82 大司祭ルナリア
デルードが言った「光の形態の魔法」というのにベルーダは食いついた。
「皇は、光を操っていたというの? 私達とは少し違うようね。月の女神アル・テミーラとは違い、太陽神を祀っていた、そういうことかしら」
「祀っていたかどうかは、定かではないです。ただ国民は太陽信仰なのは確かです」
どういうことなのか分からない。
ベルーダにとっては信仰とはすなわち力の源だったからだ。
だが、スファルタン帝国の皇が使う力の源は光だという。
皇は太陽神とは名乗らず、光の力を利用すると皇自身が言った、とデルードは話った。
神と崇められていたスファルタン皇は、亡くなった。
デルードの印が消えたのがそれを物語っていた。
「あなたは、皇とは踏み入った話をしていた、そうなのね」
「ええ、私には何でも話してくれました。王の側近よりも、よほど信用されていた、そういうことなのかも知れません。印を付けたせいで逃げられないと思ったのでしょう……」
――デルードにとっては、死刑宣告のようなものだわ。彼にとって、なんと辛い時期だったのかしら。
ベルーダは、彼に一目置くようになった。
自らの命を省みず、メルカ神官と通じて謀反を起こさせ、さらにサクラたちまで救う手伝いもしたのだから。
「今回のあなたの働きは、昇格に値する。どう? 私と同じプリエステになる気はある?」
「……私が……プリエステに……」
「ええ、魔法の力は十分だもの。少し若すぎるけど、大丈夫。私が大司祭様に推薦する」
月の神殿では、女性神官がほとんどを占めていた。
男性が地位を持つということは非常に稀だった。
魔核は、不思議なことに女性か飲むと力が多くつくためだ。
デルードはそういう意味でも珍しい男性司祭だった。
「もうひとつ、懸案事項がある。コタルㇽッロのことよ。彼は、異界へ戻りたがっているようなのだけれど……私としては、彼の力をもう少し観察したいの。今、魔法の本の写本ができていないと言って引き留めてはいるんだけど」
「それは酷ではないでしょうか。帰してやってくださいませんか。きっとまた戻ってきます、彼なら」
「そうね……コタルㇽッロは、サンクチュアルで魔核を採集しているわ。戻ったら一度話をしてみましょう」
「はい、そうした方がいい。だまし討ちのような真似をすれば、帰ってこなくなりそうです」
「……」
その後、ベルーダは大司祭ルナリアと話し込んだ。
ルナリアは七十歳の魔女で、この国では唯一、治癒の魔法が使える希有な魔女だった。
その力のお陰で、今の地位にいる。
三十歳からずっと、神殿の頂点に立っているのだ。
「ルナリア様。サクラたちの治療がつつがなく終わり、ありがとうございます」
「ほ、ほ、わらわのただ一つの特技じゃ。役に立ってよかった。この頃は特権階級ばかりが、些細な怪我で治癒を求めて来て困っておったがのう」
「もう少し治療費を上げましょうか?」
「そうしてもよいかものう。あまりに頻繁だと、いざというときに魔素切れで役に立たんやもしれぬ……」
「ご冗談を」
「ほ、ほ、かのコタルㇽッロほども魔素が濃ければ問題はなかろうが……冗談ではないのじゃ」
「実は、そのコタルㇽッロには治癒の力があるようなのです。どうでしょう、鍛えてみられては」
「ほほう、今までどれほど探しても見つからなんだ光の特性があると申すのか」
「いえ、光の特性ではないように思われます。ですから引き留めて観察したいと考えております」
「異界の者の特性、やも知れぬの。鍛えてみてもよいかも知れぬ」
「コタルㇽッロから話を聞いて、私なりに考えた結果なのですが――どうやら、幼いうちに魔核を入れ、その後さらに魔素の濃い魔核を取り込めば、魔素の量が増えるようです。その過程で、治癒が付いたのではないかと……」
「それは……あまりにも危険じゃ。例え孤児に試すとしても……いかんぞ、ベルーダ」
「はい、承知しておりますが。このままでは治癒の使い手が一向に増えません」
「……わらわの場合、魔核を取り入れた折、怪我をしておった。些細なものだったがそのせいかもしれぬ。もう一度よく精査してみよ」
「はい」
ベルーダは、コウタロウをどうしても研究したかった。
彼を引き留めるためのひとつが、今手に入った。
「治癒の魔法は、まだ魔法体系に組み込まれていないわ。本にも載っていない。治癒を学べると言えば引き留められる。きっと」




