「いいさ、まずは魔核をこいつに飲ませて、サンクチュアルの黒い玉に入れるかどうか試そう。こいつが通れるとは思えないが、それならそのままにして置けば良い」
だけど、それで良いのか?
こいつのせいで異界のヌエタラがおかしくならないだろうか。
魔核を飲ませたら、ベスタを倒せてしまう。
そうなれば、サンクチュアルを出ていって、
デルードにまた執着し始めるかもしれない。
俺はそこで、にっちもさっちもいかなくなってしまった。
まずはラヌビスの話を聞くしかない。
ラヌビスの頭に手を添え、詳しく調べてみることにする。
気を失っている今がチャンスだ。
俺は心を無にしてラヌビスの頭の中を覗いた。
【もう機器が壊れてしまった。次元に穴は開けられない。
故郷へは戻れない……残り少ない命このまま朽ち果てるのみ……
せめて水が、美味しい水を飲んで死にたい……】
――ヌアビス……めちゃくちゃ弱ってるじゃん。
これではあまりにも、かわいそすぎる。
仕方がないやるだけやってダメなら殺す。
今のこいつは残り少ない寿命しかないらしいし、力も無くなったのだろう。
しかし、機器? こいつも異世界から来たのか。
しかも科学文明が発達した世界から。




